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討伐依頼の受託のこと。

「討伐依頼か。望むところだ」


ざっと依頼の内容を確認する。

掲示された侵害行為に関する調査、危険な存在の特定、討伐などいくつかの段階や内容が列挙され、それぞれに貢献度に応じた報酬が設定されている。


猫獣人は経済的価値のあるものをほとんど持たないし、知性のある種族を滅亡から守ることは領主の義務とされているため、財源はこの地方の太守から出ているらしい。

公共事業ということだ。


荷物をまとめたアルファインが声を掛けてくる。

「陽光殿、待たせたな。それでは、出発しよう。これからの出発だと、現地の近くで野営することになるが、良いか?」

「問題ない」


さあ、狩りの時間だ。


2頭立ての馬車2台に、アルファイン達と俺、イナグマと猫獣人の男クシィ、荷物という組み合わせで乗り込む。騒がしいので、パイロペもイナグマと一緒だ。


イナグマは尻がデカイので、馬車の座席に普通に座ることが出来ない。丈夫な荷物の上に転がっている感じだ。

猫獣人のクシィは、長の右腕のような地位にあり、現地での説明要員だ。人間はあまり好きではないらしいということで、イナグマとセットになった。


イナグマ自身は走っても構わんと言っていたが、捨てた犬に追いかけられているような絵面は御免だと、俺が乗り込むことを命じている。

馬も、こんな熊が後ろから走ってくるのは落ち着かないだろう。


詳しいことは現地で説明するとのことだったので、道中はむしろ世間話になる。


「ツヴァイは、ちょっと背が伸びましたか?」


隣に座ったヴィタが、俺の頭に手をかざして訊ねてくる。

本体の血の量が随分増えているからな、最初に会ったら数週間前と比べたら、ややマッチョになったように感じるかも知れない。


「しばらく、剣の修行をしていました。少しは力も付きましたよ」

「ほう。陽光殿は、誰かに師事していたのか」

アルファインは、斧槍も使うが剣も名人級らしい。


俺の師匠が誰かというなら、銀尖と銀晶か。

前に街道で一般人が見てもそれほど恐れていなかった。話してしまっても良いだろう。


「銀狼の精霊のもとで修行しています。彼らは剣を遣うわけではないので、それを言うと我流かもしれませんね」


「銀狼か。そういえば聞いたぞ。大きな銀狼の牽く荷馬車のことを」

「皆さん、思ったより恐れた風はありませんでしたが、やはり噂にはなっていましたか」

「それは、な。どこから来たものかと思っていたが、あれは精霊なのか」

「そうですね。召喚術のようなものです」

「ほー、噂には聞いたことがあるが、陽光殿は本当に色々な術を持っているな」


「例のカードの精霊も、順調に強化できていますよ。あのカードから実体化させたのがパイロペなんです」

「え、そうなんですか。てっきり、魔力で動く人形(ゴーレム)のようなものかと思ってました」


ヴィタが大きく食いついてくる。

「また妙な人形を作ったなあ、と思ってたら、例の女の子のカードですか……」

その、どっちもどっちみたいな言い方はヤメロ。


「ちゃんと人格というか精霊の本体がいますよ。パイロペの故郷には、妹だっています。体にも、生命がありますし、まだ成長もしますよ」

血の本体は、地球外生命体だけどな。嘘は言ってない。


「それで、アルファイン達は、あれからどうしていたんです?」

「街道の警備が一段落したあと、ギルドの依頼でオーガにやられた被害者の調査をしていた。崖の下の亡骸を埋葬したり、遺品を回収したりだな」


そういえば、冒険者も何人もやられているんだったな。

思い浮かばなかったのは、自分が死に鈍感になっているからだろうか。

冥福を祈るのは、人間たちに任せておこう。


「修行をしてきたのなら、一度手合わせして頂きたいな」

アルファインが言う。


今なら普通に近接戦闘もこなせるかな?

