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新たな眷属の里のこと。

ちょうど、銀晶の姿が見えてきた。

氷のスロープというか長い長い滑り台が、緩やかに上下しカーブを描きながらその後に続いている。


ここは周辺が見渡せるような丘の頂上だ。

滑り降りていくスタート地点には恰好だが、その後には緩やかとはいえアップダウンが続いていく。

動力はないので、出来ればこの位置エネルギーを保存していきたいところだ。

ま、このソリにはブレーキはないんだけどな。


あきらめて、ソリに乗り込む。

スライム化して、平べったく張り付く。

空力的にはこんな感じか?

日よけを兼ねたカウリング風の殻で全体を覆う。


分かってる。俺は死なない。

仮にコーナーで曲がり切れなかったり、ジャンプで方向がズレてコースアウトしようが、300キロを抱えて下敷きになったとしても、俺は死なない。どうということはない。

むしろ、碇石を守ることが大事だ。


ただね、なんかね、下腹部がひゅうってなるだけでね。

スライムだから、下腹部も何もないんだけどね。


銀晶が、勢いよく俺を…いや、ソリを押してくれる。

3、2、1、クール、ランニーン!





他に方法は無かったか?

自問自答しつつ、街道付近でパラシュートよろしく大きく広げた羽で速度を落とす。


後ろからは、銀晶とカイアが氷の滑り台を解除しながら追従している。


スピードを落とすといかんと思って、まさに薄氷を滑り降りてきたが、銀晶が普通に追って来れてるんだから、止まったときには銀晶が引っ張ったらそれで済んだんじゃないか?


カイアの術が時々前方で発動してて、そこを通過すると速度が上がっていたような気がするのは錯覚か?

ふっふーとかトナカイを追う時の掛け声みたいに聞こえたのは気のせいか?


パイロペはパイロペで、クリスマスみたいな歌、唄ってたし。

この世界、ソリ遊びはあってもクリスマスはないやろ?

いや、転生者か?少なくとも石の国にはないやろ。

しかし、言われてみるとパイロペはクリスマスっぽい色使いだな。

今は春なのに。


もういい、過ぎたことだ。

俺は無事に碇石を街道まで運び届けた。

そのことだけを、今は思おう。


銀晶が、隠してあった荷車を持ってくる。

追い付いた銀尖と2頭で、ソリごと咥えて持ち上げ、荷車に載せる。意外とスムーズだ。


何か、もう、いいか。

2頭にまかせて、そのまま街道を爆走する。

後方に土埃を巻き上げながら走る風景は、前世でたまにプレイしていたラリーカーのゲームを思い出すものだった。

ドリフトしたりな。ブレーキ無いけどな。


町に近づいたので、さすがにスピードを落とさせる。

俺も人型に戻り、荷車に座っている。

行き交う行商人などは、巨大な銀狼の牽く荷馬車を目にして驚いていたが、何だか逃げ惑うこともなく、受け入れている。


何だろう、人間ぽく振る舞うとか、俺のやってることってみんな取り越し苦労なのか?

