夜の再会のこと。
約束はしたが、それは明日の話だ。
一度、様子を見に行っておこう。
「パイロペ、お前たちはどうする? 明日はもう一度遺跡に行くことになると思うが、今夜は街の見物でもしているか?」
「こんな精霊の檻だらけの街は落ち着かんと、ラズが言ったであろ?」
そうだったな。
しかし、これ以上人数が増えたら、飛びにくいな。
緋夜やストラスを運び屋として使うのもなんだか申し訳ないしな……
ドライの気持ちが分かる。
飛べない奴を連れて行くだけで中々面倒なのに、自分が幽体化してたら、実体のある奴など、ものすごく邪魔だろう。
ま、今回は半分観光だ。
コウモリ化しつつ、殻の一部で籠のようなものを作り、三人を乗せる。
ツヴァイ観光、夜のフライトへようこそ、ってなもんだ。
街の夜景を見せてやろう……そう思って明るいエリアを飛んでみたのだが、さっきからの発言を忘れていた。
精霊灯で照らされた美しい街並みは、つまり光の精霊が大量に囚われて使役されているという風景だった。
もっと光を! みたいな感じに見えるのだろうか。
微妙な反応を受けて、早々に街を離れる。
月の無い夜だ。
街からわずかに離れるだけで、空は漆黒の闇に覆われている。
が、なんだ? 前方の森に、星雲のような光の集まりがある。
木々の中、地面か。
魔力感知で見えている光だな。
アウィネア達も、気付いて騒ぎ出す。
「あの光は…」
「魔石であろ。あのあたりが、例の遺跡だったかや」
「地上にまで、あんなに魔石が散らばっているのか」
近くまで飛ぶと、遺跡への入り口は封鎖されているが、近くに簡単な野営場が作られていた。
中に人の気配が割とある。
寝ている者が多いようだが、一部はまだ起きているようだ。
暗がりで人型に戻り、人の気配のある焚火の方へ歩いていく。
驚かせると悪いので、精霊灯を点けて、こちらの姿が見えるようにしてやる。
若い男が三人、小声で喋っている。
魔石拾いがどうとかこうとか。
聞いたことのある声だ。
意外と早く会えてしまったな。
「よう」
「あ、ツヴァイさん」
名前がぱっと浮かばないな。何だったか……三人親戚で……
「ジタ、エッタ、テータの三人組ですよ」
ああ、そう、そんな感じ。15才くらいのがジタ、あと二人はもっと下。
「魔石拾いか? このところ、地上でも拾えるらしいじゃないか」
「そうなんですよ。遺跡は通路まで潰れて埋まってしまったんですけど、その土砂の隙間から精霊脈が染み出してくるらしくて。駆け出しの冒険者だけじゃなくて、小遣いの欲しい子供まで集まってくるものだから、それを目当ての屋台商売なんかも始まっちゃって」
「大した稼ぎにはならないけど、のんびり喋ったり食ったりしながら過ごしてるって感じか」
「そうですね。冒険者としては、こんなんでいいのか正直微妙なんですけど、サルサリアの依頼って、どれも遠くまで行かなきゃならないものが多くて」
「俺と一緒に精霊の里に来てみるか? 森の保護の仕事をする人間を育てようという話があるんだが」
エッタが興味深そうに声を上げる。
「へー、精霊の里ですか? 森の保護って、何をするんです?」
この三人の中では、エッタは好奇心が強いようだ。
「精霊の里には、今のところ、この石の精霊達や猫獣人なんかが住んでる。
森の保護の仕事ってのは、色々あるんだが、差し当たって、植物の世話やちょっとした農作業なんかをする人間を探している」
「それじゃ、村で農民をやるのとあまり変わらないんじゃ?」
「力仕事や魔獣退治みたいな荒事もあるが、別の奴がやるからいい。手先が器用で、これからも色々な作業を覚える気がある奴が欲しいんだ。人間との交渉事も出来るとなおいい」
ジタは年長だけあって、慎重に状況を把握しようとしている。
「ええと、そちらの小さな妖精さん? が住んでいる森で、雇われて開拓の仕事をするってことですか?」
