ミューさんの上の上司のこと。
魔道具店でブラブラと品物を見ていたら、奥の方からミューさんが歩いてきた。
「ああ、ミューさん。
今、移動用の魔道具を買ったんですよ。サルサリアには、本当に色々なアイテムがありますね」
「あ、はい。お買い上げ、ありがとうございます……」
いつになく、ショボくれている。
「どうかしたんですか?」
「上司の所にねじ込んで無理矢理カードを持ち出す許可を取ったこととか、カードを持ち出したままの無断外泊、あとは精霊を勝手に帰しちゃったことなんかで、もう一つ上の人に、スッゴい怒られました……」
最後のはともかく、前の二つは自業自得だな。
「反省したって認められるまで札や石も接触禁止で、今日も謹慎で家に帰るところなんですよ」
「解雇とかじゃなくて良かったじゃないですか。無茶し過ぎですよ」
しかし、札にも石にも接触禁止か。
「売り場の方はどうなるんです?」
「その上の方の上司が、しばらくは管理するそうです。高位の術者ですから、きっとよい札も作れますよ……」
まあまあ、と慰めておいて、さっそくスクロール売り場の方に向かう。
うお、痩せて目つきの悪い中年の男が、カウンターの向こうから睨んでくる。
着ているローブも鼠色でヨレヨレになっており、サルサリアの表通りではめったに見ないような雰囲気だ。
「こ、こんにちは」
笑顔を浮かべて挨拶から入ってみる。
「いらっしゃいませ」
低い声で唸るように口にする。目つきは、睨みつけたままだ。
一応、店番のつもりなんだ。
こんなキャラなのに優秀で接客もできるミューさんの上の上司なのだから、きっと術の能力か研究の成果が優れているのだろう。
「石の精霊の札を作ってもらっていた者で、ツヴァイというんですけど」
「おお、お前さんが例の。貴重な術を伝えてもらって、非常に感謝している。私は、スティグマという。ここの、管理責任者だ」
何というか、丁寧に扱われてるんだよな、きっと。
「ミューさんを精霊の里に連れて行ったのは俺なんです。あまり彼女を叱らないでやってください」
「あのアンポンタンか。熱心なのはいいが、今日もまた朝から暴走しかけていてな。ちょっと頭を冷やして来いって家に帰したところなんだ」
「今度は、何をしようとしていたんです?」
「エピドテに体を作ってあげるんだといって、ゴーレム用の素体を持ち出してな」
「ゴーレム用の素体って何ですか?」
「西のイオタ帝国では、割と色々なゴーレムが使われている。付与術というんだが、精霊石と独自の魔法紋を使って、物に様々な機能を与えるんだ」
「精霊石を使った武器や防具なら、武具工房でも作ってますよね」
「ああ、ああいうのとは違うんだ。そうだな、上位の精霊石に凝った付与術を組み合わせれば、人間のように考えて行動できる人形を作ったりもできる。
そこまでの品は帝国でも少ないが、部屋の掃除をしたり、肉を焼いたりといった仕事をする魔道具に近いゴーレムもあって、帝国の金持ちはたいてい家中にゴーレムを配置している」
「へー、便利なものですね。サルサリアでは、あまり見かけませんが」
家電みたいな魔道具か。プログラムみたいなものも仕込めるって感じかな?
サルサリアでは、照明や警備のようなインフラで多少使われているだけに見えたけどな。
「今は、精霊石も魔石も不足気味だから、ゴーレムも贅沢品さ。それに、帝国は付与術を外に出さないから、メンテナンスも帝国に持ち込む必要がある。大きな品は、運ぶだけでも一苦労だ。
サルサリアも物価は高い方だが、それでも、人を雇って掃除や調理をした方がはるかに安い。ゴーレムが好きな金持ちが、たまに使っているくらいだな」
「ゴーレムの素体というのは、その魂や働きを付与する前のものということですか」
「そうだ。ミューの考えでは、宝石公女のカードはゴーレムの素体を動かすことが出来ると言いだしてな」
確かに、宝石公女たちは魔道具を簡単に扱うことが出来た。
同じような仕組みなら、ゴーレムの素体とやらも扱えるだろう。
「なるほど。彼女たちはカード単体でも動き回ったりできますが、相手をする我々としては、体が合った方が落ち着きますね」
「そうか? ゴーレムといっても、ここで扱っているのは研究用の棒人形のようなものだ。それに、ゴーレムのセリフは術者が覚えさせる。自分で作った棒人形としゃべったり、連れて歩き回ったりしていたら、周りの人間は変人扱いするぞ? それに、そんな棒人形でも五万Gはする」
「あ、見た目はそういうものなんですね……。それに、ずいぶん高価なものなんですね」
「顧客が、物好きな貴族か、帝国との縁が深くて来客がある商人くらいだからな。
ミューの奴は、すぐ売り物を買取りで実験に使おうとするんだ。職場に、どれだけ前借があると思ってるんだか。
お前さんのところの精霊の真似事をしたいのなら、カードにぬいぐるみでも被せておいた方がまだマシだろうよ」
そうだな…… あまり否定できないところではある。
「ま、石の精霊はおもちゃでもペットでもありませんから、本人たちの意思を尊重してほしいですね。エピドテは、今はどうしているんです?」
「ああ、残っていたカードか。ミューから取り上げて、私が持っている」
服の懐から、エピドテのカードを取り出す。
「エピドテ、おはよう。お前は棒人形でも体が欲しいか?」
「ツヴァイさま、おはようございます。そうですね、棒人形はちょっと……。さすがに、宝石公女達と待遇が違いすぎじゃないですか?」
うーむ。肉体を与えてやりたいのはやまやまだがな。
脇で見ていたスティグマが、バン、と机を叩いて凄んでくる。
「……そのカードの精霊は、そんなにも自然に話すのか? いや、私の知っている喋るゴーレムとは、かなりレベルが違うな。
あと、その精霊は、ミューでも召還できたと聞いたが、私でも使えたりするのか……?
頼む、もしそうなら、俺にも精霊の召還を教えてくれ」
これ、一生懸命頼んでいるってことかな?
怖いよ、いろいろな意味で。
「術は、どうでしょうね。俺の術というよりはカードの機能みたいなものなので、最低限の術の発動が出来れば、誰でもできるのかもしれません」
さて、目を剥いたおっさんが、無言で札と石を並べている。
あの石は何だっけな、黒曜石、楔石、風信子石か。
三つの光がきらめき、柱となる。
お、割といい札を投入しているな……
黒曜石
https://www.mindat.org/gm/8519?page=3
楔石
https://www.mindat.org/gm/3977
風信子石
https://www.mindat.org/gm/4421?page=6




