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精霊の里の訪問のこと。

巨大な銀狼の姿を見て、ジタ達は固まっていた。


そういえば、この三人は初めてか。

「銀尖と銀晶。俺の家族みたいなものだ。恐れることはない」


「いや、恐れるなって言われても…… なあ」

ジタは髪の毛が逆立ち、テータに至っては、唇を噛みしめて目を剥いている。


「すごいよ、ツヴァイさんは、こんな魔獣も飼ってるの?」

エッタは、なじむの早いな。


「この二頭はオリジナルだから、魔獣じゃないな。精霊の方が近いかな。

飼ってる……っていうか、臣下、なのか? うーん。やっぱり、肉親に近いよな」


銀尖に問いかけてみる。


「我らはミコノケンゾク…」「まあ気にするな。一生懸命、俺を助けてくれる仲間ってことだ」


銀尖が素直に自己紹介を始めたので、ぶった切ってしまう。

もう、眷属とか吸血鬼とか説明しない方がいいだろう。重要事項ではないってことで。


銀尖に、俺とミューさん、あとパイロペ達。

銀晶に、ジタ達三人。


魔石拾いの連中が驚いた様子で見ている中、出発した。


「速い、速いね!」

興奮気味のエッタに対して、ジタとテータはひきつった表情で言葉も出ないようだ。


まだ時速にして四、五十キロというところか? まだまだ出るぞ、って脅かしたりはしないが。


街道の馬車や徒歩の旅人を次々と追い越していく。

渋滞している辺りでは街道を外れるが、草原を走っていてもペースは落ちない。


起伏がある分、上に乗ってる俺達の体感速度はさらに上がる。

俺は引っ越しの時なんかに鍛えられているから、もうどうということはない。

ミューさんがへばりついてくる分、鼻唄混じりでもいいくらいだ。

俺の頭の上にうずくまっているパイロペのことを気にしなければ。


一刻程で精霊の里のある森の入り口に到着する。


「すごいね、こんな遠くまであっという間に来ちゃった」


「……」「……」

ジタとテータは、無言のまま青い顔で虚ろな目をしていた。


「この辺りから、精霊の里に入る。普段あまり見かけないような種族もいるが、あまり大騒ぎするなよ」

主にエッタへの警告だ。


「あ! あんなところに猫獣人が! 若い雄なのに、一人で木の上にいるなんて、文献の記述とは違うものですね」

ミューさん……


他にも、小動物や巨大な虫などが頻繁に現れる。

最初の内はそれぞれに興味を持っていたミューさんも、次第にこの場所自体の特殊性が気になり始めたようだ。


「ここは、一体どういう場所なのですか?」


「まだ引っ越したばかりですけど、今後は精霊の力を多く生み出すような、豊かな森にしていくつもりですよ。今は、植物を育てたり、色々な生き物を集めているところですね」


しばらく前と比べても、植物がより大きくなっている気がする。

精霊脈からの細かな支流が、地下水と共に周囲に広げられているようだ。

日向、日陰。湿地、乾き気味の土地。

様々な条件になるよう、細かく地域を分けてコントロールしている気配がある。

この細やかさは、イナグマの手腕だろう。


碇石の近くまで行くと、水辺の傍に、一本の木に屋根を掛ける形で、東屋が造ってあった。

ちょっとしたテーブルとベンチもある。

銀尖と銀晶に礼を言って、皆を降ろす。


「到着です。飛ばしたので、疲れたでしょう」

「つ、疲れたというか、何というか……」

ミューさんも、だいぶんヨロヨロしている。


木陰から、ちょうどイナグマとアラゴンが現れた。

「お帰りなさいませニャ、ツヴァイ様」

「お客人方、ようこそ精霊の里へ」

トレイに冷やした飲み物を載せているイナグマの後には、数種の小動物や小鳥なども付いて回っている。


やってきた熊が服を着て丁寧な口を聞き、おまけにその肩には小鳥が乗っている。

妖精のような小人には猫の耳があり、不思議な語尾で喋っている。

どちらも、サルサリアでも見かけない光景だろう。


まずは旅の疲れを癒そうと、飲み物と甘いものを出している。

この辺りはイナグマにお任せだ。

なんせ、ふつうの食べ物を取るのはイナグマくらいしかいないからな……


テーブルに付いたのはイナグマと俺とミューさん、あとはジタ達三人。

宝石公女達には、彼女たちが腰かけてちょうど同じくらいの目線になるように、木の枝がさりげなく渡してあった。

アラゴン、パイロペ、アウィネア、ラズと並ぶと、なかなかの華やかさだ。


ジタ達三人は、興奮の目付きを隠せないまま、たどたどしく挨拶をしていた。


「初めまして、私はサルサリアの研究者で、ミューと申します。ツヴァイ様には、色々なものを見せていただいていますが、この里も、大変に貴重なもののようですね」


「これから、もっと良い里になっていきますよ。人族から見たら、あまり変わり映えはないかもしれませんけどね。こちらがイナグマ、里の森を取り仕切る番人であり園丁であり、警備の責任者でもあります。そちらがアラゴン、里の掟や外部との交渉などを取り仕切る者です。今は、猫獣人達の巫女も務めていますね」


イナグマとアラゴンが、ミューさんに礼をする。


「さて、イナグマよ、この三人が俺が言っていた冒険者だ。森の守護者として人族も育てた方がいいのではないかという計画だが、どう思う」


「ふむ。まずは、この里で数日過ごしてみるのが良いかと。野営と食事の支度は出来ております。そちらのミュー殿は、どのようにお過ごしのご予定でしょう」


「ミューさんはどうしますか? 里の様子を見て回るだけであれば、これからぐるりと里をめぐって、宿はスタルトという近くの町で取るのが良いかと思いますけど」


「あ、もしよろしければ、そちらの冒険者さん達と一緒に、野営に加えていただきたいですね。この精霊の里は、夜の方が賑わしくなりそうな気がしますので」


さすが。何か気配を感じているのだろうか?


「それでしたら、今夜は精霊達の集いと致しましょう」



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