表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/100

北に向かうのこと。

ブックマーク、評価、ありがとうございます!


カードが二枚砕けて、蛍石フルオライトと、藍晶石カイアナイトが一粒ずつ残された。


精霊術の光を目にした工房の職人が、近寄ってくる。

「そいつはどういう術なんで?」

「ま、精霊とお喋りをするってとこだな。今のところ」

職人は、怪訝そうな顔だ。


「そのうち、こういう精霊達が、町にやって来るようになる」

「よろしくお願いしますニャ」

俺の陰から、アラゴンが、ピョコンと飛び出して挨拶をする。


「はは、可愛いな、お嬢ちゃん」

「お触りは、禁止だニャ」

思わず職人が伸ばした手を、杖でひょいっとからめて止める。

「お、おお、すまん」

体勢を崩してよろけた職人は、頭をかいて謝った。

「今度から気を付けてニャ」


「さて、もう少し商売の話をしてもいいか?」


引き出しから、磨かれて澄んだ藍晶石をふた粒、小粒の苦礬柘榴石(パイロープガーネット)を一掴み、選び出す。

お迎えの準備だ。

四万Gを支払って、武具工房を出る。


巨獣騒ぎの討伐分は、おおかた使ってしまった。

猫獣人の移住資金の方はまだあるが、こっちは精霊の里に使わないとな。


里に向かうか、と町の入り口に向かったところで、騒がしい気配が集まっている。

冒険者ギルドの前だ。


「戦える者、支援ができる者は参集せよーっ!

ノルデニアで、飛竜の群れが出ている!

援護の先遣隊を出すぞー!」

ギルド職員らしい男が、階段の上から声をあげている。


分かりやすくて大変によろしい。

やじ馬の間をかき分け、ギルドの入り口に近付く。

「俺は『陽光』だ。参集に、応じよう」


右手を挙げて名乗りを上げると、周囲の人間がどよめき、歓声をあげる。

「おおぉぉぉー!」

「陽光!陽光!」

その名で呼ばれるのも、案外少ないんだけどな。


ギルドの中に入り、説明を聞く。

傷の手当ても生々しいノルデニアの衛兵が、ギルマスやアルファインと打ち合わせをしている。

ギャンマは精霊の里か。


「おお、陽光殿! 先遣隊に、参加してくれるか」

「はい。ちょうど、腕がなまるのを心配していたところです」

「剣の修行から帰ったばかりだというのに、それか。陽光殿も、案外、戦馬鹿の気があったか?」

がっはっは、という笑いが良く似合う。アルファインは、やはり戦場の男か。


ギルマスが告げる。

「アルファインを隊長に、7名で先遣隊を出す。陽光殿を加えて、8名だ」

「もう一人、加えてもらおう。俺の仲間、精霊導師のアラゴンだ」

「よろしくですニャ」

椅子の上に立っても、テーブルから顔がのぞいているくらいだ。


石の精霊を知らない連中がキョトンとする。

「妖精……小人族か?」

「ふむ。我が名はアラゴン、霰石の精霊の一族ニャ。以後お見知りおきを」

「石の精霊……なのか?」


ギルマスが説明する。

「この町には、石の精霊の冒険者が他にもいる。パイロペという術師は、強力な光を放って魔獣を狩るぞ」

「ほー。こんなちっこくても、一人前に術が使えるのか」


「戦場で見せてもらえばいいさ、急いだ方が良いのだろう?」

アラゴンの戦闘能力は、俺もよく知らない。道中で魔石も取り込んだ方がいいだろう。


「銀狼に乗って先行してもよいがどうだ? 斥候を兼ねるぞ」

「そうだな、あの銀狼について行ける馬はない。ノルデニア方面の街道は一本道だ。状況を確認したらそのまま戻って合流してくれ。我々もすぐに発つ。先遣隊の任務は、本隊の装備の確定のための情報収集だ、無茶はするな」