「森の中には人間の住むような町はないから、野営か、簡単な小屋くらいで暮らすことになるな。ただ、近くにスタルトって町があるから、別に人里離れてるってことはない。
仕事は開拓に似てるが、向かう方向が違う。町を作る必要はないし、金を稼ぐ産業を育てたいわけでもない。
ちょっと分かりにくいだろうが、人間じゃない仲間たちが、そこで静かに暮らせる場所を作っているんだ。人間の暮らしから見たら、むしろ変えないようにするという仕事だな」
「俺達は、冒険者を目指してるんですが」
エッタはそこが気になっているようだ。
「完全に雇う訳じゃないから、仕事の仕方はそっちで決めて構わない。例えば週に三日は森の保護の仕事を手伝って、冒険に出たいときはスタルトに行けば、近場の討伐依頼なんかもあるはずだ。戦いや術の修行も、精霊の里でやろうと思えば相手はいる」
ジタは考え込んでいる。
「確かに、このままサルサリアの周りをうろうろしていても、全然先が見えないんですよね……」
「そうだな、サルサリアにいても、駆け出しの冒険者が経験を積むのは難しいだろう」
「人間じゃない方たちが住んでる中に、俺達人間が入って行って大丈夫なんですか?」
テータは少し臆病か? 心配が先に立つ性格のようだ。
「そこだな。町で長いこと人間ばかりで暮らしてきた奴は、今さら人間以外との付き合い方を大きく変えるのは難しいだろう。
お前たちみたいに、これからどうやって暮らしていこうか迷っているくらいの方が、新しい暮らし方になじみやすいんじゃないかと思ってな」
この三人なら、猫獣人とでもフラットに接することが出来るような気がする。
イナグマやアラゴンが上司になっても、そこまで違和感を抱かなさそうだし。
それに、本人たちはあまり意識していないようだが、人間の群れの中で暮らしたいと思っているような奴は、食いっぱぐれてる訳でもないのに町を離れて冒険者やろうなんて考えないんだよ。
「ま、一緒に精霊の里を見てもらうのが早いかな。百聞は一見に如かずってやつだ。俺は明日、魔道具ギルドの研究員を連れてこの遺跡を調査することになってるから、その帰りにまた相談しよう」
ここで魔石が拾いやすくなったといっても、魔力探知も出来ずに目で探しているだけでは、一日に百か二百も拾えばいいところだろう。
探しに来る人間が多ければ、さらに一人当たりの数は減る。
それに、そもそも俺が目指しているのはここの遺跡の精霊井を止めることなので、こんな風に大勢がここに集まって飯のタネにしてもらっては困るのだ。
だから、アウィネアとラズには、気付かれないようにあたりの魔石を回収するよう念話で伝えている。
ここで野営している連中には悪いが、明日からしばらくは、ほとんど成果がなくなるだろう。
「中に潜るんですか!?」
エッタが喰いついてきた。
「いや、ふつうの冒険者が入って行ける場所じゃない、連れては行けないぞ」
「そうかー。ぜひ、お話だけでも後で教えてくださいよ。中には超巨大な魔石があるって、ホントなんですか?」
地表でこれなら、内部の魔石の結晶化も結構進んでいることだろう。
濁り魔石とうまく分離するして回収する方法が必要だが、魔石の量だけで言えば、竪穴まで行かなくても数十万は軽いはずだ。
「いや、前に見た時は濁り魔石だらけで、精霊術も働きがおかしくなるくらいだった。
魔石の材料は確かに大量にあるが、魔石としてまとまった量が取り出せるのは、相当な年月が経った後だと思うぞ。
大体、簡単に持ってこれる魔石があったなら、俺が持って出てる」
「え? 前はどこまで潜ったんですか?」
ジタにも食いつかれてしまった。
しまった……
「俺は魔道具ギルドにもいろいろつながりがあってな。封鎖区域のもう少し奥まで進んでいたんだ。これ以上は、機密に触れるから、立ち話では触れられん」
嘘ではないよな、いや嘘か……?
毎日、誰かを誤魔化して生きている気がするよ!