「いいですね。他人と剣を交えたことがないので、お願いします」


「こんな脳筋たちに付き合わなくてもいいんです。

あんまり鍛えすぎると、ギャンマみたいになりますからね、程々に控えてください。

試すというのなら、ドレスとか着てみてもいいんですよ」

ヴィタが、俺の二の腕の辺りをさすりながら何か言っている。


ギャンマが静かだと思って見ると、座席で眠りこけていた。

「ギャンマさん、お疲れの様子ですね」

アルファインに聞いてみる。


「うむ。猫獣人、ギルド、町長を交えて、避難の段取りを付けるのに駆けずり回っていたからな。

猫獣人の中にも、人間の町になど近づきたくないという者も多い。今は獣人にも権利が認められているが、昔は家畜や奴隷のように扱っていた人間が少なくなかった。


町の人間の方でも、大勢の獣人がいきなりやって来ても、受け入れる場所など余っていない。苦労して場所を作ってやっても、別に来たくてこんなところに来てるわけじゃない、などと言い出すので諍いが絶えんのだ。

早いところ解決してやらんと、長引いたら暴発する奴が出てくるかもしれん」


立派な難民問題じゃないか。

正直言ってあの獣人たちに思い入れは無いが、かつての転生者が骨を折って、人間以外の種族も平和に暮らせるよう取り組んだんだ。

ここはひとつ、俺もその遺志を尊重してやるとしよう。


やがて馬車が止まり、荷を降ろして森に入る支度をする。

今日は、少し入ったところに作られた調査拠点で野営をするようだ。


明るくなってから活動するのはいいが、俺は食事も睡眠も必要ない。

討伐の前に、残っているチュートリアルを片付けておくか。


「アルファイン、修業の続きをしがてら、周辺の森の様子を見てきます。深夜まで帰ってこないかもしれませんが、気にしないでください。何かあれば、コイツを経由して連絡します」

オオカミを一匹、置いておいた。


「ちゃんと帰ってくるのですよ」

ヴィタが自分用のテントを指さしている。

なぜそこで寝ることになっている?


軽く手を振って森の中に走り出す。

魔力探知を最大範囲で発動するが、特に目立つ反応は無い。

むしろ、部分的に精霊の力が薄い箇所があるくらいか。


深い森だ、少し日が傾けばすぐに真っ暗になる。

眷属召還(上位個体)、コウモリ。

赤みを帯びた光の輪を通って、ぬるりと緋夜が降り立つ。


「緋夜、お前に術を教えてもらう時が来たぞ」

「ふふふ、何の術から教わりたいですか? ワタクシのおすすめの順番でよろしいですか?」

相変わらずベタな奴め。


「ほう、おすすめか。最初に何を教えてくれるのだ、我が夜の眷属、蝙蝠の羽を統べる者は」

たまには乗っかってみる。

「そうですね、今夜は長くなりそうですからね、ゆっくりと考えるとしましょうか」

そう言いながら、腕組みをして立つ俺に後ろから抱きついている。


「術か。妾にも、修行を付けてくれんかのう、蝙蝠の姫さんよ」

「ちょっと、パイロペとやら、ツヴァイ殿の修行を邪魔してはなりませんよ」

赤いニワトリを追いかける振りをして、ブラブラと歩いてくるヴィタ。


ねえ、緋夜さん、爪が伸びて、何か食い込みつつあるんですけど。

そのあと、無茶苦茶修業した。


ヴィタは、真面目に修行をしているだけの俺を見ていて、明日も早いし寝るわ、と戻っていった。

パイロペ、よろしくね、と言い残したのはどういう意味か。


パイロペも、杖を振って了解の合図。

いつのまに仲良くなったんだよ。

まあ、仲良くなってくれた方がいいんだが。



ブックマーク、ありがとうございます。ちょうど一月ほどかけて、二桁に至りました。






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