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使節団の拠点のこと。

再開に伴って、タイトルを変更しています。

中身を説明するようなタイトルの方が分かりやすくて良いかなと思ってましたが、「僕は、剥奪術師」の方で、分からないようなタイトルでも読んでもらえることが分かったので、もう少しシンプルなものにしたくなったというだけです。


魔道具店への公女の訪問は、四日後とのことだった。


それまでの間を利用して、宝石公女の使節団の諸々を整えており、今日は、ささやかながら拠点となる事務所を借りに来ている。

パイロペ達が。


俺一人の身一つなら、街だろうが夜だろうが別にどうとでも過ごせるし、実際そうしてきたのだが、変身したり空を飛んだりできない宝石公女らはそうもいかない。

それに、これから荷物も増えるかもしれないし、誰かが連絡をつけたいこともあるかもしれないという判断だ。


「それでは、月当たり八百Gと、最初の保証金が四千Gということで、契約させていただきますニャ。」

アラゴンが契約書の内容を確認し、パイロペがサインしている。

相手は商業ギルドの不動産部門の担当者である。


八百Gというのは、食べ物の価値から大まかに換算すると、前世の八万円くらいだ。

裏通りの十五平米くらいの質素な建物で、サルサリアの物価からすると、格安物件である。

設備系の魔道具が何もないので、普通ならば魔道具から揃える必要があるのだが、宝石公女は、飯も食わなきゃトイレにも行かない。

建物が傷んでいるのは、精霊術で手入れできるだろう。


アラゴンには使節団への出資として十万G程の資金を渡してある。

今までの貢献度からすれば、足りないくらいだが。

普通に考えれば、俺達ほど稼げる冒険者が借りるような物件ではない。

だが、あえて格安物件を選んでいるのは、宝石公女達に、経験を積んでもらうためだ。


サルサリアは洗練された商業都市だ。

人間だろうと宝石公女だろうと、金さえ払えば、大抵のことを代わりにやってもらえる。

得意分野で金を稼いで、不得意分野は他人に頼む。

人間であれば、それでいい。


だが、パイロペ達は、自分達が人間にとっての対等の交渉相手だと認めさせなければならない。

そのためには、金を払ってやってもらうだけではなく、人間の社会がどうやって動いているのか、それを学んでもらう必要がある。


例えば、保証金が四十万円と高いのは、宝石公女達の名義で契約をすることにこだわったからだ。

相手の担当者には、名の売れた()()()冒険者である俺の名前を使えば、保証金は千Gで済むと言われたが、あえて俺の名は貸さなかった。

信用というのは、その名前で取引を繰り返さなければ、積みあがらない。

名義を借りて目先の計算を有利に出来ても、私本人には信用がありませんので、と自分で宣言しているようなものだからな。


それに、高すぎない家賃のエリアで物件を借りれば、近所にも、立ち上がったばかりの個人の店なども多いということになる。

組織を運営するということがどういうことなのか、良くも悪くも見本となるような出会いが身近にあるはずだ。


そんなことを考えながら眺めていると、パイロアが、その脇でギルドのカードを取り出して何やらしており、担当者が「はい、保証金を確かにいただきました。引き落とし口座の登録も、問題ありませんね」と応じていた。


お? なんか、俺も知らないような便利な決済の仕組みがあるのか……?

アラゴンはともかく、パイロアなんてこっち来てそれ程経っていないはずなのに、こういうの、いつの間に、覚えたんだろうな……? スキルの一種なのか?

俺なんて、冒険者ギルドで報酬貰うのと、鍛冶ギルドで精霊石を買ったことがあるくらいで、この街の暮らしの仕組みなんて、ほとんど縁がないまま過ごしてきてしまってるんだが。

偉そうなこと考えてる俺、ひょっとしてカッコ悪い奴か……?


それはさておき。

鍵と魔道認証を受け取って、無事に部屋の引き渡しを受けたようだ。


パイロペが、さっそく看板を掲げているな。

まだ正式名称がないが、小さく控えめな看板で「公国使節団」としている。

中はまったく空っぽだ。


俺はまだ人間だった時のなごりがあるので、ソファに座ったり、ベッドに横になったりすることに多少の気分の変化を感じるが、石の精霊だった彼女らにとっては、札を通じて知識としてはソファやベッドのことを知っているだけで、過ごすために必要なものではない。

精霊の里もそうだが、人間向けの設備の扱いは、どうしても後回しになってしまうのだ。


夜遅くまで外をうろついていると悪目立ちするので、昨晩は普通の宿に泊まってみた。

ベッドに横になった俺の周りに、皆が並んで座っていたのだが、朝になって部屋に入ってきた宿の従業員が、「ひぃ」と声を上げたのが印象的だった。

失敬な。


部屋の内装の色合いや雰囲気については、それぞれに意見を主張していた。

石の精霊も、色には感じるところがあるらしい。

だいたいは、自分に近しい色を推していた気がする。


最後は、「陽光」にあやかって白い漆喰を中心に、団長であるパイロペの深紅でアクセントをつけ、残りのメンバーについては、部屋に並べる家具や小物で、それぞれの色や趣味を反映させるということで決着となった。

壁の漆喰は、事務所開きのお祝いとして土魔術で施工してやった。


家具や小物は一人一人で買うことになったのだが、これの買い物に付き合うのは、なかなかの仕事になりそうだった。


要するに、俺達は、久しぶりにゆっくりのんびりとした時間を過ごしていたのだ。


緋夜や銀晶が、警告してくるまでは。



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