新たなる伝説のこと。
先遣隊に、何と説明するか。
例の掲示があるから、目撃者がいないからといって全くの嘘ではまずい。
嘘ではない、というレベルで誤魔化すしかない。
そういえば、俺のLVも上がった。
あれだけ飛竜を狩ればな……
血の本体の増え幅も大きくなっていくようで、今みたいなちっこい実体化なら十人でも創れるし、成人サイズも創れそうだ。
さて、銀尖を地下壕の番として残し、緋夜とストラスは里に帰す。
「街道を戻って、先遣隊と合流しよう」
銀晶の背に乗って、走り出す。
「お前達は、こんなにも強かったんだな」
これは、紛れもなく、正直な感想だ。
「ふふ、実を言えば、我らも、久しく闘いの準備などしておらなんだ」
「そうなのか? 今回のために準備したってわけでも無さそうだったが。普通に連携もしていたじゃないか」
「ふん、まあ、なんだ。ストラスの奴が、言うので、仕方なく、だな」
「ストラスが銀晶に? なんて?」
「……それを説くには、ついこの間まで、我ら眷属同士がいかに長い年月にわたり争いあっていたかを、幾日もかけて語らねばならんな」
「仲直りしたのか? 最近? よく分からん話だな。
お前たちは、皇子の体から生まれた兄弟みたいなものだろう。
いずれも、皇子に従って働く」
「そう! そうなのだ!」
「嬉しそうだな。当たり前じゃないのか?」
「それを、当たり前のことに引き戻したのが、おぬしというわけだ」
「俺が何かしたか……? まあいい、今は協力出来ているのなら、それでいい。そういえば、緋夜は召還していないのに現れたな」
「緋夜は、常に皇子殿の警護をするように命じられたと言っていたが。今も、そこにほれ」
銀晶が視線を送った先には、小さなヤモリがいた。
常時監視体制だったのか。
そんな約束を、したような、していないような。
後ろめたいことは……特にないよな?
さて、しばらく走ったところで、先遣隊が前方に見えてきた。
といっても俺の暗視と遠視の組み合わせによるものだ。
向こうは気づいていまい。
合図を送った方が、驚かせなくてよいだろう。
しばらく前に手に入れたダンジョン探索用の道具の中から、照明を取り出す。
魔力を少し込めると、光を放つ。
手に持って左右にゆっくり振ると、向こうでも明かりを振っているのが見えた。
暗闇の中を近寄っていくと、何やらアルファインの声が聞こえてくる。
「アルファイン、俺です、陽光です!」
呼び掛けると、二騎ばかり馬を寄せてきた。
「陽光殿、大過無いか」
「はい、問題ありません。飛竜の状況は、落ち着いています」
「そうか。偵察、ご苦労。奴らも夜は動けぬからな、緊急の状況でなければ、ここでいったん野営としよう」
問題ないっていうか、襲撃も、おそらくもう無いんだけども。
先遣隊の数名が、手早く明かりを周囲に灯し、警戒の術を展開する。
残りのメンバーは、テントや焚き火の支度をする。
寄せ集めのはずだが、みな行動は素早く、手慣れている。
簡単な夕食を取りながら、俺の話を聞く流れになった。
「偵察の結果を説明してもらえるか」
「はい。ただ、俺が出発した時点とは、状況が変わってしまっています」
「む?」
「まず、飛竜による襲撃に対し、ノルデニアの騎兵の決死隊が、囮となって街から引き剝がすという作戦が実施されていたようです」
「うむ。人が密集した市街地では、飛竜の咆哮は被害が甚大だからな」
「騎兵の部隊は、街から離れた木立に陣を敷き、防御を固めて時間を稼いでいました」
「しかし、飛竜の群れに対して単なる木立では、咆哮を完全に防ぐことはできまい」
「はい、俺達が到着した時点で、騎兵たちは、かなりの数が傷つき、喪われていました」
「厳しい状況だな。それから」
「銀狼に飛竜の意識をひきつけてもらって、その間に俺達は、木立から少し離れた場所に精霊術で地下壕を掘りました。石の精霊達、宝石公女の応援で、生き残っていた兵士たちを地下壕に避難させ、治療を施しました」
「おお。石の精霊達か」
「その辺りは、また兵士から聞いてもらえばいいと思います。
肝心の飛竜の方ですが、銀狼達が囮となって走り回っているうちに、突然現れた巨大な鳥のような竜のような生物に襲われたのです」
「鳥のような竜のような、巨大な獣だと!?」
「はい。私も見たことのない存在でした。
ただ、飛竜の何頭かを叩き落して殺した後は、馬の死骸を抱えて飛び去ってしまいました。
私には、興味が無かったようで、特に関わっては来ませんでした。ああ、傷ついた飛竜のうち何頭かは、銀狼が仕留めています。
その後、生き残っていた飛竜も、何頭かは馬の死骸を抱えて飛び去って行きました」
「ううーむ。巨大な空の獣か……。陽光殿の見立てでは、人間にとって危険かどうかは分からんのか」
「もちろん戦闘力が非常に高いことは間違いありませんが、敢えて人間と敵対する様子でもありませんでした。この地を騒がせた輩を黙らせに来た、そんなところではないでしょうか」
「なるほど。この辺りはなんの変哲もない荒野だ、特に探索や開拓が試みられたことはないが、案外大物のねぐらがあるかも知れぬということか」
「その可能性は否定できません。街道を利用する分には問題なかったのであれば、無闇に刺激しない方がよいでしょう」
「藪をつついて蛇を出す事態は避けたいな。よし、ギルドや領主には俺から報告しておこう。飛竜をも狩る、空の獣か……」
またひとつ、無駄な伝説を作ってしまった……
遠い目をしてしまう。
「巨獣の災厄を収めてしまった陽光殿だ、そんな魔獣も対話が出来るのではないか?」
お? 何か感じ取ったか?
「ハッハッハ、冗談だ。
空を行く生き物は、縛られることを嫌う者が多いと聞く。
ましてそのような大物、ゆめゆめ侮ってはならぬな」
はい。ストラスには頭が上がらんですよ、と。
日の出まで野営で仮眠を取り、再び出発する。
五人が馬に乗り、二人が軽装の馬車を駆っている。
先遣隊のメンバーは、いずれもアルファインに次ぐような三十LV台の実力者だった。
俺は、精霊術、特にテイマー系の術者でありながら剣も遣う、異国の強力な冒険者として知られているらしい。
あんまり冒険できてないけどな。
銀晶を見ても、誰も驚かない。
転生者だと思っているのだろう。
探知や付与、回復などの術に長けたメンバーで、初めて見るスキルが色々あった。
俺なんか、修行したのに、結局大したことしてない気がするのは何だろうな……




