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パイロペとパイロアのこと。




フィオーラが語ったのは、こんな話だった。


パイロアが長の地位を継承した。

しかし、パイロペによる長の地位の放棄という行為が、そもそも前例のないものだった。


石の精霊の長は、他の精霊に対する命令権があるわけではなく、その地位の扱いも細かな定めはない。

長は、時折り開かれる長老の会合で、その判断を他の石の精霊に伝える。

他の石の一族は、その判断を聞いて、賛同するなり無視するなり、それぞれに振る舞う。


それぞれの石に序列があり、年月によって順が回ってくる。

その程度の決まり事だけで、巡っていた。


パイロアは、苦礬柘榴石の一族の中ではパイロペに次ぐ者だ。

パイロペが何かの事故で失われた場合には、苦礬柘榴石の一族が後を引き継ぐが、放棄した場合にどうなるのか、定めはない。


パイロアを後継者として認めない者が、出てきた。

とはいえ、これまでであれば、それもどうでもよいことだった。


だが、パイロペが旅立ったのは、そもそも精霊脈の異常に対処するためだったことが、伝えられた。

誰かが何かをせねばならない。

パイロペは、失敗したという。

誰が、次に役目を担うのか。


宝石公女の契約をもたらした術者によれば、パイロペは、術に向いていたらしい。

強力な術を使えるようになっていたとも聞いている。


だが、パイロアが向いているかは分からないし、パイロペ以降に宝石公女になった者は幾人もいる。

術者はまた一人になってしまったようだが、召還される者は徐々に増えている。

強力な力を振るうようになったカンテラのような者もいるし、カイアのように石の精霊らしからぬ発想と知恵を身に付ける者も現れた。


パイロペやアラゴンのように、肉体を得て、契約から自由になる者も出てきた。

肉体を捨てねば、石の精霊の国に帰ることは出来ない。

しかし、肉体が無ければ、人間とやり取りをすることは難しい。

人間は、カードを相手に交渉をする気にはならないだろう。


すると、石の精霊の国に帰ってこないことを前提に、代表者として振る舞う必要がある。


石の精霊の国に留まる者たちにとっては、誰を選ぶべきか、想像をすることも難しい状況となった。


「うーむ。なるほどな」


改めて、向こうからどう見えているかを知らされると、難しい問題だ。


前世の感覚で言えば、月の裏側のように遠い場所で、普通の人間には計り知れない何かが起きていて、戻ってこれない前提で人を送り込み、解決してもらわなくてはならないのだ。

優秀だと言われていた技術者が挑戦したが、失敗した。

たまたまその技術者は帰ってきたが、じゃあ、誰を次に送り込むか。

しかも、向こうにいる間は、その能力を具体的に計ることもできないし、そもそも召還されなければならないから、精霊石がこちらにあることが前提となる。

そんな感じか。


「で、パイロアというのはどういう立ち位置だったんだ?」


パイロアは、反論があったとはいえ一応長の後継者だ。

しかも、パイロペよりは常識的な――人間基準かも知れないが――判断をするように見える。

パイロペを召還することが出来たのだから、パイロアも召喚できる可能性は高い。


「パイロアも、評判は悪くないのです。

気ままな者が多い石の精霊の中では、ちゃんと他の者の話も聞きますし、自分の意見も丁寧に説明しますし、むやみに暴れたりもしません」


「その話だけ聞くと、パイロペの欠点を見事に補完している気がするな」


「そうですね。パイロペの評判は、よろしくないものでした」


「じゃあ、なんでパイロペが選ばれたんだ?」


「パイロアを推す声も多かったのですが、投票に先立っての会合の中で、皆の心を一番大きく動かしたのが、パイロペについての話だったからでしょう」


「ほう。パイロペが演説をしに行ったわけでもないのに、何かそんなに印象的な逸話があったのか。ちなみに、誰がその逸話を伝えたんだ?」


パイロペの応援演説をするような流れが、誰かにあったか?


「誰が伝えたかというならば、カイアさんでしょう」


お?

カイアの方を見ると、横を向いている。

ローブのフードのせいで表情が見えないので、顔を覗き込もうとすると、さらに顔を背けていく。


「カイアが、パイロペを推薦したってことか?」


「いや、私は推薦していない。推薦は、他の精霊がした」


「じゃあ、カイアはパイロペの何を喋ったんだ?」


「……パイロペが、泣きながらツヴァイに謝っていたことを、伝えた」

カイアが小さな声で言う。


パイロペに、肉体を与えた後のことか。

ちゃんと謝らないと、仲間とは認めんとかそんな話だった気がするな。

俺も皆を酷い目に合わせたくせにちゃんと謝ってなかったとか、なんかまた最後は俺が責められて終わっていたが。


「意味がよく分からんな。なんでその話が、得票につながった?」


「だから、私には説明できんと言った」

今度は力強く、カイアが言う。


「じゃあ、フィオーラはどう思うんだ?」


「それは、パイロペが、泣きながら謝ったってことが、どれだけ皆にとって驚くようなことだったか、ということでしょう。しかも、感謝の言葉まで述べたという。

宝石公女になると、知識や術を手に入れることは知られていましたが、人間らしい振る舞いなど不可能だと思われていたパイロペが、人の言葉を話すようになったという逸話を、カイアさんがしてみせたということです」


えーと、ヤンキーが更正した、みたいな?

で、元々まじめだった妹が、やってられないといって騒いでる?

リアル姉妹喧嘩?


何だろう。

石の精霊に民主主義を持ち込もうとした俺が、悪かったってことか……?


「カイアの思惑とも違う結果だったってことで、いいのか?」


カイアは、顔をそらしたまま頷いている。


かくして、石の精霊は分裂し、パイロペは本人が望んでもいない代表者に選定され、パイロアは荒れ狂い、カイアは自信を失い、そして俺は途方に暮れるのであった。




パイロペが謝っていたのは、34話のことです。


「宝石公女の身体のこと。」

https://ncode.syosetu.com/n5532ep/34/


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