眷属の里での修業のこと。
意識が戻ると、そこは再びの眷属の里である。
しかし、前回ははフワフワと頼りない感覚のもと漂っているだけだったのが、今回は自分の体の感覚があり、指先まで動かせる。
緋夜の手を離れ、跳んだり走ったりしてみる。
変身もできる。
重力は軽く、動きはスローモーションのようだ。
中身がスカスカの、人型の風船のようなイメージか。
大きな白く光る狼の形の塊が滑るように近づいてくる。
「銀尖か」
銀尖は、咥えていた剣のようなものを渡してくる。訓練用のものか。
「お待ちしていた、皇子殿」
「あやつと長話をしてしまった。この眷属の里は、このままで過ごせそうだ」
「それは良かった。銀晶にも、ようやく吉報をもたらせるというもの」
「まったくだ」
災厄の報せばかりもたらす皇子だったからな、俺は……
「早速だが、修行をしたい。よろしく頼むぞ」
「お任せを」
最初に、銀尖は、大まかにこの眷属の里での修行について教えてくれた。
ここでは、向こうの世界の百倍くらいの速さで時間が流れる。こちらで二時間過ごすと、向こうでは一週間が過ぎているということだ。
あまり長く過ごすと、戻った時に世情が変わってしまっていることがあるので、短い時間で行き来した方がよいようだ。
修業というのは、結果から言うとまさにチュートリアル、皇子の身体の操作説明だった。
格闘ゲームやアクションゲームにあるような、一定の入力に対してプリセットされた動作が発動する、あれだ。
スローモーションで動作するため、何が起こっているか、どういう動きなのかが確認しやすい。
バリエーションや微調整を重ねながら、コンボのようなものも重ねていく。
十分親切設計だったよ! 取説読まずに低レビュー書いてて済まんかった。
銀尖に言われるままに動作を発動させていくと、合わせて新たなスキルが取得されたり、レベルが上がったりしていく。
何このイージーモード。っていうか振り返ってみると、今までの縛りプレイ感。
いや、主人公、火力全く無いなー、ってずっと言ってた。
勝手にそういうゲームだと思い込んでいたが、こうしてチュートリアルをこなしてみると、普通に爽快長剣アクションな感じだったというオチ。
マゾゲー世界も糞ゲー世界もいくつも渡ってきたからね、ゲームバランスの常識なんて持たないようにしてるつもりが、逆に先入観だったか。
そして、チュートリアルのまとめ、小テストは中位眷属とのバトルだ。
そういや、普通のオオカミと銀尖、銀晶しか知らなかったな。
後で聞いてみよう。
中位眷属、褐色の鈍い光のオオカミのシルエットは銀尖達よりさらにデカい。
とはいえ、銀尖達のような鋭さは感じない。動きも単調、言ってもチュートリアルだな、と。
各種のスキルやコンボを試していけということか。
人型の機動をベースに、コウモリの翼を混ぜての空中機動、茨血鞭を多脚に用いての地上高速機動、殻の密度を高めて攻防一体の甲殻形成。
いやー、色々あるな。どっかで見たような技が多いので、再現や習得も割とスムーズだ。
わざと受けてみた時に削られたのを除けば、ほぼ無傷で勝利。
おっと、こんなんでもLV上がるんかーい。
前のLV上昇時にも札を手に入れているのだが、6や7なので放置だ。カードを更新してしまうと、また魔石も必要になるしな。
ステータスも大幅上昇でアルファイン達を超えた。思ったより早い。誰かもう一体くらい体を与えてもいいのだが、移動がな…… 早くパイロアと渡りを付けたいところだ。
あ、向こうに戻ってフィオーラかヘンミィを召還してみるか。うまく会えたかな。
緋夜を探してきょろきょろしていたら、銀晶らしき光の狼がやってきた。
「皇子殿、こちらの修行も受けて行かれるか?」
そうだな、まとめてこなしておこう。
銀尖はこまめに戻った方が良いように言っていたが、行き来するたびにまた、緋夜とあの柩モドキに横になるんだもんな……
頷くと、銀晶が大きくのけぞるようにして遠吠えをする。
光のオオカミ達がどんどん集まってくる。
うおー、これは100匹超えてるだろ、結構数増えたってことか。
最初の頃にかなり使い捨てにしてたからな。
いや、ほんとに済まんかった。
こっちのチュートリアルは、戦国ストラテジーみたいな。
部隊編成、行動指示、陣形や地形や敵との相性、コウモリ、フクロウとの連携。
指示に従って召喚や命令をしていくうちに、スキルを取得したりレベルが上がるのは銀尖の時と同じ。
隊長クラスの個体も召還できるようになり、あとは名を付けて血の本体の一部を分け与えると強化されるとか、お約束な感じのやつ。
とはいえ、やはり軍勢レベルの数を召還して維持し、運用するには魔石が結構必要になる。これも、当分はお預けだな。
戦術チュートリアルの仕上げテストは、森の一定の区画内で逃げ回る光のウサギを狩るというものだった。
コウモリで広域索敵、フクロウで監視しつつ、周囲からオオカミを動かして移動経路を誘導し、最後は……真後ろからの低空飛行、フクロウで狩り獲った。
銀晶がトレーナーの割りには、オオカミがフィニッシュじゃないんだな、などと思っていたら、ウサギが形を無くして戻って行った先には緋夜がいた。
「ツヴァイ様に、捕まってしまいましたー、ふふふ」とか何とか。
楽しそうで良かったなー。
LVアップまではいかなかったが、結構経験値が入っているようだ。
短時間、といっても数時間は過ぎたのか? 修行の成果はバッチリだ!
銀尖、銀晶に礼を言う。
「うむ、皇子殿がこれほど早く修業を終えるとは思わなんだ」
「好き勝手やるだけあって、大したものじゃないか」
シルエットしか見えないけれど、浮かぶ銀晶さんの笑顔が怖い。
はい、もっと早くにチュートリアル、受けるべきでしたね。
「今、我はまた新たな力を得られた。眷属の里にさらなる繁栄をもたらすゆえ、もうしばらく待っておれ」
小さなオオカミやフクロウの形の灯火たちに語りかけ、魔石のかけらをばらまいてやる。
現世にいた頃、地元の地域には菓子撒きという風習があったのを思い出す。
祭りやら祝い事があると、袋詰めした菓子を集まったご近所さんに、高いところからばらまいて配るというものだ。
子どもも老人も、はしゃいでいたな。
オオカミやフクロウの形の灯火が、そこかしこで跳ねるように踊りまわっていた。
さ、緋夜、戻るとするか。




