黒曜の壁のこと。
斬鉄……が通じない、だと!?
濁り魔石を覆う光、これが何かの力なのか……?
「カイア、黒曜石と言えば、ガラスのようなものだろう? そこまでの力を持つ石とは思えんが……?」
「黒曜石は、通常精霊を宿さない。ただし、ごく稀に精霊が宿るとき、その身を削るには金剛石が要ると言われている」
なんだよその設定。
どこの採掘ゲームだよ、黒曜石が最硬で、熱にも衝撃にも崩れないってか。
宝石公女とは別の、ユニークスキルみたいなものか……?
何にしろ、ダイア装備なんて無い。
なら、こうか。
「緋夜、来い。お前の力を、貸してくれ!」
眷属憑依を発動させる。
緋夜を憑依させて行動することなど無いと思っていたから、これが初めて、ぶっつけ本番だ。
緋夜が両肩に手を載せたのを感じると、赤い光が俺の体を包み込み、さらに力が流れ込む。
体はさらに大きく、赤い蝙蝠の翼、銀の髪には赤色が交じり、もはや悪魔のごとき姿となっていく。
「皆、魔道具の攻撃を散らしてくれ。カイア、手伝え! パイロペの時の、あの方法だ」
アウィネアやラズが身を挺して魔道具の攻撃を引き受ける。
カイアと一緒に、濁り魔石に直接触れる。
カードを包み込む濁り魔石の塊から、魔石だけを抽出し、その魔石でカードの周りを囲むように組み替えていく。
オブシーデの攻撃は、そのまま受けて超回復で誤魔化す。
回復はしているが、焼かれ、裂かれる痛みはある。
二重の憑依で引き上げているステータスにもかかわらずダメージを与えてくる斬撃は、黒曜石の切れ味を示しているのか。
カイアの体で食らったら、ひとたまりも無いだろう。
血の本体で作った触手でカイアへの攻撃をさばいているが、受け流しきれずに断ち切られることもある。
うねうねしながら、体に戻ってくるんだけどな!
そして、濁り石の塊の中に、カードを収めた魔石の筒が出来上がった。
俺が触れると、魔石はポリゴンと化し、空洞が貫通する。
オブシーデ、お前の望みはいったい何だ。聞かせてもらうぞ。
手を伸ばし、カードを掴んで壁から引き剥がす。
ようやく、魔道具達も沈黙した。
が、超回復の過程で俺も濁り魔石を取り込んでしまったようだ。
眷属憑依を何とか解除したものの、猛烈な吐き気とめまいに襲われ、俺の意識は真っ白い霧の中に包まれていったのだった……。
目が覚めると、大きなモフモフの塊の上で、緋夜の膝枕で横になっているところだった。
丸くなっている銀晶か。
カイアも、脇で横になっている。
うえお、体がまったく動かん。
「濁り魔石の酔いが酷いので、体の方は麻痺させて、最小限の部分だけ浄化しています」
緋夜が、おでこの辺りを撫でながら説明してくれた。
「そうか。静かだな。ほかの連中はどうした?」
「奥の部屋に向かいました。もう、大きな戦力は残っていなさそうです」
ちょうどそこへ、宝石公女達が一人の男を囲むようにして戻ってきた。
俺が目を覚ましているのを見て、パイロペが声をかけてくる。
「ツヴァイよ、スティグマを確保したぞ。奥の部屋に捕まっておった。どんな弁明が聞けるか、楽しみであるの」
「乱暴はするなよ。体が動かないので、横になったまま失礼する。
重要な関係者だが、犯人そのものって訳でもないんでしょう、スティグマさん」
「弁明をさせて戴けるとは有り難いね。ひどい目に遭ったよ」
ぼさぼさの髪にヨレヨレのローブ、目の下にはクマが出来ているが、改めて眺めてみても、普段と大差ないな。
「シーラ、ちょっと手当してあげてくれ」
回復というより、ニオイ的な意味も含めて。
「で、この騒ぎは一体どういうことだったんです?」
「そうだな。実際に俺が利用されたのは、最初の召還くらいなものだが……。ああ、あの店から石やら魔道具やら札の材料を持ち出すのに、俺の認証が使われたのか」
「あなたもそれなりの術者なのでしょう。無抵抗に拘束されたというのはちょっと信ぴょう性がありませんけど?」
「まあな。石の精霊達が、この場所で何をしようというのか、そこには興味があったからな。途中まではおとなしくついてきたという面は否定せんよ」
潔いな。
ま、この遺跡を探索すること自体は別に犯罪でも何でもないからな。
「石の精霊達は、自分で札を作ったり召還をしたりしていたのか?」
「そうだな、俺の目の前ではやっていなかったが、札の材料を持ち込んでいたからな」
「悪びれた様子はないところをみると、石の精霊達がどれくらいの戦力を持つようになっていたのか、知らないみたいだな」
「戦力か? お前さんと契約しないと、術の類は使えないんじゃないのか?」
「その様子では、濁り魔石の生き砲台のことも知らないか。
じゃあ、次はオブシーデ、お前さんに尋ねよう」
オブシーデのカードは、まだそのまま残っている。
濁り魔石からは引き剥がされたので、もうほとんど火力はない。
その気になればカードから離れて石の精霊の国に戻ることはできるはずだが、そうしていないということは、思うところがあるのだろう。
「オブシーデ。お前達は、この遺跡を押さえて何を目指していた?」
「私達には、力が必要だった」
「何のために」
「……私は、私の仲間を救い出すために」
「仲間とは、どういうことだ」
「私の一族で、精霊を宿す者は少ない」
「俺も、そう聞いた」
「精霊を宿した黒曜石は、無類の強固さを誇る。サルサリアの宝物庫は、黒曜石で作られたと聞いた」
「ほう。宝物庫の、中身ではなく外側を破壊しようというのか。しかし、その話、誰に聞いた?」
「そこの人間だ。私が黒曜石の一族と知って、嬉々として教えてくれたわ」
スティグマに視線が集まる。
「どれほど黒曜石の精霊が珍重されているかの引き合いに、例を挙げただけだ」
「他の石も、その話に協力しているってことか?」
「それは私の望み。他の石達は、それぞれに狙いがある。お前は、これからも人間のように暮らすのか」
「どういうことだ?」
「お前は、吸血鬼の皇子だろう。人間を利用することはあっても、人間として生きることはあるまい」
「そうだな。だが、今のところ、俺は人間と敵対する理由はない。それに、破壊すれば精霊の解放につながるという考え方は、俺は納得できない」
「破壊すればいいとは、考えていない」
「そうなのか? じゃあどうするつもりだ」
「西の帝国に、封じられた精霊の声を聴ける人間がいるという。その者を、探すつもりだった」
「そんな術者がいるのか? 西の帝国のことなど、よく知っているな」
「俺が話した」
またお前か。
「扱いのわりに、信用されているのだな」
「扱いとか言うな。俺も、こんな扱いを受けて傷ついてはいるのだ。
西の帝国では、精霊石を用いた付与術が高度に発達している。その技術を支える要素の一つが、精霊との対話の能力だ。
封じられた精霊は、通常は品物の一部となって意思を表すことはなくなる。だが、その精霊の内なる声を聴くことができる者達が、ごくわずかだがいる。
とはいえ、その者達と交渉を持とうと思えば、こちら側にも相応の材料が必要だ。そして、端的に価値があるのは、お前達自身だと、伝えたのだ」
「それでは、今回の騒ぎのきっかけを作ったのは、やはりスティグマということになるのであろ?」
俺も、そんな気がするな。




