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冒険者ギルドのこと。

「ギルマス!陽光だ!陽光殿を、お連れしたぞ!」とギャンマが叫んだ途端、轟きのような喚声に俺は迎えられていた。

おいおい、どうなってんだよ…


と、やばい、威嚇や牽制、発動させたままだったよ。解除せねば。


大勢の人間が中にいることは、漏れ聞こえてくる音と生命探知で分かっていたが、思っていたのとどうも光景が違う。

冒険者らしくない商人や婦人、ちょっといい造りの席の方には身なりの良さげな人間まで座っている。


「おお、あれが陽光か!あの体でオーガの群れを屠るとは、さぞかし強力な精霊術を扱うのであろうな」

「なになに、ちょっとあれ、可愛いんじゃなーい!」

「銀の髪、何処な大陸の者であろうな…こちらにいるうちに、手合わせを願えぬであろうか…」

「いやー、これでやっとマトモな飯が食えるぜ…ホント感謝しかないわ」


何かめっちゃ晒されてるんですケド!?


そこへ、ギルドのカウンターの奥から、ギルドマスターとおぼしき漢がやってきた。

歳は行っているが、鍛えられた動きだ。


「おお、ギャンマ、早かったな。この僅かな内に陽光殿を見つけ出し、お連れするとは。流石は『慧眼』、面目躍如だな」

「いやいや、オレは何もしとらんよ。陽光殿は、ちょうどこの町に立ち寄るところであったのだ」


「なんとなんと。それでは、なおさら歓迎せねば。

デルタ卿!

こちらが陽光殿であります。このよき朝に、いかがですかな?」

ギルマスが、いい造りの席に座っていた身なりの良さげな男に向かって声を上げる。


デルタ卿と呼ばれた、その男も立ち上がって応える。

「うむ、よき朝だ!皆の者、オーガ討伐の英雄、陽光殿に賛辞と感謝を!」

よく通る声だ。


その呼びかけに、居合わせた連中が叫び声や歓声や拍手や、色々な物音を立てて騒ぎ立てる。

「ゥウオオオオー!」

皆の視線が集まっている。ちょっと手を挙げて応えておく。言葉は分からない設定だが、これは伝わって来るだろう。


再び、デルタ卿の声が響く。

「合わせて、久々に美味いものを持ち帰ってくれたアルファイン達にも、感謝を」

「ィィヤッハー!」「キャァァー!」

ちょうど、戸口からアルファインとヴィタが入ってきた。


その両肩には大きな袋が二つずつ担がれており、カウンターの上に広げた中身は、大量の食材や酒、甘そうな果実やお菓子の山だった。


聞けば、この町は食料の供給を主にオーガ達によって封鎖されていた南側の地方に頼っており、そちらの流通が滞った間は北の地方の食物ばかり食べていたらしい。


北の地方の産物はかなり限られるらしく、ジャガイモもカブも当分見たくもない、というのは共通の話題になっていた。


砂糖や果実も南方のものらしく、ご婦人方の甘いものへの飢えっぷりは相当なものだった。

つまり、アルファイン達は強行補給部隊だったわけだ。


で、オーガ達がいなくなった以上、こいつらは今、食べてしまっても構わんのだろう?と。


大口スポンサー様のお許しが出て、朝っぱらから始まった討伐祝賀の甘い匂い一杯のパーティーは、昼近くまでおかしな盛り上がりを見せていた。


俺は、ちょろっとつまんだ振りをしただけだったがな。香りも味も、分からないではないんだが。


それにしても、ヴィタに念話で通訳してもらっている振りができたのは有難かった。

そうでなきゃ、何人にも囲まれて、いつまでたっても質問攻めにあうところだった…


まとまった情報を得るのはパーティーの後にしておいたが、それでもいくつかの事情は、確認しておいた。


あのオーガの討伐が依頼の扱いになっており、依頼が達成されるとそれが「掲示」される魔法の仕組みがギルドにあるという。

皆に知らされた内容は、『陽光某』が「オーガ討伐」を達成した、それだけということだ。


てっきり、前世のネットの掲示板みたいなものかと思っていたので、それはホッとした。


だが、後で「陽光殿の称号は珍しいものだな。長すぎて掲示では途切れていたが、陽光の後には何と続くのだ?」と尋ねられたときには肝を冷やした。


ギルドで登録もしてないのに、なんで勝手に称号さらされるんだよ!

