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サルサリアへ向かうのこと。

アラゴンは、猫獣人の呪いは実在するという。


「どこでそんな話を聞いたんだ?」

「私が掛けましたニャ」


「え? そんな術を使えるのか?」

「呪いの術など使えないですニャ。

誰しも信じたいことを信じる、だから皆が信じたいことを示してあげただけですニャ」


「どういうことだ?」

「自分勝手なのは、猫獣人の性ですニャ。でも、不都合な真実を正面から指摘されるのは嫌なものですニャ。

真実は真実として受け入れつつ、自分たちが責められない『理由』があるのなら、それは一番信じたいことですニャ」


「うーん、まあ、そんなこともあるかな……。で、なんでまたそんな話を?」


「あの話は、呪いと安心の二つで一組なのですニャ」

「安心?」

「呪いはあるけど、霊樹を大切にすれば大丈夫という安心ニャ」

「ふむ、そんな話だったな」


「猫獣人は自分勝手なものですニャ。自分勝手に暮らしていれば、自業自得のひどい目に遭うこともありますニャ」

「それはそうだが、自己責任が猫獣人の流儀なんだとしたら、他の猫獣人は、そういうことをあまり責めたりしないんじゃないか?」


「別に責められなくてもよいのですニャ。

それでも、その者が霊樹を大切にしていなかったら、加護を得られなかったせいだと考える者も出るかもしれませんニャ」


「うーむ、加護の無いことが呪いとでも言うのか……」

「まして、この森では私が霊樹の巫女で猫獣人の恩人ニャ。私達に逆らう者と従う者、どちらが良い目を見るかは語るまでもないですニャ。

霊樹との関係と私達との関係は重なり合って混ざっていくでしょうニャ」


「ほ、ほう。なんだか大きな話になってきたな」

「そうしたら、霊樹に逆らって、つまり私達に組織的な反乱を起こすような輩は出なくなりますニャ。

これで、はぐれの呪いの完成ですニャ」


「なあ、アラゴン」

「何ですかニャ」


「宝石公女って、札の立場によって知識を得るんだよな」

「そうですニャ」


「お前の……ハートの十の札は、ドルイドとかそんな、森の力を宿していると思っていたんだが、どういう地位がモデルになっているんだ?」


「元はドルイドで、やがて自ら新たな宗教を興してその使徒を称し、一方で商人としても成功した人物が、私に知恵を貸してくれているのだそうですニャ」


最後はそいつ、どうなったんだろうな……


「で、今のお前は」

「精霊の里の裁定者にして開発担当、猫獣人の霊樹の巫女にして食料輸入担当ということになりますニャ」


司法、国土開発、移民政策、宗教政策、食料供給。

アラゴン、お前は、どれだけの権力をその手にしようとしているのか……

って、任せちゃうんだけどな。


猫獣人の未来が、今日この場所で歪められた気がしないでもないが、またどこかで調整する局面もあるだろう……

俺は、そう自分に言い聞かせてこの地を離れることにした。

サルサリアに、行こう。


銀尖に、再びまたがる。

今度は、アウィネアとラズ、パイロペが同行者だ。

今から走り続ければ、日没までにサルサリアに入れるか。


「パイロペ、お前は猫獣人とあまり相性が良くないようだな」

なんせ、フワフワ、ヒラヒラの衣装だ。しかも、鮮やかな赤色。

そんな小さな生き物がそこら辺をちょこちょこ、ぴょこぴょこと歩き回っていたら、それはネコ科の生き物は反応せざるを得ないだろう。


「うむ。否定できぬな」


「これから先、どこで暮らす?」

「ツヴァイの隣が妾の居所ではいかんのか。別に寝床や家など要らぬのは同じであろ。おぬしはどこかに居を定めて暮らしたいのか?」


うーむ、暮らしの拠点か。

普通の冒険者なら、例えば集めたアイテムを集積するだけでもどこか場所がいるのだろうな。

俺の場合、眷属も宝石公女も、揃いも揃って装備品もアイテムも使っていない。

食事も不要なら睡眠も必要ない。


転生者特典で人外であることを隠す必要さえないので、ダミーの屋敷だのなんだのも使う場面がないし、俺は無趣味な人間みたいなものだな。


精霊の里も、自分の拠点にしてしまうかと言えば微妙なところだ。

自分の拠点として造り込んでしまったら、石の精霊の国って色合いは薄まってしまうだろう。

