使節団の始動のこと。
ようやく、石の精霊の使節団の結成だ。
数週間と思えば、長かったような短かったような。
団長は石の精霊の代表としてパイロペ、副団長がカイア。アラゴンは渉外兼精霊の里の管理人という位置づけ。
アウィネアとラズは護衛、パイロア、ヘンミィとフィオーラは随行者といったところだ。
「なあ、カンテラ。お前も、早く体が欲しいか?」
「うむ、そうだな。体があれば自由に過ごせる時間があると思えば、その方がよいが、ツヴァイ殿には考えるところがあるのだろう?」
「そうなんだよな。体を持ってしまうと、空を飛ぶこともできないし、狭い場所や隠密行動で、俺についてくることが出来ない場面もある。
俺も多少は鍛えて強くなったつもりだが、カンテラにはとてもかなわない。いざという時に、懐からカンテラを呼べるという今の状況が、惜しくてな」
「懐刀という言葉がある。それだけ、信頼してくれているのだろう。であれば、まだ後でも構わぬ」
「そうか。すまんな。体が欲しいときには、いつでも言ってくれ」
カンテラとそんな話をしていたら、視界の隅でウロウロとしているヤモリがいた。
ヤラシイ意味ではない。安心しろ。
しかし、日差しさえ無ければ、お前も思う存分働けるんだけどな。
使節団としての活動方針も、話し合った。
まずは、ミューさんを送っていくついでに、サルサリアでデルタ卿に話をつけることにする。
デルタ卿も忙しい人だ。
タイミングが悪ければ、会えるまでに数日か、もっと掛かるかもしれない。
その場合は、街で使節団としての形を整えていく。
イナグマとシーラ、アズは留守番で、ジタ達三人の面倒を見てもらうことにした。
ジタ達のために、緋夜が崖を彫り込んで簡単な洞穴住居を作ってやっていた。
普通の小屋を作るような材料があまりないこともあったが、崖を削ったり盛ったりして立体的に作るというアイデアが少年たちの心に刺さったようで、朝になってからここが住まいだと知らされたら喜んで上ったり下りたりしていた。
あとは自分たちで好きに基地を作ってもらえばいいだろう。
併せて、人間の来客を迎えるための建物についても、イナグマと緋夜に建築をお願いしてある。
こちらは急ぎではないので、イナグマが適当に町で見本を探して、緋夜がその指示に従って作り上げることになるだろう。
緋夜にも美的な建築のセンスはあると思うのだが、なんせ、人の暮らしに必要な構造や設備については、想像力が働きにくいようだ。
移動中にもいろいろな打ち合わせをしつつ、サルサリアに到着する。
今回は銀狼に乗ってしまったが、宝石公女だけで行動することも増えるだろう。
宝石公女が馬を扱えるのか、あるいは移動用の魔道具が使えるのか、試してみることにする。
ミューさんには、また後で魔道具店を訪問しますと約束して別れた。
カイア達は、冒険者としての登録がないので、猫獣人移転事業の従事者として追加で登録しておく。
サルサリアの場合、冒険者としての登録だけでは入っていけない区画も割と多い。
だが、猫獣人移転事業がいつまでも続くわけではないので、何らかの実績をもとに、誰か偉い人に紹介状でも書いてもらう必要があるだろう。
細々とした事務的な事柄を処理していく。俺は出来るだけ後ろに下がっている。そう、こいつらに、自立してもらうために!
カイアやアラゴン、パイロアは問題なく、アウィネアやラズ、フィオーラもまあ何とか。
パイロペは相変わらずやる気なさそうだが、貴族っぽく振舞っておけばまあいいか。説明はできないけど問題は解けてしまうタイプの奴だ。
ヘンミィは、後で文字の勉強だな。
こうして後ろで見ていると、学校の先生の気分になってくる。
予定通り、デルタ卿のところを訪れてみると、出張に出ていて戻りは三日後になるという。
また出直すと伝え、サルサリアの街で上の中くらいの宿を押さえる。
別に必要はないのだが、精霊の国の使節団が訪問しているという形を整えるためだ。
街中を歩いてみて気づいたのは、今のサイズで街路を歩くと、馬車や脇見の人間から見つけてもらえず、ぶつかりかねないという些細だが困ったことだった。
馬車に轢かれたくらいでは大したダメージは受けないし、カードさえ破壊されなければ、見た目の肉体はいくらでも修復可能だ。
しかし、公衆の面前で事故が起こった場合、怪我がなかったとしても、まったく無かったことにも出来ないだろう。
それに、歩行者の雑踏の中で足元に動き回る障害物があったのでは、通行に混乱をきたす。
まとまって歩くときは、旗でも持つか。
「旗を持つなら、旗印か国旗のようなものが必要なのでは」
アウィネアが言う。
いわゆる紋章は貴族しか扱えないようなので、もっと簡単な模様か、色の組み合わせか。
そういうものを作るなら、身に付けるものにも、あしらってみてもいいかもしれない。
今のところ、宝石公女たちの衣装は何というか、デザインの系統からしてバラバラなのだ。
パイロペやアウィネアはいかにもファンタジーなヨーロッパ風で豪奢、フィオーラやアラゴンは同じくヨーロッパ風だがもう少し野外の印象、カイアは超古代文明的、ラズはアジアンな異国風だ。
元の素材は俺の血の本体で作った殻だから、作り変えること自体は出来るとは思うが、細かな意匠や質感を作りこむのは俺には無理だ。今の外装は、カードの力の誘導に従ったから出来たものだ。
「せっかく街に来ているのニャ、人間の仕立て屋に作ってもらえばいいのですニャ」
アラゴンの言う通りだ。
さしあたっては、揃いで羽織るものでも作ったら、一団という感じが出るかもしれない。
仕立て屋に聞いてみたら、小さなサイズだし、単純なデザインならば、上質な生地を使っても千G程度だったので、お祝い気分でそろえるのもありかと思えてきた。
次いで、ミューさんの勤める魔道具店にも行ってみた。
移動手段になりそうなのは、馬車を魔石の動力に置き換えた魔道車、空飛ぶ絨毯を丸い板にしたような飛行盤、いわゆる魔法の箒、などであった。
操作自体は、どの宝石公女も全く問題なく行うことが出来た。体を扱うより簡単らしい。
魔道車は高価すぎて手が出ず、飛行盤は、大きさによって価格がかなり違ったが、直径五十センチほどのものが一万Gほどだったので、それを購入してみた。
五人の宝石公女が座って、問題なく浮遊と移動ができる。浮くのが機能の中心で、その状態からひもで引っ張ってやれば、ちょっとした力で動いていく。一メートル半くらいの高さに浮かべて、地面で誰かが引くようにすれば、雑踏でも目立っていいかもしれない。
箒は、確かに飛ぶことは問題なくできたのだが、降りた後に持ち運ぶのが邪魔すぎて断念することになった。
今の宝石公女のサイズに合わせて作るとなると、付与術の紋様などが非常に小さく精密なものとなってしまい、製作が難しいため、かなりの値段になるということだった。
通信用の魔道具というのも、近距離用無線みたいなものはあり、街の中なら三百メートルくらい、遮蔽のない開けた場所なら一キロくらいしゃべれるということだった。
その性能ならば念話の方が実用性が高いが、しかし念話は全員が使えるわけではないので、悩ましい。
もっと距離を開けて届くものもあるらしいが、そちらは軍事用で普通の市民や冒険者には購入できないそうだった。
全員が念話を使える俺の眷属、やはり優秀だった。




