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遺跡に潜るのこと。

手続きせずに街を出ているので、明るくなる前に街に戻る。


今さら宿に泊まるのも逆に目立つ。

適当な大きな建物の屋根の上に、四人で寝転がって夜を過ごした。

俺達は、つくづく人間らしい生活から遠いらしい。


朝早くから、朝食を出す店は仕込みを始めている。

鍛冶工房なども、早くから炉の火を入れているようだ。

大きな街の一日は長い。


ぶらぶらと街の様子を眺めて時間をつぶしてから、ミューさんのところへ行く。

昨日の様子なら、ミューさんはさっそく上司に掛け合っている頃だろう。


魔道具店の前まで行くと、玄関の脇に旅支度のミューさんがいた。


「おはようございます、ツヴァイさん。待ってましたよ」

「おはようございます、ミューさん。その格好は?」

「もう準備は出来ています」


「準備はいいですけど、カード持ち出したり、遺跡の調査に行くって許可は取れたんですか?」

「昨日の夜のうちに、上司の家に押しかけて許可してもらいました」


「そ、そうですか……」

これ以上聞いても、困惑が増すだけの予感がする。


「では、さっそく出発しましょうか」


サルサリアの門を、通常の手続きを取って外に出る。


銀尖を召還し、アウィネア達を乗せた後、俺も上にまたがる。

ミューさんに手を伸ばして、引き上げる。

俺の前に三人の宝石公女、背中側にミューさん。


銀尖は、背中の毛を柔らかくしてくれているので、手綱のように毛を掴んで乗るようミューさんに説明する。


ミューさんは、走り出したときはおっかなびっくり銀尖の毛を掴んでいたが、しばらくしたらいつの間にか俺の服にしがみついていた。

パイロペが何かぶつぶつ言っていたが、よく聞こえなかった。


遺跡の辺りに到着すると、熊手やスコップのような物を持ってウロウロしている子供や老人がたくさんいた。

銀尖を見て、子どもたちが興奮している。


潮干狩りみたいな感覚か?


魔石を探し続けている連中は皆、渋い表情だ。

妙に慌ててキョロキョロしてる男もいるな。商売の宛が外れたか?

昨夜、目につく魔石はほとんど回収してしまったからな。

小さな結晶が出来てくるまで、数日はかかるはずだ。


ジタ達を見かけたので声を掛けておく。

「ジタ、また帰りに返事を聞かせてもらう。この辺りで待っていてくれ」

頷いているのを見て手を振る。


子どもが付いてきてしまうので、銀尖の召喚を解除し、あとは歩いていく。


魔石拾いの連中から少し離れた場所まで進み、遺跡の通路と重なる地点で土魔術を発動させる。

濁り魔石の濃い場所は避けて、捻じ曲げながらトンネルのように空間を広げていく。

掘り出した土を積み上げると目立ってしまうし、穴を残して誰かが入り込んでも困るので、穴を掘りながら後方へ送り出して、穴を塞いで行くことにした。


地中を、泡のような空間だけが進んでいくイメージだ。


「ツヴァイさんは、土魔術も器用に使うんですね」

「師匠に比べたら、遊びみたいなものですけどね」

「師匠がいらっしゃるんですか」

「古くから付き合いのある、精霊みたいなものですけどね」


「土の精霊ですか? ノームのような?」

土の精霊ではないし、ノームみたいでもないが、精霊化した吸血鬼というのも説明が難しいな。

「いや、もう少しかわいらしい感じの人型の精霊ですね」

クケケ、と妙な音が背後からしたので皆が振り返ると、赤っぽいヤモリが地面でくねくねしていた。


気にしないでおこう。

俺も三人の宝石公女も無視して前を向いたので、ミューさんは独りで不思議そうな顔をしていた。


地中深く、竪穴に近づくにつれて精霊脈の気配が強くなる。

前の通路部分は、崩落のせいで不安定でかえって危険なので、通路と並行に地中を進んでいる。


魔力探知の映像は飽和してしまって具体的には見えないが、竪穴の方角に巨大な光の柱のような物があるのは分かる。


「ミューさんの魔力探知では、どんな風に見えてますか?」

「前方に、魔力の塊というか巨大な水溜まりみたいなものを感じますね」

「太古の装置が、精霊脈から力を汲み上げているんです。濁り魔石の塊が出来ています。

宝石公女のカードは、濁り魔石の影響を受けやすいので気を付けてください」


「どうなるんですか?」

「狂乱したり、動けなくなったりします。ミューさんのところのカードは、強化していないので暴れても取り押さえられると思いますが、カードが割れるのは、石の精霊にとっては割と嫌な体験のようですので」


竪穴の何割かが、濁り魔石で埋まっているような感じか。

魔石も相当生成されているんだろうが、ちょっと手に負えない感じだな。


「というわけで、これ以上近づいても、恐らく危険度が増すだけで今出来ることはあまりないと思いますが、どうでしょう」


「ものすごい規模のことが起こっているということは分かりました。ですが、それだけではギルドへの報告をどうしたらいいんでしょうね……」


ギルドへの報告か。

「実は、俺はデルタ卿には遺跡の現状を報告していて、どう扱うかもしばらく保留してもらうようお願いしている状態なんです」

「そうなんですか」


「ゆくゆくは、精霊井を制御して、ここの濁り魔石を、元の精霊脈に戻したいと思っています」

「え、戻してしまうんですか?」


「元の精霊脈が弱ると、精霊石が生まれなくなってしまうことが分かったんです」


「え! それは、知られている事実なのですか?」

「俺が石の精霊とやり取りをしていく中で、仮説として聞いているだけです」


「かつてに比べて、精霊石が採れなくなっていることは、この周辺の国家の共通の問題なんです。特に、西の帝国は精霊石を使った魔道具が非常に普及しているので、このことが事実として伝われば、大きな影響を与えますよ」


「ほう。精霊石が今後も生まれるようにという点では、西の帝国と協力して精霊井を制御していく方法もあり得るということでしょうか」


「それはどうでしょうね。技術的には制御できるかもしれませんが、西の帝国は、非常に合理的で、ある意味冷酷な考え方をしています。

例えば、濁り魔石から精霊石を造り出す方が早いと考えたら、むしろ精霊井の活動を強化するかもしれません」


西の帝国の目的が、精霊の力を集めることにあるのならば、どちらにせよ力を精霊脈に残すという結論とは遠いか。


「サルサリアと西の帝国は、どういう関係なんですか?」


「今は通商が大規模になっているので、経済的な結びつきは強いんですが、西の帝国は元々のこの世界の人間にとって受け入れやすい価値観が凝縮されて残ったような文化です。

人族以外はあまりまともに暮らしていませんし、人間同士でも格式みたいなものが強く意識されています。

サルサリアが、転生者の技術や産業とその価値観も引き継いだのと比べると、かなり違うと思ってもらった方がいいですね。


魔道具に関する技術レベルは非常に高くて、特に精霊の力を使った兵器に関しては、サルサリアでは対抗できませんね。

サルサリアの冒険者も、討伐依頼があまりないので武闘派で有力な方は少ないですしね」


ふーむ、デルタ卿と話をしているだけでは、先に進めない要素もありそうだな。


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