無力感にも似た感情に襲われながら膝を抱え、ドナドナを口ずさむのであった。

パイロペが肩に乗って合わせてくるのがまた。


スタルトの町はスルーして、森へ入る予定の箇所まで進む。

ここからは森の中だ。

ここもカイアの凍橋でソリを曳いて進もうかと思っていたのだが、改めて尋ねてみる。


「銀尖、碇石って担いで歩けるか?」

「うまく固定さえしてくれれば問題なかろう」


はい。俺が抱え込んで一緒に乗ってればいいってことね。

荷車とソリは置いていく。

いいアイデアを、思いついた気がしたんだが。

もっと皆の話を聞くべきだってことで。


銀尖の上で揺られながら、戦闘について改めて聞いてみる。

「銀尖、今の俺の戦い方をどう思う」

「未だ成長しておらぬのに、よく敵を屠っている」

お。お褒め戴きました。


「だが、やはり技を身に着け、力を強くせねば、刃の届かぬ敵も多い」

「うむ。俺もそう思う」

「我が元で修業をするのが良い」


そりゃそうだよな。剣技や武道に近道はないわなー。

宝石公女なんて強化するの一瞬だったからな。何か手っ取り早く成長できたりするのかと甘く考えてたわ。


銀尖が続ける。

「まずは、眷属の里を開くのが先だ」

そうね。優先順位を忘れてはいかんよな。


「眷属の里ならば、こちらの世界の数十倍の早さで修業が出来る」

近道、あった。


そういえば、ストラスもそれらしいこと言ってたな。

眷属の里では、こちらの世界より遥かに素早く効率よく眷属を育てられるとか何とか。

俺も、眷属の里に行けるってことか。


何はともあれ、この碇石をさっさと運んでしまわねば。

といっても、俺は石と一緒に銀尖の背に揺られているだけなのだが。


山のふもとに近づくと、イナグマの気配が感じられた。

牙城よりこちら寄りに迎えに来ているらしい。

見ると、イナグマの周囲に小動物が集まっている。


「イナグマ、そのリスやトカゲ達はどうしたのだ?」

「語りかけ、餌付けをした。森のバランスを保つのには、色々な種類の動物がいると便利だ」


「お前の使役獣みたいなものか」

「病気の枝があれば折取ったり、たくさん発生しすぎた虫を間引いたりさせる」

イナグマ、まめな奴だ。

称号を「閃光の園芸の才(グリーンフィンガー)」とでもしておくか。


肩に乗っていたパイロペが呟いている。

「あやつ、もう混ざり合ってしまっておるの」

「どうした?」

「あの熊は、単なる熊ではない。あの雷の槍に宿っておった精霊が、熊の魂と混ざり合ってしまっておる」


「電撃の術を使って言葉も喋る。ただの熊じゃないことくらい、一目で分かるだろ」

「力のことではない。熊の肉体を持って居るが、心は精霊のものに近づいているということじゃ」


「うん?聖獣みたいなものか?」

「そこまでお上品なものではないと思うが、森の守り人になれるかものう」

「そういう仕事をする予定なんだよ。そのままじゃないか」

「揚げ足を取るでない。見ているがいい、そのうち驚くようなことをしでかすぞ」

林業チートってか? 精々期待しておくとしよう。


イナグマが、牙城の裏手にあった一本の大樹の方へ案内していく。

大樹の奥には木々に囲まれた小さな湖があり、対岸には山からの流れが見える。

美しい場所だ。

湖の底の方から魔力の反応を感じる。

湖底からの湧水に、精霊の力があるようだ。

地下に、精霊脈が通っているのだろう。


うむ、よさげな場所だ。

光が満ちて、爽やかすぎて、夜の支配者たる我々にはどうかと思わないでもないが、眷属用には近場に地下施設でも作れば良いだろう。

こちら側の普段の世話は、眷属達がするわけではないからな。


銀尖の背中から、碇石を降ろす。


試しに、銀晶に眷属憑依を行ってもらう。

碇石を軽々と抱えあげられるくらいのステータスアップも感じるが、スキルの種類が違うようだ。


周辺の獣や眷属、カードの気配などが、動きや波動も含めて詳細に感じ取れる。自分の視野も広く、高い位置から俯瞰しているかのような感覚がある。

集団を指揮する系統のスキルが複数展開されているようだ。


銀尖が格闘戦闘なら、銀晶が戦術指揮を強化してくれるというわけか。

オオカミやコウモリの群れのほかにも、宝石公女の配置とも連携できそうだ。

使いこなすタイプのスキルというより、支援してくれるタイプのスキルのようで、すぐにでも活用できるだろう。

さすが、面倒見の良いおかんだな、銀晶。


ついでに、馬力も十分か。

本気ではたかれたら地面に叩きつけられそうだな、これ。

しょうもないことを考えながら、碇石を地面に立て、固定のための魔法陣を発動させる。

眷属憑依は解除。


ふう、と一息ついたら、碇石を地中に設置、この土地を眷属の里と結びつける。

眷属の里を解放、展開。

あとは、碇石の防護と隠蔽か。


「ストラス、様子を見てきてくれ」

召還を解除し、しばらく経ってから再度召還する。

「どうだ?」

「問題ありませんな。おめでとうございます。新たな眷属の里の成立でございます」

「日が暮れたら、緋夜も呼んで、引っ越し祝いでもするとしよう」

宴をやってもいいのだが、今のところ、みんなして魔石を齧るくらいしかないのが寂しいところだ。


「銀尖、銀晶、イナグマも、今日は良く働いてくれた。これからも、この森を良い場所にしていこう」


穏やかに、皆が頷いていた。




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