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パイロペの決断のこと。

「パイロペ団長、石の精霊同士での戦い、その覚悟は」


「そうじゃな。せめて、苦しまぬように一瞬で石に還してやるのがよいであろ」


即断だな。いや、すでに決めていた事柄か。

「もうちょっと相手の話とか聞かなくても良かったのか?」


「そういうのは、パイロアがもう十分頑張ったのじゃ」

パイロペが、パイロアの顔を振り返る。


「ええと、話し合いの、努力はしましたけど」

いきなり話を振られて皆の注目が集まったパイロアは、しどろもどろになっている。


「パイロアの説得を受け容れなかった者が、妾の説得で下に付くわけがないであろ。

ねじ伏せてから、その言い分を聞いてやればよい」


例の、違う方法で取り組むことにした一派という奴か。


「石の精霊の対立派閥が、なんだってティターニア達と結びついて、どうやってこっちに来たんだ?」


「カードを作ったのは、あの男しかいない」

カイアが言う。


だろうな。石と札を用意し、光学迷彩みたいな魔道具さえ与えている。


「しかし、ティターニアは、アクシア達と一緒に来ていたぞ。

アクシア達は、投票をするための判断の材料を探しに来たんだから、代表者を立てて人間達との交渉に臨むって方針は受け容れていたんじゃないのか」


「投票と言っても、候補者はみんなツヴァイ様と契約していた宝石公女でしたニャ。

そこへ、アクシア達は、契約がなくても精霊がこちらの世界に来れること、活動できることを、向こうで知らせたはずですニャ」


「ふーむ。俺やパイロペと違う方法を考えてる連中からしたら、自分達だけでも活動できると分かったってことか。

候補者選定の前提から変わった割には、すぐに投票は実施されていたしな」


「投票結果が気に入らなかった連中も、加担する動機はあるでしょうニャ。パイロペにひどい目に遭わされて、それを忘れていない精霊も少なくないですニャ。

そもそも、投票の前の会合に集まっていない連中の方が圧倒的に多数ですニャ」


うん。ありそうだ。

一割しか参加していないような投票だ。

正当性にケチをつける余地はいくらでもあるだろう。


その辺りはすぐにどうこうできる問題じゃない。

使節団が実績を上げて見せることで、こちらでの活動の重要性や使節団の意義を示して、それで初めて、選ぶこと、投票の価値が伝わるのだ。


とはいえ、こちらは少なくとも一定の精霊達の信認は得てきているのだから、単に自分たちの考えだけで動いている連中に負けるわけにはいかない。


今の使節団は、いわば純軍事政権だ。宝石公女達を縛るルールは、宝石公女達しかない。何をどうやって解決していくのか、その方法まで見せることでしか、説得材料は無い。


パイロペの覚悟は、必要な、分かりやすさだ。

談判破裂して、暴力を背景としない国家などないことを示す。


と、頑張って自分を納得させる。

だって、宝石公女が、カードを破壊して回るのだ。出来れば、見たくはなかった。


彼女たちの中での、主導権の問題だ。俺は後ろで見てるだけのつもりではあるが……。


「もう出発してよいか」

カイアの声は至って冷静だ。


俺待ちか。

すまんね。

「任せるよ。俺は、見届け人だ」


ここからは、通路で進入することになった。

俺の力でどうこうなったという要素は出来るだけ少ない方がいいからな。


パイロペが命じる。

「カイア、編成を行うがよい」


「拝命する。

ラズ、前衛を。遭遇戦の対応は任せる。

アウィネアは第二前衛として守備を。

アラゴン、索敵を。ヘンミィはその指示に従って遊撃。

パイロペ、シーラ、フィオーラは中央。射撃と回復の管制はアラゴンに一任。

後衛は私。

その後ろに、ツヴァイ」


「では、参るか。

ヒヨコどもの首根っこを捕まえて、お仕置きをしてやらねばならぬ。

それに、首を突っ込んだ人間にも、灸を据えてやるとしようかの」


皆が頷く。


「進撃を開始する。

これは我らの中の戦いだ。地上の人間の介入を避ける。神速を尊しとせよ。

ラズ、細かな仕掛けは食い破れ」


カイアの合図で、一斉に走り出す。


「おいおい、さっきまであれだけ迷っていたのに、どこに向かっているんだ。目当てがあるのか?」


「最深部の施設跡」

カイアの一言。

それ以上は語る気なさそうだ。


細かい探知は無理でも、最深部の方角は分かる。

どれだけ迷路を構成していようが、正しい道でなくても近づきさえすればいいのだ。

ある程度近づいてしまえば、最後は俺の土魔術でも、壁をぶちやぶるのでも進入してしまえる。


最深部までは、直線距離で2、3キロしかない。

通路を走れば、多少遠回りしたとしても、数分で近づけるだろう。


「そろそろ来ますニャ」

アラゴンが声をかけると同時に、ラズとアウィネアが、硬化を発動させている。

カイアは、小さな防壁を数枚展開し、ヘンミィがそれを受け取っている。

鏡のような、銀の六角板だ。


通路に、糸のような細く見えにくい魔力の線が張り巡らされている。

警報かトリガーか。かわすことは出来ない密度だ。

ラズが、そのまま走り抜ける。


遠くで何かが起こった感触があるが、ここでは何も起こらない。

直径数キロ単位の防衛網を構築するような力はないということだ。

全員が走り続ける。


枝分かれ。

迷わず、中枢部の方角へ。

先ほどのが探知系の仕掛けだとしたら、こちらの動きが変わったのにも気づいているはず。

向こうさん、どう出る?


残り一キロを切ったあたりで、突然、走っていたラズの足元が爆発する。


煙は少ない。火薬の類ではなく、無属性の衝撃の術のようだ。

ラズに傷を与えるほどの力は無い。

足も止まらない。


通りすがりに、設置型のスクロールがちらりと見えた。

人間の使う術だ。


サルサリアの魔道具店でも、簡単に設置できるレベルのアイテムでうちの宝石公女を本気でどうこうできるものなどなかった。


街そのものは高位の精霊術で作られていたが、あくまで転生者が作ったものだ。

平和や安定を重視する転生者が、一般の市民や冒険者にまでむやみに火力の高い魔道具をばらまいたとは思えない。


野良娘達には、契約した宝石公女のようなスキルや術はない。

通常攻撃は可能とはいえ、むき出しのカードは脆い。

多少の魔石を与えて強化したところで、こちらと殴り合うのが不可能なのは分かっているはずだ。


考えなしの暴発なのか、何か目算があってのことなのか……。


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