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飛竜狩りの衝撃のこと。

銀晶は、街道を外れ、背の高い草地に入り込んで走り続ける。

吹き付けていた風の音がやんだ? 違う、風と速度を合わせているのだ。

上空から見たら、風に揺れる草の波に溶け込んでいるのか。

さすが俺の戦術師範。芸が細かいぜ。


「ストラスも、戦いたがっておるぞ」

「ストラスが? あいつも戦闘系の技を持っているのか?」


銀晶に、また白い眼を向けられてしまった。

「その目で見るがいいさ」


銀尖とストラスを召還。

見れば、ストラスの羽毛が硬質な輝きを帯びている。俺の爪で引っ掻いてみるが、滑るばかり。なるほど、これが戦闘モードか。

羽毛を飛ばして攻撃、あとは、バフ、デバフに幻術系あたりか。

単独での陽動工作にはうってつけだな。


「ストラス、飛竜を引き離す囮を頼む。銀尖、銀晶と連携して、時間を稼いでくれ。

アウィネア、ラズは兵士たちを守りながら回復。俺は、簡単な地下壕を作ってからストラス達に合流する」


「兵士たちを驚かせてしまっても、よろしいですか?」

ストラスが妙な聞き方をする。

「宝石公女のイメージアップ作戦だ、兵士の前で目立ち過ぎることは、避けた方がいいな」

「かしこまりました」


「よし、戦闘開始だ!」


銀尖が九十度方向を変えて走り出す。回り込んでいくようだ。


ストラスは、その場で上昇し、何かのスキルを発動させている……無数の、黒い鳥が湧き上がる。

実体なのか? カラスのような濁った声がさざ波のように重なり合い、不穏な波動が打ち寄せてくる。

十分怖いよ、ストラス。

あれか、畏怖の効果だな。ヘイトを稼いで引き付けるってことか。


銀晶は最短距離で突き進み、木立の手前で俺は霧化しながら飛び降りる。

生命探知の結果、生存は十二名。うち重傷五名、軽傷七名か。


銀晶はそのまま走り抜け、今度は派手な走り方に変わっている。毛は逆立ち、銀の火花を帯びている。

それに、俺でもプレッシャーを感じるほどの、威嚇。

そこに、銀尖の、遠吠え。


飛竜たちが、三方向での異状に徐々に気付き、悠然と旋回していた群れの動きが、乱れ始めている。

様子をうかがっている個体、狩りを邪魔されて怒っている個体、威嚇を受けて危険を感じている個体。

挙動がバラバラになり、お互いの動きに気を配る余裕がなくなっている。


作戦、開始だ。


アウィネアとラズは小さい。

草の合間を縫って兵士たちの足元に駆け寄っていく。


「我らは妖精の戦士。助太刀いたします。まずは怪我人をこちらへ。手当もできます」

アウィネアが声を掛ける。小人の救援隊だ、説明はシンプルにしないとな。

信用してもらうため、ラズが治身で隊長格の怪我を癒していく。


俺は、目立たないように霧化したまま、土魔術で地面に斜めのトンネルを掘っていた。

飛竜のブレスは音と衝撃によるものだ。厚い土の壁の向こうには届かない。


アラゴンは、近くの植物を操作して、動ける兵士と一緒に重傷者を運んでいく。


地下壕が掘れたら、次は隠蔽だ。幻影でトンネルの入り口を隠してから、木立をいくつか増やしていく。単なる映像だから近付けば偽物とすぐわかるが、その距離ならカンテラの射程内だ。


「スタルトの冒険者たちが、こちらに向かっています。もうしばらくの、辛抱です」

アウィネアが、兵士たちに語りかけている。ラズの治療も続いている。

いいね。あの声で励まされたら、死の淵からでも甦るフラグだな。


「あ、ああ。我らは、全員、死を覚悟してこの任務に就いていた。そ、それでも……それでも、助けてくれて、本当に感謝する……!」

俺は隠れてというか、霧のまま聞き耳を立てている。

戦場の癒し手作戦、オペレーション・ナイチンゲールはうまく行ったようだ。


「飛竜の咆哮が吹き込む恐れがありますニャ。地下壕の奥の方に退避していてくださいニャ。入り口は、樹木の盾で固めますニャ」


兵士たちは、初めて見る妖精の戦士とやらに目を白黒させていたが、指示も受け入れてくれる。


地下壕に入ってもらったので、もう目撃される恐れはない。

それじゃ、兵士たちのことは三人に任せたぞ。


[兵士たちの安全は確保した。我が眷属達よ、好きに暴れるがいい]


