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石の精霊の進出のこと。

スティグマ氏が宝石野良娘を再び呼び出していたが、あとは放っておくことにする。

エピドテから、重要な話を聞けたからだ。


「契約なしに召還された石の精霊は、カード化を自らの意思で解除できます。ここにいるのが嫌になったら、いつでも石の精霊の国に帰れるんですよ」


ほう。

宝石公女の術は、使役と引き換えに知識や術、技を与えるというものだったから、そういうことになるのか。

いずれにせよ、本人達の自由意志があるのなら、俺が口を出す場面でもあるまい。


しかし、この魔道具店には数百の精霊石があるはずだ。

いろいろな石で自由に召還を試せるとすると、スティグマ氏がうらやましくもある。

俺は、そんなこと口にしないけどな。

パイロペたちがうるさいから。


そして、札と石、カードについて、スティグマ氏にあれこれ情報を提供したところで、見返りとして、この都市の図書館への紹介状を書いてもらうことが出来た。

図書館の資料の中にもクラス分けがあり、この紹介状があれば中の上くらいまで閲覧が可能らしい。


俺もこれまでに修行をして術などについても多少は教えてもらっているが、眷属からの情報しかないので、分野に偏りがあるし、人間の歴史や世界情勢には疎いのだ。


一般的な資料に触れるのは、これが初めてとなる。

大きな収穫だった。

図書館は巨大で壮麗で、出入りしているのも様々なクラスの、様々な種族だった。

結局、デルタ卿と連絡が取れるまでの二日間、朝から晩まで図書館に入り浸って過ごしてしまった。


その間に、アラゴン達は揃いの肩掛けを作っていた。

白地に赤色のラインが入っている、シンプルなものだ。

それぞれの衣装の色合いがバラバラだから、無彩色がいいんだろう。


「どうですかニャ?」

「うん、いいんじゃないか。チーム感が出ている」


「陽光殿と、お揃いですニャ」

ああ、そういえば、俺の外装も白がベースで朱の差し色だったな。


「よし、デルタ卿にも見せてやろう。宝石の使節団ってな」


デルタ卿の帰還を知らせてくれた召使いは、いつでもよいと言ってくれた。

では、半刻ほどで参ります、とお願いしておく。


例の飛行盤も、使ってみる。

普通に座ると五人程度。

誰が乗るかで議論が始まったが、馬車のようなものだと考えることにし、団長、副団長、渉外のアラゴンは固定で、あとは護衛の二人のどちらかと、随行者の三人から一人とすることになった。


飛行盤にも、肩掛けと同じ意匠の布地が掛けてある。

幟の代わりも兼ねる感じか。

はたから見ている分には、ヘリウム風船を引っ張っている子どもみたいなもんだけどな。

歩く人間とぶつからないという目的は達しているようだ。


そんな、のんびりしたことを考えながらデルタ卿の屋敷まで行くと、忙しそうに屋敷を出入りしている役人達が目に入って来た。

有能な人のところに仕事が集まるとはいうが、帰ってくるなり大変そうだ。


門番に声を掛ける。

「デルタ卿とお会いする約束をしている陽光と申しますが、何か急な事件でしょうか? 出直しましょうか」


少々お待ちを、と言われて門の脇にたたずむ。

サルサリアの冒険者ギルドの紋章を付けた人間もいるな。


「荒事の気配だな。それなら、俺たちの出る幕もあるかもしれんぞ……」

パイロペ達に向かって声をかけていると、速足で先ほどの門番が出てきた。


「陽光殿、どうぞお入りください。こちらです」


以前通された応接の部屋ではなく、会議スペースのような、事務的で広いスペースだ。

何人もの人が大きな板に何か書きつけたり議論をしている。


「おお、陽光殿。ちょうど良いところに来てくれた。

猫獣人の移転の件では世話になっている。詳しいことを聞きたいところだが、今は別件で立て込んでいてな」

「慌ただしい様子ですね。何かあったのですか」


貴族との対面といっても儀式的なことは省略されている。

この国のありがたいところだ。


「例の崩落した遺跡に、モンスターが沸いたらしい。ダンジョン化している恐れがあるのだ」

「あの遺跡にですか!? 先日、魔道具店の研究者と現地を訪れた際には、そもそも魔獣等が徘徊する空間さえ無いような印象でしたが……」


「そうだな。その辺りは、情報収集にあたっている冒険者ギルドの方から説明してもらおう」


事務方らしきギルド職員が、近隣の地図を簡単に示したものを使いながら状況を説明してくれる。

それによると、第一報は、例の遺跡の周囲で魔石拾いをしていた連中からもたらされたらしい。


ここ数日、魔石は回収できなくなっていたが、また湧いてくるかもしれないというわずかな望みで出入りしている連中が、まだ残っているようだ。

地中に大量の濁り魔石があることは、知られているしな。


魔石拾いの連中が言うには、遺跡の地中で、崩落とは違う音や振動がしばらく続いていたという。


知らせを聞いた街道の警備隊が現地に向かい、隊の中の術師が探知を行ったところ、濁り魔石のせいで詳しいことは分からないが、地中に空洞が形成されている気配があったという。


仮に通路や部屋が形成されているとしたら、ダンジョン化していく恐れがあるということだ。

また、物音はするが生命探知に反応しないという事象もあったらしく、アンデッドまたは魔法生命のような可能性も術師は警告していた。


「街道の警備隊というのはどの程度の戦力を持つのですか」


「戦力は大したことはないな。サルサリア周辺の街道に現れる魔獣で強力なものは少ない。どちらかといえば、人間同士の事件や事故、災害への対処などを主な任務としている。

大規模な事案には冒険者ギルドからも人間が向かうので、常備戦力は最低限となっているのが現状だ」


「冒険者の派遣はどのような状況で?」


「今、先発隊数名が現地調査に出向いている。本格的な依頼はまだ態勢を検討しているところだ。ダンジョン化といっても、まだ現時点では出入口はないらしい。うかつにこちらから通路を作って、内部のモンスターが外に出てくるようなことになっては本末転倒だ」


「デルタ卿、俺達なら、土魔術の応用で、通路を作らず内部に侵入できます。

この宝石公女と陽光に、指名で依頼を出しませんか?」



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