「了解した。アラゴン、行くぞ」

「皆の衆、また後でニャ」


表の野次馬をすり抜けて走り抜ける。

アラゴンは首筋にしがみついている。


町の門を抜けたら、銀晶を召還する。

「頼むぜ、銀晶。ノルデニア方面だ」

「乗っていきな、猫娘」

飛び乗って、走り出す。


「アラゴン、魔石を取り込んでおけ。このぐらいじゃ、全然足りないだろうが」

拳大の袋に二つ分の魔石を渡してやる。

こないだのと合わせれば、七千か八千くらいか。

カンテラの時のことを思うと、レベル的には最大の2割くらいがせいぜいだ。

それでも、そこらの冒険者では比較にならない能力を発揮できるだろう。


「やれやれ、宝石の娘は大喰らいだこと」

銀晶が、呆れたように呟いている。

オオカミなら、群れで一日働かせても、五粒か十粒で過ごせてしまう。

育てるのに膨大な魔石が必要なだけで、維持は大したことないんだけどな。


ザラザラと袋から魔石を飲み込んでいく様子も、手品を見ているみたいだ。

アラゴンの胴体は手のひらくらいのサイズなのに、その中に拳三つ分の石が入っていくのだから。

「ぷふぅ」お腹いっぱい、といった態のアラゴン。


「さて、皇子殿。飛竜の群れが相手らしいが、おぬしならどう相手取る?」

「飛竜か。空を自由に飛ばれると面倒だ、飛行経路を絞り込める地形があるといいな」


「地形か。ふむふむ。他の要素はどうだ」

「多数の同時攻撃や、数瞬ずらしての波状攻撃も回避が難しいだろう。相手の連携を乱し続けなければ、少数で多数を相手することはできないな」


「連携を乱す、か。あとは」

「飛竜は夜はあまり活動しないらしい。目に頼っているということだろうな」


「修業の成果を見せてみよ、皇子殿よ。敵の数さえ分からないのだ、油断するんじゃないよ」


「アラゴン、どうだ?」

何かの探知が働く気配がある。

「前方十二キロ内外、二十から三十の大型生物が滞空中ニャ」


銀晶の、ひゅう、という口笛が聞こえた気がした。

アラゴンの目と耳からは、逃れられんぜ。


「聞いていたノルデニアの町よりは、かなり手前だな。村でもあるのか、町の外で戦線を展開しているのか」

「飛竜の咆哮も聞こえるニャ。交戦中だニャ」

となると、ノルデニアの兵士と連携が必要か。


パイロペもイナグマもカイアもいないし、さすがのカンテラも、空中の敵には相性が悪い。

俺の味方は後続の本隊と()()だ。

まずは兵士の救援と時間稼ぎだな。


「視認まであと数分ニャ」

「周辺地形は」

「街道脇に木立、人間がそこに逃げ込んでいるみたいニャ」

兵士たちも、すでに同じことを考えていたか。

状況だけ確認して先遣隊と合流する手筈だが、一当たりしてみるか。


ちょいと予定より早いが、計画変更だ。

銀晶に合図して足を止め降り立つ。

二枚のカードを取り出す。


「藍方の盾アウィネア。天藍の拳尼ラズ。お前たちに、体を与える」


素早く魂無き身を形成、球体人形からアウィネアとラズの姿を作りあげる。

戦士の姿にしちゃ小さすぎるが、サイズと術の力が比例するわけじゃないからな。

血の本体を与え、カードを納める。

ちょっとした痛みと共に、ちんまい重騎士と格闘家の出来上がりだ。


藍色の方形盾、全身を覆う銀色の鎧も藍色の蔦の縁取りに飾られている。耳の下あたりで切り揃えられた黒に近い紺の髪、ひたむきな瞳。

藍方石(アウイン)の精の一族、アウィネア。


現世で言うアジア風のタイトな衣を纏う、切れ長の目、しなやかな立ち姿。

天藍石(ラズライト)の精の一族、ラズ。


こんな時でなければ、ゆっくり愛でたい出来栄えだな。


「これでお前たちは、自由の身だ。だが、まだしばらく力を貸してくれるか」

二人とも、静かに頷く。


再び、銀晶に騎乗し、駆ける。


午後の傾いた日に照らし出されたのは、幽鬼のように空を回遊する、十重二十重もの飛竜の群れ。

時折、木々の間に向けて咆哮を上げると、その周辺の木々が弾け飛んで枝葉を散らしている。


木々の間に、盾を連ねて防御陣形を形成している甲冑の人影がある。馬の死骸が、周辺に散らばっている。町から引き剝がすために、囮となった部隊か。


飛竜の群れは、いたぶるように繰り返して咆哮している。ブレスの類だ。

重装鎧といえども、衝撃波は防げない。耳や頭へのダメージがあるだろう。


「彼らを、護りたい。いや、宝石公女として、護ってみせろ。石の精霊の力を、見せつけてやるんだ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