表示文字数の仕様に救われていたとは…


ただ、今までいくつもの冒険者パーティーが挑んでも倒しきれなかった「喰らい三連鬼」を、いきなり現れて単独討伐した俺のことは、かなり目立ってしまったようだ。

踏み台にした覚えはないんだけどな。


オーガを倒す力のある冒険者はそれなりにいるのだが、あの三連鬼のリーダーはオーガにしては頭が回る奴だったらしく、危ないとみるやバラバラに逃げ出してしまうのだとか。

オーガにあの巨体で走り出されると、そう簡単には足止めも出来ず、どうやって倒したのか何度も尋ねられた。


罠を仕掛けてスキルで麻痺させたらうまくいったという話をしたら、なるほど、罠か、という反応だった。この辺りはあまり大きな魔獣がおらず、罠を使う狩人や冒険者は少ないらしい。

罠も場合によってはかなりの効果があるのだと勝手に納得してもらえたようで、助かった。


実際、俺には火力のある術も剣技もない。力自慢の連中に挑まれても、上手くあしらう自信がないからな。


アルファイン達はLV40近く、ステータスだけなら俺よりかなり高い。

オーガを追い回すところまでは行ったらしいが、森の中を引き回されたあと、バラバラになったところでヴィタが狙われ、手ひどい怪我をして撤収したという。三匹が連続で襲い掛かって来るとか、恐ろしいな。

仲間を失わなくてよかったじゃないか。


どうやらNPCからは他人のステータス等は見えないらしく、俺がLV3であることは誰も話題にしなかった。


ヴィタに、ここの言葉を教えてくれないか、と頼んでみた。

[個人的な依頼?]

と悪戯顔で尋ねられたので、

[じゃあ、冒険者としての依頼でお願いします。俺も、冒険者として登録してみたいです]

としておく。


ヴィタは、長身のエルフのお姉さんだ。

俺もこんな体だ、長い長い付き合いが出来るかもな。


満腹の表情でカウンターについている職員に、登録の手続きをしてもらう。

[あ、ツヴァイ、早速ですが報酬の処理があるそうです]

登録名を見て、ヴィタが名前で呼びかけてくる。


オーガ討伐の報酬と、それまでに狩ったモンスターの分がまとめて換金されるらしい。

表示を見ていなかったが、受け取ったら金貨825枚になっていた。


受け取ると、ポリゴンに変わった。買い物などは、現物硬貨じゃなくて決済できるらしい。

やっぱり、戦闘以外は結構簡易な処理だ。


もともと1000Gあったので、ボス討伐してもそんなものだと思うと、初期所持金やたら多かったんだな。

いや違った、83512Gになった。金貨1枚は100Gか。でもって、食い物の値段を見てると、1Gが100円くらいか?

3年くらいまったり暮らせる額を稼いだようだ。


[魔石もありますね]

[魔石って、どうやって使うんですか?]

例の石の表示の方も、24305となっていた。


[魔石を使うスキルがないなら、魔道具ですね]

[魔道具ですか。そういえば、これって魔道具ですか?]


トランプのカードを見せてみる。

[うーん、どうでしょう。かすかに魔力を感じますね。こういうのはギャンマの方が詳しいんです]


ギャンマのところに行くと、満足そうな顔でコーヒーを飲んでいた。

チョコとかタルトとかコーヒーとか、まんま前世的メニューである。

戦闘以外の設定はザルっぽいな。

俺も、コーヒーだけは美味しく飲めたりするのかな?




固有名詞へのこだわりは薄いので、NPCの名前は結構適当です。自分でも覚えとくの大変なので。

アルファイン、ヴィタ、ギャンマ、デルタ、エプシロン等、ギリシアのアルファベットシリーズは人間NPCです…


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