災厄の真実のこと。
本日2度目の投稿です。
「アラゴンに、身体を与えてやってくれまいか」
唐突に、イナグマが言う。
「む? 実体化させてどうする」
「アラゴンから、猫獣人達に呼びかけさせる。おそらく、人間や熊が語るよりも聞く耳を持つ」
猫耳つながりだけで、そこまでいけるのか? まあいいか、イナグマの言うことだ、従ってみよう。
皆に見せるのはあれだ、ちょっと木陰に回り込む。
眷属のメニューから、アラゴンのための「魂なき身」を創り出し、殻を纏わせる。
前世で言う東洋系の肌色、丸っこい猫目、栗色の髪には枝の冠と猫の耳。
草木染の長衣のような布を着て、木の枝のような杖を持った可愛らしい細身の少女。
パイロペと同じく50センチくらいだが、フワフワしたマントを身に着けているパイロペと比べると、ずいぶんほっそりしたシルエットだ。
血の本体を与え、カードを納める。
光を帯びるアラゴンと、俺には何かを失ったような痛み。
膝をついて目線を合わせ、語りかける。
「アラゴン、お前は自由だ。だが、もうしばらく、俺達に付き合ってくれるか?」
「ツヴァイ様、分かっておりますニャ」
思わず髪と耳をわしゃわしゃと撫ぜる。
「それは、イカンのですニャ」
顔を赤くしたアラゴンが、うつむいている。
おっと、そうだったな。
皆のところに戻る。
アラゴンは、後ろからスッスッという感じで軽快についてくる。
「みんな、これがアラゴンだ。よろしく頼む。イナグマ、ちゃんと守ってやってくれ」
アラゴンが、ピョコンと皆に頭を下げる。
パイロペの時とは、えらい違いだ。
「無論だ。アラゴン、私を手伝ってくれるか」
「はい、イナグマさん。よろしくですニャ。クシィさん、皆さんを、我々の眷属の里にお誘いしますニャ」
クシィが、目を丸くしてアラゴンを眺めている。喋って動く人形が突然現れて、びっくりしたか?
「アラゴン、体に気を付けるんだぞ。お守り代わりの魔石だ。腹が減ったら食え」
二つかみくらいの魔石を袋に入れて持たせてやる。
カードの時にレベルマックスまで魔石は与えてある。星二つとはいえ、この辺りの魔獣程度には簡単にはやられんだろう。
それに、戦闘系のスキルはなかったが、その分何か取り柄があるはずだ。今は確かめている暇はないが、そのうちな。
「では、ギャンマ、イナグマを手伝ってやってください。アルファインは町長達への説明を、ヴィタはギルマスによろしくとお伝えください」
「本当に一人でどうにかするつもりですか?」
ヴィタが聞いてくる。
「精霊の相手をするのは、いろいろと複雑なんですよ」
ヴィタが近づいてきて、耳元で囁く。
「夕べのような、精霊なのですか」
「いや、ああいうのとは違うっていうか」
ヴィタがジトッとした目でこちらを見てくる。
「違うけれど、やましいところはあるんですね。まったく」
色々やましいのは確かだ。ヴィタの思ってるのとは違うけど。
「さ、皆さん、早いところ猫獣人達の居場所を作ってやらないと、彼らも町の人々も、望んでもいないトラブルに巻き込まれることになりますよ」
アルファイン達は、荷物をまとめて出発する。
手を振って、皆を見送る。
「なんだ、パイロペも残るのか」
「気になるではないか。何が出てくるのか」
「悪いが、何にも出てこねえよ」
パイロペが怪訝そうな顔をしている。
いつもよりさらに低温の声が響く。
「そろそろ覚悟はよいか。野放しにしたら危険な存在とやらがどれ程のものか、身をもって教えることにする」
「待て待て、カイア、それは違うぞ」
「何がどう違う」
「あれだ、あれ。さっき言っていたのは、カイアのことじゃなくて俺だ」
何を言っているのか自分でも分からないが。
「野放しにしたら危険ということは認める」
「やらかしたのも俺ってことでいいじゃないか」
「では、従えるとは」
「ええと、あれだ。俺の中の、破壊衝動とか何とか、そういうものを比喩的に表現したのであって、カイアのことでは断じてない。お前は、単に俺の命令に従っただけだ」
「なんじゃ、これをやらかしたのはツヴァイなのか」
「ダイレクトに言うな……パイロペよ……これは極秘事項だ。今後、ここにいるメンバー以外には明らかにしてはならん」
「呆れたの、何が極秘じゃ」
「決して、俺の失敗を隠そうというのではない……不幸な事故……いや……これは俺の大いなる計画の布石なのだ」
「また何か言い出したの。聞いてみようではないか」
「ふ、すでにお前も見ていたろう。猫獣人達を、我が眷属の里の守りに使う。ゆくゆくは、精霊の里の住人として迎え入れ、石の精霊の国の礎となってもらうのだ」
これでどうだ!
