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魔道具店への来訪のこと。

魔道具店では、オーナーであるサルサリアの大物術師やデルタ卿が挨拶したのち、スティグマが店舗部門や研究部門の案内をすることとなっている。

俺はミューさんと一緒に、説明員の一人という立場で参列するはずだった。


が、朝になって、デルタ卿の使いが伝えてきたのは、宝石公女を数名同行してほしい、とのメッセージだった。


「宝石公女ですか? 連れて行くのは構いませんが、魔道具店との関係は、どう説明しましょう……?」


「いえ、それが、リュシーナ公女からの要望らしいのです」


「了解したと、お伝えください。四、五人を、お連れします」


ま、使いの人間に言っても、彼が判断できることではないだろう。

デルタ卿自ら来たわけでもないと思えば、ややこしい話ではなさそうか。


「パイロペ、リュシーナ公女にご挨拶できる機会だ。誰を連れていく?」


「そうじゃな。儂とアラゴン、カイア、あとはパイロアでよいか? 戦闘はないと見てよいのであろ?」


「ああ、大丈夫だ。あの魔女が暴れるつもりになったら、そのときは街の大半が吹っ飛んでるさ」


「ちっとも大丈夫に聞こえんが」


パイロペ達は、先日揃えた肩掛けを、礼装という扱いにしている。

俺は、いつもの衣装は戦闘衣っぽいので、術師っぽいローブを上からかぶっておいた。

礼装感はあまりないが、魔道具店の従業員なら、こんなもんだろう。


「それじゃ、行くか。アウィネア、留守をよろしくな」


「はい。いってらっしゃいまし」


飛行盤に四人を乗せて、路地を歩いていく。

近所の人間は、もうその光景にも見慣れたようだ。

道端で遊んでいた子供が手を振ってくるくらいで、大人はもう反応しない。

順調に馴染んでいるようで、よいことだ。


魔道具店に着くと、もう出迎えの準備はできていた。

裏手に回ると、散らかっていた研究部門のエリアも、ずいぶん綺麗になっている。

中に入っていくと、そわそわしながら入り口の方を眺めているミューさんを見つけた。


「あ、ミューさん、おはようございます」


「おはようございます、ツヴァイさん」


「今日は、無理言って席を作ってもらって、すみませんでした」


「いいえ。なんだか、リュシーナ公女の興味は、うちの店よりもツヴァイさんの方に向いているみたいですよ」


「へぇ。そうなんですか?」


「もともと、うちに並んでいる魔道具なんて、帝国製のものに比べれば、劣化複製品みたいなものですしね。精霊石だって、数はあるかもしれませんけど、大貴族からしたら、身の回りの品に使うようなレベルのものですし」


「えらく卑下してますね。サルサリアの城壁や宝物庫などは、大したものなんじゃないですか?」


「それは、そうなんですけど。結局、サルサリアで優れたものなんて、みんな転生者が作ったものばっかりで、今の私たちはそれを引き継いで使ってるだけなんですよ」


「ふーん。なんだか、わりと帝国にコンプレックスみたいなのがあるんですね」


「だって、公女なんて、あんなに若くて美少女で、大貴族の娘で、おまけに精霊術も付与術も超人並みで……」

帝国というより、あの魔女への劣等感でしたか……


「いやあ、あの方は、普通の人間と比べてよいものかどうか……」

俺が言うのもなんだけれど。


「そうねぇ、一応、私も人間なのだけれど」


後ろから、少女の声がする。


「うっ」「ひっ」

俺とミューさんは、奇妙な声を上げながら背筋を伸ばす羽目になった。


「おはようございます、陽光殿、ミューさん」


そこに立っていたのは、リュシーナ公女だった。


「お、おはようございます、リュシーナさま」

「お目にかかれて、光栄です」

店の入り口の面々は、何をしていたのだ!


「ふふ、そんなに固くならなくてもよろしくてよ。私は、近々貴族ではなくなるのですから」


「へ? そうなんですか?」

ミューさんが、問い返します。


「イジュワール学院は、平民しか入学できないのです。私は、貴族位を返上する手続きをしている最中という扱いで、在籍しています」


「まだ返上が済んでいないなら、公女様なのでは?」


「今はね。でも、気持ちはもう、貴族ではありませんよ」


「貴族でないなら、このお出迎えは、いささか大仰な扱いですね」

ちょっと意地悪なことを言ってみる。


「貴族でないからと言って、私も術師としてはなかなかのものよ? そこには敬意を払ってもらっても、構いませんから」


「あ、はい」

その力が計り知れないということは、既に思い知らされている。

しかし、貴族には似つかわしくなく、思ったことを話してしまう人なのだろうか。

いや、そんな性格でもなければ、帝国の方針に異を唱えるなんてこと、しないか。


それにしても。

「貴族位の返上中とお聞きしましたが、失礼ながら、リュシーナ様は相当に高位の継承者ではありませんでしたか? 学院に入るためとはいえ、そのようなことが許されるのでしょうか」


「うーん。その辺りは、我が家の中の事情ですけどね」


ですよね!

「は。出過ぎた問いを口にしました。お耳汚しをお許し下さい」


「そんな話し方しなくても、大丈夫ですってば。ま、一言で言えば、私の我がままね。でも、いずれ大した問題ではなくなるから、いいのですよ」


「はあ……。」

分かるような、分からないような。いや、分からないな。


「それで、そちらにいらっしゃるのが、宝石公女、の皆さんですか」

リュシーナ公女は、腕組みをしてパイロペ達を見下ろしている。


あれ……? なんだか、冷たい目つきと口調、だな。

興味があるというから、わざわざ連れて来たのに……?



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