里の視察のこと。
四人とも野営に付き合うということで、昼間は視察混じりに散策をしていくことにする。
アラゴンとアウィネア達は、銀晶に乗ってスタルトへ買い物に行ってくるという。
急な来客で済まんな。
何しろ、普段は食材なんてほとんど不要だからな……
まずは、碇石の傍の湖へ。
美しい風景に豊富な水。
「この湖の水源には、精霊脈とのつながりがあります。
現在、森の中にも地下水として水路を張り巡らせており、このあたりの樹木も徐々に精霊脈とのつながりを強めていくでしょう……」
続いて、猫獣人達の霊樹の元へ歩いていく。
霊樹の太い枝に作られた猫獣人の巣の一つから、クシィがするすると降りてくる。
「おお、ツヴァイ殿、イナグマ殿。人族のお客人とは珍しい」
「クシィさん、こちらはサルサリアの術者のミューさんと、この森の守護者の候補者である三人の冒険者です」
礼儀正しく挨拶をするミューさんと、緊張した様子のジタ達。
緊張と言っても、初めて会う偉い相手への素朴なものであって、むしろ若い人間としては好ましい雰囲気だろう。
「そういえば、サルサリアの太守からの派遣調査はありましたか?」
「ああ、ちょうど今日の昼前に来ていた。何か困ったことはあるか、この後の要望はあるかという程度の聞き取りくらいだったな。イナグマ殿の迫力に、少々気圧されていたようだったが、アラゴン殿の気配りに大いに感謝して去って行ったぞ」
確かに、あの二人の組み合わせは、古典的な刑事ドラマみたいだな。
お互いちょっと苦笑しつつ、大きな問題はなさそうだと確認する。
「あとは、スタルトに残っている猫獣人達の状況を確認しに行ったようだ。強いて言えば、何か人族にも分かりやすい建物を立てておくと良いかも知れんな」
「確かに、今日のようにお客さんがいても、ゆっくり座っていただく席さえないですね。
ま、今夜にでもうちの職人さんにお願いするとします」
クシィのところを離れ、森の中を歩いていく。
「今日は、何か魔獣の獲物はありましたか?」
外縁の方で過ごしている猫獣人の一人に声を掛けてみる。
「ああ、そっちで乾燥させてる毛皮は今日狩ったものだニャ。大した強さじゃなかったけど、すばしこいからちょうどいい遊び相手になったぜ」
割と大きめの屍狐か? それはいいが、「ニャ」って?
「ジタ、見たか?」
「ああ、あれを一人で簡単に狩るってことか」
「この猫獣人の兄さん、強いんだな……」
「ああ、猫獣人は強いのさ。だから、里に入り込む魔獣や何かは、たいてい猫獣人が撃退してくれる。
ジタ達は、さしあたっては、皆が気持ちよく暮らせるように色々な雑用をすることから始めてもらうつもりだ」
「俺達にしかできないことなんて、何かあるのかな」
「猫獣人達にできないことは、結構たくさんあるんだ。文章を書いたり、計算をしたり、皆の間を往ったり来たりして連絡係をやったり。
この森の中は大体安全だが、それでも単なる町の人で務まる仕事じゃない。
森の中で迷わず歩き回ったり、目当ての猫獣人がどこにいそうか見当を付けたり、最低限自分のみを自分で守れたり、そんな能力を、身に着けてもらう予定なんだ」
「何だか楽しそうですね。私も、ちょくちょくこちらで仕事をしてもいいですか……?」
「あ、ミューさんが仕事を持ち込むのはダメです」
「即答ですね。何でですか?」
「この精霊の里には、もう一つ上位の精霊の里も重ねて作ってあります。精霊術が行使されると、そちらの里への精霊の力の供給が減ってしまいます。なので、この場所には魔道具は出来る限り持ち込まないようにしてもらっていて、術の行使も原則禁止ということになります。どうしてもということであれば、魔石を持ち込んでもらって、という感じですね」
「なるほど、それで建物や魔道具が全然無いんですね……」
「あくまで精霊や猫獣人のための場所なので、人族にとっての便利さは後回しなんですよ」
徐々に日が暮れてきたので、野営のための場所に向かう。
ほどよく風をさえぎる岩壁からは清らかな湧水があり、地面には柔らかい下草が生えている。
寝転がっているだけでも気持ちよさそうだが、二張りの幕営が準備されている。
「おや、これは?」
「テントは、猫獣人達が、手伝ってくれましたニャ」
アラゴンが、簡単な料理の支度をしながら説明する。
「そういえば、料理も自分達で作ってもらうことになりますニャ。私らは、人間のような料理は食べないのですニャ」
エッタが反応する。
「へー、そうなんですか。何を食べるんですか?」
「普段は、精霊脈を浴びれば済みますニャ。疲れた時は、魔石をちょっとかじりますニャ。あとは、紅茶をいただくニャ」
「へー、そうなのか。紅茶を飲むなんて、俺も知らなかったぞ」
「私が好きなだけで、他の子のことは分からないニャ」
そういえば、ここに入ってくる食料は、アラゴンが仕切っているのだったな。
「アウィネアはどうだ?」
「私ですか? 飲んだことがありませんけれど……」
「では、今宵は私の紅茶を皆さんにも振る舞いますニャ」
そういえば、宝石公女が全員揃うのも久しぶりだな。
陽が沈み、焚火と月だけが灯りとなる。
クシィが、魚と酒を持って歩いてくる。
緋夜とストラスが、ふわりと降り立つ。
銀尖と銀晶が、とさりと草の音を立てて地面に伏せる。
「さて、久しぶりに我らの仲間が揃った。今宵は、人族の友人達も来ている。精霊の里への歓迎会といこう」




