地の底でのこと。
ミューさんの調査がどの辺を目当てにしているのかよく分からんが、こっちはこっちで話をしておかないとな。
「さて、アクシア達よ。お前たちも感じることが出来るだろう、あの魔力の塊を。あの場所には、巨大な竪穴がある。地底の精霊脈から精霊の力を吸い上げ、魔石に精製して回収する装置が造られていた。
パイロペは、精霊脈から力が失われていることを心配してこちらの世界に来た。そして、その装置を発見し、何とか止めようとした。結果として方法は間違っていたが、必死で、体を張っていたのは確かだ。
お前たちも、濁り魔石の気配を感じているだろう?」
「ああ。ツヴァイ殿があまり近づかないようにしてくれているが、それでもおかしな酔いを感じる」
「私も頭がボーっとします」
「パイロペは、あの濁り魔石に自らのカードを取り込ませて、そうして引き出した力を装置にぶつけ続けていた。それほどの苦しみと狂気が、想像できるか」
七体のカードからは、返答がない。
「いや、ツヴァイよ、妾をかばう必要はない。
アクシア、ローデ、お前たち、そして精霊脈の元に残っている石の精霊達皆に、妾は詫びねばならんのだ。
少しばかり力を与えられただけで、自分一人で何かできる気になっておった。救うためにと称して暴れた挙句に、かえって御しがたい災いに転じてしまった。
かつて妾に力を与えてくれたのは、ドライという奴だった。精霊井を制御するにも、再び奴に頼らねばならん。妾を濁り魔石から救い出し、再びドライを動かす道を拓いてくれたのはツヴァイじゃ。
妾は、二人にどうにか報いたいと思っておるのだが、こ奴らは妾から何も受け取ろうとせぬ」
いい話かと思って聞いていたら、なんか妙な方向にそれ始めたので演説を打ち切る。
「パイロペ、今はその話はいい。
俺が石の精霊達に伝えたいのは、この世界の人間達に対して、精霊脈は自分達のものだと主張すること、それが石の精霊達の意志だと示すこと、その二つだ。
それが出来れば、この遺跡の制御に向けて動き出せるし、その後の在り方も変えられるはずだ。
アクシア達よ、パイロペにできなかったその二つを任せられる誰かを、選び出すのが今回の投票だ。それを、向こうで伝えて欲しい」
「分かった。私が見たものを、向こうで伝えよう」
「良いですね、みなさん」
しかし、残りのメンバーは、口数少ないな。相手が俺だからか…? 気にすまい。
「というわけで、ミューさん。
しばらくの間、こいつらを里帰りさせて欲しいんですがどうでしょう」
「みなさん、またこちらに戻ってきてくれますか?」
「召還に応える用意は続けておきます。投票が終われば、また戻ってきて、今度はもっと色々な場所を見て回りたいですね」
「私は、カードの戦いの術というのに興味があるがな。ツヴァイ殿と契約しなければ、身に着けられないのか?」
うーん、どうだろう。札に属している力なら、契約の有無とは別の気もする。
だが、主が与えた地位に従い知識や技術が与えられるのだとすると、契約が必要でもおかしくはない。
ドライに聞けば分かるんだがな。
「アクシアは、術が使えるかどうか自分では分からないのか?」
「うーむ。何かの力が内にある気はするのだが」
「ちょっと、ラズ相手に戦いの真似をしてみたらどうだ。ラズはずっと高位だし自分で回復もできるから遠慮はいらん」
「また勝手なことを言う」
「ラズ、ちょっと胸を貸してやってくれ」
元の空間のままでは狭いので、周囲の土を押し固めて密度を上げつつ空間を広げる。
広くなった分だけ光の量が足りなくなったので、ミューさんが照明の術を追加してくれている。
灯りが必要なのは、実はミューさんくらいだが。
アクシアのカードをミューさんから受け取り、自分のカードとしては表示されないものの、配置のメニューを選択するときのように念を込めてみると、カードが浮かび上がった。
「お、自分でも動けるか?」
「ああ、これはいいな! 何かの術を使ったのか?」
「術というのか…… どう言ったらいいのか、ちょっと分からんな。アウィネア、お前たちから見てこの状態はどういうことになるのだ」
「カードになっているときは、霊体は中に封じられていて勝手には動けない。
その状態になると、人型の半霊体となって歩いたり走ったりできるようになる。こちらの生物から目に見えない霊体だが、こちらの世界の重さや衝撃の影響を受ける、我々にとっても不思議な状態だ」
あ、そうなんだ。
配置っていうから位置関係の指示なのかと思っていたら、むしろ起動とか行動準備みたいな意味での配置だったのね。物理的には存在するが、光を全て透過してしまって反射しないから目に見えない、そんなところか?
しかし、契約に無い他人でも、向こうが拒絶しなければ配置できるのか。
「自分でその状態になれるか? もしくは、元の状態に戻れるか?」
「……やってみよう」
カードがふっと光を失い、地面に落ちる。
少ししたら、フワッと光を帯びながら浮かび上がり、俺の胸元くらいの高さで安定した。
ほー、自力で動けるようになるのか。
「ちなみに、アウィネア達はどうだった?」
「私は契約に厳しく縛られていると思っていましたから…… 考えたこともありませんでした」
「パイロペは? ドライから説明されたりしなかったか」
「あやつは、妾をずっとカードの一枚のように扱っておったからな…… 妾も、あやつの懐から出ていくことなど考えておらなんだしな」
何か、聞くんじゃなかった。
「思わぬ発見だ。おそらく、俺が何かをしなくとも、お前たちは自分でカードと半精霊状態を行き来できるはずだ。ちょっと残りのメンバーも、挑戦してみてくれ」
イメージの具体性の問題か、スキルのようなものなのか、残りの六人のうち三人は自力で半精霊化を行えたが、残り三人は俺の助けが必要だった。
一度体験すれば、二度目からは自力で出来るようになっていたが。
多数のカードに実体を与えるのは大変だが、半精霊化状態で良ければ、この世界で自分たちで活動してもらうことは出来ると分かった。
なお、研究者魂に火が着いたミューさんは、半精霊化して動き回るようになった宝石公女達に猛烈なヒアリングを繰り返していた。
契約をした宝石公女を自由にするのは手間が掛かるが、戦闘要員でなければ自由に活動できる状態でこちらに来てもらうことのコストはかなり低くなった。
そこに半精霊がいるという事が人間にも分かるようにしないと、トラブルのもとになりそうだな。
お揃いのローブと仮面でも提案してみよう。