宝石公女も、拠点らしい拠点など不要だしな。

猫獣人ではないが、俺や宝石公女達にも、何か拠り所がいるのかもしれない。


考え込んでいると、パイロペが物申してきた。

「ツヴァイよ、何やら考え込んでおるの。そのうち、ドライのように、何もかも置いてどこかへ行ってしまったりせんじゃろうな」


ハッとする。

そうなのだ。

俺は、幾つもの架空の世界を渡ってきた存在。

この世界からも、いつか移って行ってしまう時が来る。

やはり、宝石公女には、俺以外の拠り所があるべきなのだ。


「そうだな、お前たちにも、拠り所が何かあったらいい気がしているんだ」

「拠り所、か。ツヴァイではいかんのか」


「うん、まあ、な。今はそれでいいんだが」

曖昧にごまかしてしまう。俺にも、答えが見つからん。


その後は、たわいもない話をしてサルサリアへの道を走っていた。

アウィネアは、猫獣人をモフモフしてみたいが怒られそうで挑戦できないとか、ラズは人間の冒険者がどれ程のものか戦ってみたいとか。


しかし、宝石公女は肉体を持っても、その攻撃はすべてが精霊術のようなものだ。

見た目の肉体が打撃を与えるわけではないので、少年漫画のバトルシーンのように、普通の人間の目には見えない攻防が展開されることになる。


モーションから危険を察知できるレベルの達人はともかく、一般的な冒険者が相手では、ラグだらけの格闘ゲームをやっているような一方的な状況になるだろう。


街道の中継拠点も走り抜け、途中の町も通過する。

80キロくらいだろうか、馬車なら一泊二日の行程だが、銀尖なら半日もかからない。

予定通り、陽が傾いたころにはサルサリアに到着した。


途中で追い抜いて行った街道の旅行者達の中には、「あれが噂の銀狼か」「凄い速さだな」「うらやましいものだ」と話している者もいた。


街道と言っても、土を固めただけで、でこぼこや轍は出来やすい。雨が降ればぬかるむ。

荷車でも、時速にして十キロ強しか出せない。特別の機構を組み込んだものでもない限り、それ以上飛ばすと、荷車や荷物が痛んでしまうのだ。


銀狼はともかく、オオカミを使っての速達便くらいなら商売ができるかもしれない。


サルサリアの城門の前で、銀尖を眷属の里へ帰す。

三人を連れて、旅人用の門へ回る。

俺は陽光としてすでに名を知られており、冒険者としてでも転生者としてでも顔パス状態で中に入ることが出来るのだが、三人が街に単独でも入れるよう、手続きをしておきたかった。


転生者の仲間としてしまうと、後々の活動に支障が生じるかもしれないので、猫獣人の移住の仕事に従事している者として身分証を作りたい。

門番の役人にそのように説明すると、さすがに珍しい案件らしく、上役を呼びに行ってしまった。


待たされることになったが、気にはしていない。

サルサリアは、城壁だけでも大した見ものだ。

スケール感、建築や彫刻としての美しさ、防壁としての工夫や施された魔術。


俺はクラフト系のスキルや、魔道具や建築に施すような術のスキルはないので、詳しいことは分からないが、それでも相当な技術と手間が掛けられた代物であることは分かる。

あるいは、神業のごとき術を使える転生者がいたのかもしれないが。


「どうだアウィネア、ラズ。サルサリアの建築は、素晴らしいだろう」

「ええ……そうですね、すごいものですね……」

アウィネアの反応は、微妙なものである。あれ?


「ラズは、どう感じる?」

「ええ、私達から見ますと、ものすごい数の精霊達が封じ込められているのが、美しい檻というべきか、表現に困るところはあります。

我が主も、このような城をいつかは構えたいということでしょうか」


「いや、俺はお前たちを解放する者だ。決して、どこかに閉じ込めるようなことはせん」

いや、装備品に魔道具が無くてよかったよ。

……黒長剣にも、何か宿ってるのか?


なお、三人の滞在許可と身分証明は、あっさり出たのであった。

猫獣人移住の事業に関して臨時の官職が設定され、順調に成し遂げれば、その功をもって市民権のようなものも与えられるのだとか。


俺は除いて、だけどな。



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