冷気を帯びたカイアの白い眼が瞼の裏に浮かんで見える気がするが、覆水盆に返らず、水辺は元に戻らないのだ。
「無論、新たな里が彼らにとって少しでも良い環境となるよう、配慮はしていく。イナグマは優れた環境技術者、そして供につけたアラゴンは、水脈を探す能力を持つ。猫獣人達は、安全で快適なねぐらと新たな水辺を手に入れるだろう」
マッチポンプもいいところだがな!
「まあ、猫獣人のことはどうでもよい。あ奴らは、妾を見ると追いかけ回したくてたまらんようだからの。一匹くらい、柘榴眼で綺麗に息の根を止めてやって、上手な剥製に仕立ててやってもよいくらいじゃ。
それで、おぬしはここに残って何をするつもりかの」
「何か適当にやりあった形跡でも残すというくらいしか考えていないのでは」
よく分かっているじゃないか、カイア。
「というわけで、氷の狼 対 火の鳥、怪獣大決戦というのはどうだろうか」
「調子に乗るでない」「やはり身をもって教えることにする」
「冗談だ、冗談。……本気で冗談だ」
さて、俺も土魔術の初歩は学んだところだ。
訓練がてら、せめて氷狼の爪痕くらいは消していくとしよう。
どこぞの錬金術師よろしく、両手を地面に着ける。
スキル、土砂流動を発動。
柔らかくなった土が、どろどろと沈み込みながら傷のような爪痕を埋めていく。
探知系のスキルとうまく連携させると、地層ごとの固い、柔らかいも感じることが出来る。
粘土の層が崩れている、というのはこの辺りのことか。
大規模に動かすには時間がかなりかかりそうだが、下位の術では少しずつやっていくしかない。
良い仕事は、丁寧な作業の丹念な繰り返し、という言葉がある。
どちらにしろ、何かやってきたことにするためには、町に戻るのに時間を空けなきゃならないしな。
日が暮れるまで術を使っていたら、俺の土魔術も、多少は使えるようになってきた。
眷属召還(上位個体)、コウモリ。
するり、と降りてくる緋夜。
探知系のスキルを働かせているようだ。
近くにパイロペがいないことを確認できたのか、そそくさとすり寄ってくる。
「昨日できなかった修業を」
「いや、今日は術を使って欲しいのだ」
「術ですか?」
「この地面の下の方に、粘土の層があるのが分かるか」
音響探知の結果を、土魔術的に解釈する感じでスキルを発動させる。
当然、どちらも緋夜の方が圧倒的にスキルが高度だ。
「はい、衝撃で砕けたような状態ですね」
「それを、この窪地が池にできるよう、塞いで水が抜けて行かないようにして欲しいのだ」
「分かりました」
緋夜が、地面に向けて何か術を発動させている。
足元の地中で、ずるずると何かが這いまわるような脈打つ振動の気配がある。
「おお、ちょっと気持ち悪いな」
「泥竜の群れを集めて、器のように固めています」
さすが緋夜、あっという間の作業だ。
もっとも、しばらくすれば水が溜まるなんてことは、猫獣人には伝えない。
池の復活に気づく前に、向こうの方が快適ってとこまで持って行かないとな。
やらかしたのは偶然だぞ、ほんと。
巨獣の災厄の話で、ツヴァイがやらかしたのは、結構前のことです。
第19話 眷属と、宝石の公女のこと。をご参照ください。
https://ncode.syosetu.com/n5532ep/19/




