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宝石野良娘のこと。

サルサリアの街に入る。


大都市だけあって、日が暮れても通りは明るく精霊灯で照らされ、宿屋や夜の店の窓が美しく輝いている。


夜のお店はさておき、ミューさんのいる例の巨大な魔道具の店も、まだ開いていた。

さすがに買い物の客は少ないが、道具の製作の打ち合わせや術の用法の講習などは、冒険や依頼の合間ということで夜に行う人も多いようだ。


カウンターにミューさんの姿を見つけて近づいていくと、一人しかいないように見えるのに、なにやら賑やかな会話が聞こえてくる。

なんだ? 女子会みたいな。


「こんばんは、ミューさん。まだ大丈夫ですか?」

「あ、ツヴァイさん。お久しぶりですね。

え? そちらの方々は…… 小人族……にしては美しすぎますね…… 妖精さん、ですか?」


「ふふふ、こいつらは、石の精霊が実体化したものなんですよ。こっちから、アウィネア、ラズ、パイロペです」


「ええーっ! 石の精霊が!? こんばんは、私はミューと言います。ちょっと触れてもいいですか?」


「俺に聞かずに本人に聞いてください。玩具やペットではないので、可愛がるってのは無しですよ」


「そ、そうですか。では、お近づきのしるしに握手なら……?」

「うむ、苦しゅうない。苦礬柘榴石の精、パイロペである」


パイロペが偉そうに答えて椅子に飛び乗る。パイロペがその指先ほどの手を差し出すと、ミューさんは小指で握手というか指切りのようなことをする。


「藍方石のアウィネアと申します」

「天藍石のラズだ」

二人はあっさりとした挨拶をするのみだ。


「そうですかー。実体を持つと、こんな感じなんですか……」

やはり食いついてきたな、研究者魂の奴隷め。


「みなさん、見てください。あれが、石の精霊の実体化した姿だそうですよ」


誰もいない空間に話しかけている?

みなさん?

って!


「みゅ、ミューさん……? そのカードたちは、ひょっとして……」


「はい、研究用の精霊石のストックから、カードを何枚か作ってみました。術は使えませんけど、みなさん、こちらの世界のことも見えているみたいで、石の精霊の世界のこともいろいろ教えてもらっているんですよ」


何ですとー。

いや、こっちの世界に来るだけなら、精霊石と札さえあればよいわけで、石はカード化を廃棄すれば戻って来るし、札は簡単に作れる。


戦闘に使おうと思うと、札も高位のものを用意しなければならないし、大量の魔石で育成する必要があるが、呼び出すだけならコストも失うものも特にないということか。


「一、二、三…七枚のカードですか。ちょっと見せてもらっていいですか」


薔薇輝石(ロードナイト)のローデ、珪灰石(ラリマー)のラリメア、緑閃石(アクチノライト)のアクテナ、黒曜石(オブシディアン)のオブシーデ、楔石(タイタナイト)のティターニア、風信子石(イエロージルコン)のヒヤシンス、鉄斧石(アキシナイト)のアクシア。


