パイロアの召還のこと。
初めまして、そしてこの世界へようこそ、パイロア。
この夜までの石の精霊の長にして、パイロペの妹よ。
そして今、契約の終焉を迎えよう。
そなたに、肉体を与えん。
召還してすぐに体を与えるというのは俺の中では珍しいパターンではあるが、当初の計画ではむしろパイロアに最初に体を創ることになっていた。
パイロアが長であるという想定だったのもある。
ところが、ふたを開けてみたら、投票の結果、パイロペがまさかの代表復帰。
パイロアに肉体を与えるのはともかく、どういったポジションをやってもらうのかは白紙の状態だ。
だが、カイアさんの様子からすると、なにやら切羽詰まった気配。
しかも、俺が原因なのか?
もういいけどさ、このパターン。
カイアとパイロアの魂無き身を作成し、俺の血の本体と殻を移植、成形する。
カイアの装いは、古代の超魔法文明的な異世界感。ちょいサイバーなマギ少女。
対してパイロアは、何だろう、商会でまじめに働く町娘みたいな質素感? スキルは戦闘や冒険で役に立ちそうな、アクティブな種類のバフなんだけどな。
それぞれのカードを中に収めると、つながりが途切れ、軽い痛みを感じる。
さらば、わが血よ。
新たなる魂の下で、その肉となり衣となって、主たる魂を護るのだ。
かくして、カイアとパイロアは、肉体を手に入れた。
「改めまして、精霊の里へようこそ。新たなる肉体と、新たなる自由が、貴方たちと共に健やかにあらんことを」
「何を今さらの爽やか気取り」
カイアさん…… 聞こえなかった振りをする。
「カードにもなったばかりですから、まずはこれをお納めください。無事に投票が実施できたことの、お祝いでもあります」
それぞれ五万程度の小山を積み上げる。
パイロアなど小柄なので、魔石の山に隠れるくらいだ。
とはいえ、星四つになったから、カイアはそう簡単には最大レベルにならない。
パイロペだって、まだ三分の一くらいしか満たせていないはずで、アウィネア達も最大までは上がっていない。
魔石は飛竜の群れで二十万ほど稼いだが、そこまで戦力不足を感じていない現状、彼女達の強化よりも眷属の里に何かあった時のために手元に残している。
と、意識がそれたな。
パイロアは、魔石の山にちょっと驚いているようだ。
「どうしました? 今のパイロアさんのカードだと、その魔石ではまだ最大の能力までは成長しないはずです。札も、もっと上位のものを使えれば、おそらくより上位のスキルも使えるようになるはずですが、手元に用意がなくて申し訳ない」
「い、いえ。これほどの魔力、石の精霊の世界では、こちらでいう数十年を掛けて取り込んでいく量なので、ちょっと驚いただけです……。カイアさん、貴方達は、こんな勢いで魔石を扱っているのですか?」
湧水でも飲むかのように両手でザラザラと魔石を飲み干していたカイアが、ちょっとむせる。
「え、ええ。人の世界では、時の流れが早い。石の世界の感覚は、忘れた方が良い」
ふーん。カイアとパイロアでも、感覚や価値観のすり合わせまでは終わってないみたいだな。
パイロペが近付いて来る。
「パイロアか。こちらの世界に来る気になるとは、思っておらなんだぞ」
「パイロペ姉さん……。この度は、石の精霊の意志として、貴方が代表に選ばれたことをお伝えします。皆の思いを背負い、皆を導いてください……」
「妾は嫌じゃ。そなたがやれば良いであろ」
パイロアが、その赤みを帯びた目をクワッと見開いて、拳を握って立ち上がる。
「またそんなことを言う! 私だって、私だって、そう思ってましたよ!
もう、姉さんになんか任せておけない、私の方がずっとうまくやれるはずだって!!
姉さんは、どこでも好きなところに行って、一人で勝手に過ごしていればいいって!!」
「それでよいではないか。何故、そなたは妾を責め立てるのじゃ」
「仕方ないじゃない、皆が姉さんを代表に選んだんだから! あああ、もう!!」
おう…… 何か溜まっていたものが噴き出している……
カイアの薄青の目も、虚ろになってしまった。
姉妹の応酬というか妹の嵐と噛み合わない姉のリアクションがしばらく続きそうだったので、カイアを引っ張って少し距離を置く。
「な、どういうこと?」
「私は他人の心の動きに鈍い。……そうね、フィオーラを呼び戻して」
今度はフィオーラを召還する。
蛍石と、クラブの7の札。
星二つか。フィオーラも、戦力にするなら石の格を上げなきゃならないか。
「お帰り、フィオーラ。お疲れさま。久しぶりのこちらの世界は、どうだい?」
「ツヴァイ様、ただ今戻りました。そうですね、こちらの世界の方が静かに見えるなんて、旅立つことを選ぶ前には、考えもしませんでした……」
おっと。フィオーラでも、十分巻き込まれてるってことか……
カイアが、魔石をフィオーラのカードにザラザラと流し込む。
「フィオーラ、私の代わりにツヴァイに説明を」
「え、あ、はい。あの、カイアさん、そんなに勢いよく魔石を流し込まれると…… うぅふ」
「カイア、まずはフィオーラの話を聞くよ」
カイアは頷いて、フィオーラに魔石を流し込むのを止め、再び自分で飲み込み始める。
「ええと、何からお話ししましょうか」
「そうだな、投票の結果は聞いたし、石の精霊の一部が別行動を取っているってことも聞いた」
「じゃあ、投票の前の話から、説明しますね」
フィオーラの話は、かいつまむと、こんな内容だった。
蛍石
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