銀晶も言っていたが、確かに、眷属達の本気の戦闘って見たことがなかった。

ここなら町からも遠いし、人間の目もない。

眷属の里にも影響はないし、問題なかろう。


何度も繰り返す。何度でも。俺は、同じような過ちを。


日は傾き、夕焼けの赤さを雲や木々に照り付けていた。

畏怖のスキルのレベルが上昇したか? と振りかえると、そこには巨大な影色の鳥が舞っていた。


丸みを帯びた猛禽類のそのシルエットは、確かに梟のものだ。

だが、黒曜石の光沢を帯びたその羽毛、真円を描く金色の瞳は、間違いなく夜の魔の気配を溢れさせていた。


梟が口を開くと、()()()()()叫びが、響き渡った。

小さな飛竜が、何頭も、断末魔の悲鳴を上げながら墜落していく。


飛竜の怒りが、膨れ上がる。

猛々しさを露わに、恐れさえ忘れて巨鳥に挑みかかる。

夜の魔鳥は、その巨体にもかかわらず、一枚の葉のようにスルスルと揺れながら木立の脇へと降りていく。


飛竜の尖兵が、重力を利用して加速しながら次々と魔鳥を追って降下してくる。


そこへ、木立の陰から、巨狼の姿が立ち上がる。針葉樹の木立と並ぶほどの巨躯。

咽喉を震わせ、口を開く。


音の、空気の振動が、静電気の火花を散らすほどの咆哮。

飛竜の翼の被膜が瞬時に引き裂かれ、飛竜達は、眼からも血を流しながら、次々と大地へ叩きつけられる。


飛竜の主力部隊を、一撃か。


「陽が沈みましたゆえ、推参いたしました」

どこだ? 緋夜の声がする。


強烈な魔力がそこらじゅうに溢れかえって、魔力探知が飽和している。


上空に、翼を広げて緋夜が浮かんでいた。

巨大化はしていないから、豆粒のようだ。


陽は沈んだが、残照でまだ空は茜色に明るい。

直射日光さえなければ大丈夫なのか。

っていうか、召還無しで来てるな。


宙に浮く緋夜の周りを、巨大な蒼褪めた馬の群れが、輪舞よろしく駆け回っている。

単なる馬……じゃないな、額に捻れた巨大な二本の角がある。バイコーンって奴か? それもアンデッド?


「緋夜、その馬はどこから来た?」

「そちらでくたばっておりました馬達を依り代に、たった今造りましてございます。残りの飛竜は、ワタクシが一匹たりとも逃さず仕留めて御覧に入れましょう」


いや、待て。

お前ら、待て。

確かに、好きに暴れろと言ったのは俺だった。


「ここに集合せよ。残りの飛竜は、逃げるに任せてよい」


眷属達が、元の姿を取り戻していく。

どうしたらいいんだ、これ。


「あーっと、銀晶。これは俺の思っていた展開ではない。分かるか」

「そうか。皇子殿の修行の成果を見せてもらおうと思っていたのに、獲物を横取りしてしまったね。すまぬ」

悪びれた気配は全く無いな。


「ストラス、どうだ」

「単純な釣りと待ち伏せの連携でしたが、トカゲ相手には十分でしたな。

これまで、皇子殿に、我ら眷属の戦力をお示しする機会が無く、申し訳ございません。

我らも、いつでも宝石公女達と同程度に戦えると、ご理解いただけましたでしょうか」


おう…… 確かに、このところ、ずっと宝石公女のことが俺の話題の中心だったけれど。

お前たちが、旧勢力として危機感を覚えているのを、すっかり忘れていた。


銀尖は…… 聞くまでもないな。尻尾振って褒められるの待ってる忠犬状態だ。

「うむ、銀尖の衝哮、見事だった」


「ワタクシは、どうしたら良かったのでしょうか」

さすがに、緋夜は出てこなくても良かったとは言えない。


「うん、反撃に備えてくれてありがとう」

いかん、心が、心がこもった言い方が出来ない。


「あの馬達って、術を解除したらどうなる?」

「消滅しますよ」


取り合えず、アルファイン達、先遣隊に説明しなきゃならんのは、飛竜の撃退方法と、馬の死体の消滅の怪か。


くっ…



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