契約外の宝石公女、いわば宝石()()()だ。

最低クラスの札との組み合わせだから星は一つだし、契約が無いからスキルも表示されていないが、それぞれイラストで姿は分かる。


よく眺めてみようとしたら、パイロペが茶々を入れてくる。


「ツヴァイは、またそんな目をして、連れ出すおなごを選ぼうとしておるのか? 今度はどんな目に合わせて従わせるつもりなのじゃ」


「パイロペ、人聞きの悪いことを言うんじゃない」


「本当のことであろ? 挨拶もせんとジロジロと舐めるように眺めおってからに」


ん? 挨拶か。そうだな、モノじゃないもんな。

改めて向き合う感じにすると、声が聞こえてきた。


「ツヴァイ殿、我らの仲間が世話になっております。我が名はローデ、七名を代表してお礼を申し上げます」


「いやいや、なんであんたが勝手に代表みたいな顔してるのよ。私はアクシア。

私達は、パイロア、フィオーラ、カイアの話を聞いた。

それで、話を聞いてるだけじゃ分からなくって、こっちの世界を見に来ることにした。

ちょうどその話し合いをしている時に、私をミューが召還してくれて」


「力は要らないから、何人かこちらに召還して欲しいと頼まれたのです。

エピドテとの話で、石の精霊の世界と行き来するには札を使い捨てにしなければならないことが分かっていましたから、ほら」


ミューさんが示したのは、なんと、札の分厚い束だ。


「転写の術では時間がかかりますから、呪紋の印章を作ってみました。スクロール用の紙に、特殊なインクでこのスタンプを押すだけで、札の機能を与えられます。

力はほんの少ししか出ないみたいですけど。石の精霊についての術の研究は、エピドテがずいぶん協力してくれているんです。

もう少し研究が進めば、通信もできる気がするんですけど、わずかにでも次元間のゲートを開くには、精霊術のギルドでもかなりの上位の許可を得ないと許されないんです」


相変わらす、術の話になると止まらなさそうだ。


「術が制御を失うと、大変ですからね……。サルサリアのそばの遺跡でも、精霊井が大変なことになってますもんね」


パイロペが何やら口笛のような鼻歌を奏でている。


「そういえば、ツヴァイさんは、あの遺跡に潜ったことがあるんですよね。今は完全に通路が崩落してしまったんですが、魔石は前よりも多く出るようになっていて、奥では何が起こってるんですか?」


え?

「魔石が、上層でも増えているんですか……」


「そうなんです。土砂から染み出して結晶化するほどの精霊脈なんて、あまり聞いたことがないんですが」


単なる精霊脈じゃなくて、集めて吸い上げてくる精霊井だからな……


「それはちょっと気になる話ですね。一度調べてきますよ。

それで、ローデやアクシア達は、これからどうするつもりなんだ?」


アクシアが素早く応える。

「私達が聞きたいのは、精霊井とパイロペの話に、精霊の里のことだ。それを聞かなければ、投票だ何だと言われてもどうやって判断したらいいか分からん」


ほー。もっともな話じゃないか。

もっと勢いで進んでしまうかと思っていたら、案外パイロペのような単細胞は少数派らしい。


「丁度いい、一緒に遺跡に潜って見届けるか。精霊の里には、後で冒険者を連れて立ち寄る予定だから、それも一緒に行けばいい。

ミューさん、このカードたち、しばらく連れ出しても良いですか?」


「うーん、簡単に貸し出してしまうわけには行かないので、私も連れて行ってください」


「え? 遺跡にですか? 土魔術で無理矢理通り抜けていくので、かなり危険で不便な探索になりますよ?」


「こう見えて、私もいっぱしの術師なんですよ? ソロは無理でも、ついて行くだけならそんなに迷惑は掛けないと思いますけどね」


なかなかの自信があるようだ。貸し出しがどうのというのも、単に一緒に行きたい理由付けか。

まあ、モンスターがいるダンジョンではないし、土木作業を丁寧にやりながら慎重に進めばいいか。


「じゃあ、明日の朝、ミューさんは遺跡に入る許可を上司に貰ってください。お仕事の予定もあるでしょうし、黙って連れ出すわけにはいきませんから。俺は、明日の午前中にまたここに来ますので」


そういうことにして、店を出た。




薔薇輝石(ロードナイト)

https://www.mindat.org/gm/3407?page=2

珪灰石(ラリマー)

https://www.mindat.org/gm/29025

緑閃石(アクチノライト)

https://www.mindat.org/gm/18?page=7

黒曜石(オブシディアン)

https://www.mindat.org/gm/8519?page=3

楔石(タイタナイト)

https://www.mindat.org/gm/3977

風信子石(イエロージルコン)

https://www.mindat.org/gm/4421?page=6

鉄斧石(アキシナイト)

https://www.mindat.org/gm/29239?page=4


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