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ノルデニアに行くのこと。

やがて、先遣隊の一行は昨日の戦場である木立の辺りまでやって来た。

暇そうに伏せていた銀尖が、のっそりと立ち上がって俺を迎える。


飛竜のブレスが繰返し吹き付けられた辺りは、木々も傷だらけになっており、地面もすっかり荒れ果てている。


「酷い有り様だな。俺はスタルトの冒険者、アルファイン。救援の先遣だ」

アルファインが声を掛ける。

ノルデニアの兵士達が、死亡した兵士の亡骸を埋め、遺品を整理していた。


「救援感謝する。俺はノルデニアの兵長、オミクだ。

我らが生き延びただけでも、奇跡と感じている。もっとも、遺族の元を訪れるのは、気が重い話だがな」

隊長格の男が返す。


「その重さを背負うのは、生き延びた者の責務だろうが。

死んだ方がマシだったなんてことは、言わせんぞ」


「当然だ。救ってもらった恩も、返さねばならん」

オミクと名乗った男が、木の上を見上げる。


木の上から、アラゴンの声がする。

「おはようございますニャ。飛竜達は、逃げ去って戻ってこないみたいですニャ」


主力と子らをまとめて潰されたんだ。

憎しみもあるかもしれんが、野性の獣ならば、刻み付けられた恐怖の方が重いだろう。


「アラゴン、見張りご苦労。もう降りてきても大丈夫だ。アウィネアとラズはどうした?」


アラゴンが、するすると木から降りてくる。

「水源を探してあげましたニャ。兵隊さんと水を汲みに行ってるニャ」

そうか、決死隊だ、水も食料も無しに町を飛び出してきているか。


アラゴンが、飛竜から回収した石を渡してくれる。

飛竜の強さはよく分からないが、オーガの戦士よりは格上だろう。


いきなり十七個も集まってしまったが、全部に札を用意するには金も魔石も無い。

身体を作るにも、タイミングがあるしな。


「俺はツヴァイと言います。この妖精の戦士たちと、盟友ということになってます。

馬も失ってしまったんですよね。オミクさん達はこれからどうしますか?」

「町までは遠くない。歩いて戻るさ」


「町の被害はどうなんですか」

「飛竜の接近に比較的早く気付けたので、そこに居合わせた俺達だけでとにかく出発したのだ。ほとんどの飛竜はこちらについてきたので、町は大丈夫と思うが」


「アルファインは、どうします? おそらく飛竜はもう来ませんが、念のために本隊を出すのかどうか……」

「俺は、報告と相談のためにスタルトに戻るとしよう。馬車を預ける。怪我人を乗せていくとよい」


同行してきた術者が傷は癒しているが、術では傷は治っても体力は戻らないらしく、普通に歩けるようになるにはしばらくかかるらしい。


「かたじけない。この借りは必ず」

「いずれ、心意気で返してもらおう」


「それじゃ、俺たちもノルデニアの町に一緒に行きますよ」

「ぜひ、町の者達に紹介させてくれ。あの妖精の戦士たちをな」


「陽光殿、ノルデニアのご馳走とやらには期待するなよ」

アルファインが口にすると、周囲の冒険者も一斉に笑い出した。


「ジャガイモと? カブですか? 特産なんでしたっけ」

「特産という程のものでもないのだが、この辺りの者は、イモとカブがあれば平気という者が多くてな」

オミクが、ぶ然とした顔で呟く。


俺は何も食べなくても平気だけどな。

あ、宝石公女も食わないな。代わりに、魔石とか振る舞ってもらえばいいな。


「それでは、アルファイン、また後でスタルトの町に戻りますので」

「おう。ノルデニアの連中に、よろしくな」


俺と三人が銀晶に乗り、銀尖も兵士を三人ほど乗せてくれた。

普通は人間など乗せないらしいが、飛竜を死ぬ気で相手取ったということで、何か特別に認めてやったらしい。

乗っている本人たちは、神妙な顔をして固まっていたが。


ノルデニアの町までは、歩いても一時間くらいだった。

大きな二頭の銀狼を見て最初は騒ぎが起こっていたが、上に乗る人影や同行する馬車が見えて状況が伝わったようだ。

三騎の兵が駆けてきて、オミクが手を挙げる。


「オミク! 生きていたのか!」

「意地汚くも、な。いや、救ってもらった命だ、貶めるのはやめよう。


飛竜は撃退された!

そして、死を覚悟した十九名の兵のうち、十二名が生き延びることが出来た。

我らの恩人、妖精の戦士と冒険者ツヴァイを皆に紹介したい!」


ノルデニアの町は、質素というか武骨というか、街というよりも駐屯地という方が似つかわしいような風景だった。


北方の海の蛮族に対応するため築かれた砦が発祥で、蛮族が転生者によって大人しくなったあとは、漁業の拠点となっているらしい。


たまに海からモンスターが上がってくることがあるらしく、それを撃退したり、嵐の時期には漁船を陸地に引き上げるのを助けたりと、前世風に言えば、海上警備と港湾労働で暮らしている者が多いらしい。


採れた魚を新鮮な状態でサルサリアまで持って行けばいい値が付くと分かってはいるものの、冷気を作れる魔道具を備えた荷車を仕立てるほど漁獲が安定した量ではない。


仕方なく雑多で素朴な干物を作っているが、美食が溢れるサルサリアではなかなか見向きもされず、スタルトでも目立たない。


稼ぎとしては今一つなので、才気のある者は別の町に働きに出てしまい、ここの暮らしになじんでいる者だけが、自給自足に近いような質素な生活をしているという現状らしい。


町の人間も、素朴で我慢強そうな連中だ。


なんか、もっとテンション高くヒーローっぽい扱いで騒がれるかと思っていたら、地味に聖人か何かを崇めるような感じでありがたがられている。

どうも、魔石たかってる場合じゃないな。


と、アラゴンが漁師の親分のところで何やら話をしている。

親分が若い者に指示を出すと、若い者が走って行って、小屋から何か袋に詰めて持ってきている。


挨拶をして、アラゴンはこちらに戻ってくる。


「どうした? 何か貰ったのか?」

「魚の干物を貰ってきたニャ」

「お前たちも何か食べたくなる時があるのか?」

「ほとんどないニャ。たまに、コーヒーが欲しくなるくらいニャ」


「んじゃ、その魚の干物はどうするんだ」

「精霊の里に持って行くニャ」

「猫獣人への土産か」

ふるふると首を横に振る。


「試供品ニャ。猫獣人が気に入ったら、ここと直接取引をするニャ」


なんか言ってたな。

スタルトのそばで干物を買ってたとかなんとか。

猫獣人の足なら、下手な荷馬車よりかなり早いからな。


何だったら、生魚でも、厚手の袋に氷でも入れておけば、魔道具無しでも里くらいなら大丈夫かもしれないな。


さすがアラゴン、俺が見込んだだけのことはある!




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