戦いの理由のこと。
何だってんだ。
ラズやシーラが皆を回復させている。
「アラゴン、こいつは何だっていうんだ」
緑閃石の精霊。
確か、アクテナといったな。
石の精霊の国に帰ったカードの一枚だったはずだ。
濁り魔石から抉り出した石を眺める。
黒っぽい緑色。宝石のような透明感はなく、色のついた石という地味な印象だ。
「何をお聞きになりたいのですかニャ」
「なんで、こいつはあんなことを。誰かに騙されたのでもなさそうだったが」
カイアが脇から口を挟む。
いつもと違って、饒舌だ。
「パイロペを支持した者達の中には、パイロペが濁り魔石に身を埋めて戦ったことに感銘した者もいた。
この者も、同じように称賛を得んとしたのだろう」
だが、薄っぺらだ。
「カイア、本当にそんな風に思うのか」
見ないようにしながら、問い返す。
カイアから、次の言葉はなかった。
「それで…… 何を、お聞きになりたいのですかニャ」
アラゴンが、こちらを向く。
俺は、覚悟を決めて問いかける。
「俺達と対立する連中がいるってことは聞いてる。
逆に言えば、お前達はそいつらの言い分を飲めなかったってことだろう?
そこには、アクテナがこんな無茶をしてでも守りたかった主義や主張があったってことだ。
で、お前達もその中身を知っている。説得で曲げられるものでもないと気付いてる。
そして、俺には言えずにいる。
それは、何なんだ」
その場が沈黙に包まれる。
全員が、既に抱えていたんだな。
パイロペが、俺の前に出る。
「妾が語るべきであろ。
それは、人と精霊の関わり方の問題なのじゃ。
これまでに人間が奪い、溜め込んできた精霊達の力。
その力を取り返せという者達がおる。
それをしようとせぬ我らは、所詮、人間に使われているに過ぎないとな」
「お前達は、既に自由だ。石の精霊として、思うようにしたらいい」
俺は、自然な感じに振る舞えているか?
さっきのカイアを、責められんな。
「自由か。ツヴァイ殿は、何度もそれを口にしてきたの。
じゃが、未来に向かっての自由は、過去からの自由を意味するものではないのであろ。
宝石公女として呼ばれた我らは、比類なき力と人のような知恵を手に入れた。
それはみな、ツヴァイ殿が道筋を用意したものじゃ。
他の石の精霊達からすれば、我らはツヴァイ殿という王に仕える代わりに力を手にした貴族と見えるのであろ。
あるいは、ツヴァイ殿に気に入られた者が、褒美として体や自由を与えられているに過ぎぬと陰口をたたく輩もおろうな」
ヘンミィが両手を握りながら訴える。
「パイロぺ、言いすぎだよ!」
アラゴンが、その肩に手を置く。
「ヘンミィ、ツヴァイ様は分かっていますニャ。パイロぺが、あえて口にしているということを。
今まで申し上げられなかったのは、我らにも迷いがあったからですニャ。
カイアもヘンミィ達も、カードでなくなった時に、単なる石の精霊には戻らなかったのニャ。
我らは、石の精霊であっても人としての生や思いを背負ってしまった者達ですニャ。
この中には、それを後悔している者はいませんニャ。
石の精霊でもなく、ツヴァイ様に使役される宝石公女でもなくなった今、我らが何者なのか、それを表わす言葉を、まだしばらく探すことになりますニャ」
カイアが引き継ぐ。
「おそらく、この遺跡にいるカード達は、石の精霊自身が召還している。
ツヴァイ様に仕えることを拒み、それでいて力を手にしようとしている者達が、濁り魔石を取り込むことを企てたのでしょう」
「石の精霊がカードを……?」
札は、魔道具みたいなもの。
札を作るためのスタンプさえ、作ることが出来た。
石を重ねれば、特定のスキルがなくてもカードは出来上がる。
そして、石の精霊は、魔道具を使える。
自分達で自分達の仲間を呼べるなら、俺達の位置づけは大きく変わる。
「だが、それだけでは、俺に与しない理由にはなっても、対立する理由とまでは言えまい?」
お互い、勝手にやればいいだけだ。
「精霊を、解き放ちたいという一派があるのです」
珍しく、アウィネアが発言する。
「解き放つとは、何からだ?」
「精霊を封じている、あらゆる物からです。
言ってしまえば、サルサリアの街を、破壊すべきだという主張が、あるのです」
魔道具や建築のことか。それは、盲点だった。
いや、サルサリアで、彼女達は口にしていた。
この街は、精霊の檻が建ち並んでいるようなものだと。
俺自身はほとんど魔道具を持たないし、精霊の里でも使おうとしなかったが、それは単に必要がなかったり、使いたい魔道具に出会わなかっただけだ。
一緒にサルサリアの建物をぶち壊し、魔道具や精霊石を強奪して回ろうと誘われたとしても、簡単には協力できない。
デルタ卿やアルファイン達の顔が浮かぶ。
人間と対立せずに、サルサリアを解体することが可能か?
「しかし、待てよ。精霊術では、おそらくサルサリアの城壁を破壊することは困難だろう。そもそも、精霊を封じた魔道具を破壊した場合、中の精霊は解放されるのか?」
俺は、クラフト系のスキルをほとんど持っていない。付与術や魔道具のことは、ほとんど知らないのだ。
「精霊を封じた物品を破壊した場合、中の精霊は暴走し、その持っていた力を最後に解き放って消滅する。無事ではない」
カイアが答える。
「じゃあ、どうやって解放するっていうんだ」
「その一派の考えでは、精霊は消滅しても、その解き放たれた力は、やがて巡り巡って再び精霊脈に還る。物品に封じられた精霊は、その循環から外れてしまっていると主張する」
「中の精霊は、それで本当にうれしいのか? アウィネア、例えばお前はこちらに呼ばれた最初の頃、カードに封じられたのと似たような状況だっただろう。カードの中に閉じ込められているくらいなら、消滅させられた方がましだと考えたか?」
「私は、もともとそういうものだと思って志願したので、消滅したほうがましなどと考えませんでしたが……。 無理やり封じられた精霊が一緒かと言われると、分かりませんね」
「中に封じられている精霊とは、意思の疎通ができるのか?」
「高位の精霊や、念話が出来る精霊も一部にはいますが、ほとんどの精霊は、意思を表すことはできません」
「そうなると、その一派の考え方ってのは、ある種の原理主義みたいなものか。大きな意味での精霊の自由のためなら、個々の意思だの関係性だのは無視して、とにかく従属関係は許されんと。
城壁にされて喜ぶ精霊は少ないかもしれんが、魔道具になって冒険をすることを喜ぶ精霊ならいそうだろ。
俺は、一方的に何かを押し付けられるのは好かん。
それに、濁り魔石にカードを埋め込んで砲台にするなんてやり方、宝石公女の術の後継者として、認められん」
石の精霊の中の主導権争いだと思っていたから俺は一歩引いていたが、これは、そういう戦いではないな。
ああ。
俺が、間違っていた。
総合評価が100を超えました!
ありがとうございます。
狭い間口の物語ですが、もうしばらく、お付き合い戴ければ、幸いです。




