俺の覚悟のこと。
「すまんな、俺が、間違っていた」
皆が、改めて俺に向き合う。
「そうだな、俺は石の精霊と人間の共存を目指していた。それは間違っていないと思う。
だが、すべての人間が仲良く暮らしているわけでもない。
石の精霊も、全員が同じ考えを持つわけでもなかった」
パイロペが、馬鹿にしたような目をしている。
「当たり前であろ」
「俺は、石の精霊ってのが、みんなお前たちみたいなものだと思い込んでいた。
お前達は、俺に召還された時点で、単なる石の精霊とは違う人生を歩き始めた者達だったのにな」
アウィネアが、瞳にちょっと翳を落としながら頷いている。
「そう、ですね。それは、確かです。ツヴァイ様に召還されなければ、こんな日々は、無かったでしょう」
パイロアも、力強く首を縦に振っている。
「そうだよ。ツヴァイ様がいなかったら、こんな風にお姉ちゃんと一緒にいることなんて、絶対なかったよ」
カイアも、同意してくれるらしい。
「こうして、仲間を集めて何かを目指すことなど、考えたことがなかった」
「俺にできるのは、互いに手を握れる中で石の精霊と人間との共存を目指すのがせいぜいだろう。
精霊の里に住む者を守る。
それが、俺にとっての精霊の国を作るってことだ。
そして、国民になりたい者がいれば受け容れる。
そういうことでいいか」
ヘンミィやシーラ、ラズ達も、ようやくスッキリした顔になった。
「僕は、その国の民になりたいです」「私も」「私もだ」
「ここに立てこもった連中の言い分もわかるが、破壊だけで精霊達が救われるとは俺には思えん。
それに、破壊のために、精霊井の力を使うなんてのは、認めない。
ここの力は精霊脈に還す。
それが呑めなきゃ、やりあうしかない。
俺がやりたくて始めたことなのに、第三者面して見届け人なんて言ってて、済まなかった。
いつものように、俺が間違ってたってことだ」
「そして、いつものように、やり直すのであろ」
「後始末には、慣れている」
おどけて見せるパイロペと、冷たい声のカイア。
と、いうわけで、俺も全力で介入する。
「よし。改めて、この遺跡を、制圧する」
奥には、通路を経てまた大きめの空間がある。
その先は、もう施設のあった立坑に近い。
濁り魔石を使った生き砲台は、意識の混濁や暴走の危険があるから複数を同じ場所に設置することは出来ないはずだ。
となれば、次が最終の防衛線の可能性が高い。
「おそらく、濁り魔石の生き砲台が、また設置されているだろう。基本的には、さっきと同じ戦術で行く。
パイロペやカイアの術で表面の濁り魔石を吹き飛ばし、アウィネアやラズが盾役となって攻撃を防ぐ間に、俺が吶喊してカンテラの斬鉄でカードを破壊する。
ヘンミィやシーラは、相手の手数が多い場合やほかにもカードがいた場合の牽制や援護を頼む。
パイロアは、支援の歌を。」
そして、出し惜しみは無しだ。
眷属召還(上位個体)、発動。
フクロウ、オオカミ、コウモリ。
「ストラス、敵は魔道具を装備している可能性が高い。術による攻撃に、出来るだけの対抗手段を」
魔道具の効果は多彩だ。
その効果や威力、作動頻度を読んで対抗するには、宝石公女や俺では経験もスキルも足りない。
ストラスが、片膝を突いて了解の意を示す。
「銀尖、ここの連中が相手では黒長剣は発動できない。お前の力を貸してくれ」
銀尖が、眷属憑依のスキルを発動させる。伏せた銀尖の体が、銀色の光に包まれる。
光が帯のように俺の側に巻き付き、血の本体がみなぎるような感触がある。
人狼化。
体型も長身の筋肉質なものとなり、筋力も感覚も、劇的に上昇する。
絶え間ない修練を長年に亘り積み上げた武闘家の佇まい。
もはや通常の武器では傷つくこともないが、残念ながら今回の相手には意味はない。
だが、このスピードと耐久力をもって、相手の懐にカンテラを送り込む。それがミッションだ。
「銀晶は、全体の状況を読み取って俺に知らせてくれ。あとはフォローを」
銀晶は座ったまま、瞬きだけで了解して見せる。
「緋夜、戦闘中、部屋に濁り魔石の欠片や障気が舞い散るはずだ。それを、土魔術や風魔術で可能な限り封じるか排除してくれないか。誰かが戦闘中に暴走でもしたら目も当てられんし、皆の汚染がひどいと、後で苦労するだろう」
「仰せのままに」
緋夜は、俺の横に並んだまま、つぶやいた。
いつものようにベタベタしてこない。人狼化してるからか? まあいい。
それじゃ、行くか。
一団となって、通路を走り出す。
道は折れ曲がっているが、次の空間はすぐだ。
先ほどの空間よりも、二回りほど大きい。
奥の壁は、大樹の根のように這い広がった濁り魔石の脈が一面を覆っており、その中にカードが。
濁り魔石の根のところどころに、果実か根粒のように魔道具が埋め込まれている。
想定通り、か。
「打合せ通りだ。行くぞ!」
目には見えないが、巨大な何かがこちらを振りむいたような感覚があり、埋め込まれた魔道具が一斉に魔力を高めていく。
火炎弾が打ち出され、雷球が浮かび上がり、魔力防壁が展開される。
地面は泥沼のようにヌメヌメとして足を取りに来る。
濁り魔石の表面にも異質な光があり、何かのエンハンスの気配がある。
砲台というより、もはや独り要塞だ。
ストラスがエンハンスを打ち消す術を次々と投げ掛ける。
吸魔、消去、対消滅。アンチマジックのスキルにも、そんなバラエティーがあるのか。
カイアの凍土城が凍てつく壁で魔道具を埋め立てるが、濁り魔石が肉の触手のように壁を取り込みながら、魔道具の位置を変えて
カードの中身は…… 黒曜石。
オブシーデという名だったな。
一緒に移動もしていたが、ついに一言も話していなかった。
あの時から、すでに思うところがあったのだろうか。
このときは、まだこんなことを考えている余裕があった。
パイロペの榴弾が、轟音と共に要塞の一部を吹き飛ばす。
舞い上がる破片と粉塵。
緋夜が、ブツブツと低い声で詠唱を重ね、煙の竜巻が地面の中に吸い込まれていく。
濁り魔石には術は効きにくい。
簡単に扱っているように見えて、高度に何かをコントロールしているのだろう。
そして、俺の出番だ。
人狼の筋力から生まれる俊敏性は、人間の域をはるかに超える。
アウィネアとラズが確保してくれた最短の経路を、一足飛びに駆け抜ける。
カンテラ、頼むぞ。
火炎弾に背中をえぐられながらも、カードを射程にとらえる。
斬鉄、発動。
ジャッ、キギン!!
異質な音とともに、カンテラの刃がはじき返される。
「なっっ!?」
斬鉄が、通らない……?
黒曜石
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