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アウィネアが振り返るのこと。

アウィネアは、騎士団長である、らしい。


この世界でのアウィネアの日々は、困惑に満ちていた。


藍方石(アウイン)は、近隣に数十石が在るだけの、小さな一族である。

それが、さらに新たな石が生まれなくなっていた。

いや、生まれてはいるが、あまりに小粒で精霊を宿すところまで行かないのだ。


アウィネアの後に宿った精霊は一石のみ。妹のアウイナだけであった。

小さく、か弱く、育ちもよくない。


藍方石は、数こそ少ないが、過去には大いなる力を宿す精霊を生んだこともある石の一族だ。

アウィネアは、何が起こりつつあるのかを知るため、「旅に出ることを選んだ石」となった。

「旅に出ることを選んだ石」となった途端、今まで見えなかったもの、知らなかったことが急に見え始める。

宝石公女という存在、力を行使すること、人の心を模した仕組みが与えられたこと。いずれも、旅に出るために必要なものとされている。

そして、アウィネアは、旅への願いを捧げ、待っていた。


[申請は受理されました]


ある時、どこからともなく、声が伝えられました。

引き上げられるような感触があり、光り輝く道を通っていることの次に認識したのは、たくさんのささやかな風や草木の立てる音と、一枚のカードに収められた自分の身体の感覚、人の世界の仕組み、スキルの用法、そして契約者たるツヴァイ様の存在。


召還されたその瞬間、ツヴァイ様は喜びの波動に包まれていました。期待、興奮、歓迎、様々な色合いの波動が入れ替わりながら立ち上り、私も、その波動に共振するように生誕の喜びを感じていました。


だが、その波動は急速に反転していったのです。喜びの波動が失われ、虚無がじわじわとツヴァイ様を覆い尽くす。何がそれ程にツヴァイ様を絶望させたのか、私には見当もつきませんでした。


斬撃のスキルが発動される。

力を見せてみよ、そういうことでしょうか。言葉の掛け方も、分からない。


召還されたものの、体にはほとんど力を感じられない。

かつて持っていたような精霊として存在するための力さえ、枯渇し切っていたのです。

それでも、私は、与えられた小剣で懸命に切りつけました。


「行きます!やぁっ!」

スキル発動の指示に応えるようにすれば、声を出すことが出来ました。

だが、自分からはうまく発声することが出来ません。

斬撃は、我ながら弱々しすぎて、顔が赤らむほどでした。


木の枝の一本さえ折れぬ一撃に、ツヴァイ様が哀しみと怒りの波動に包まれ、ひどく失望しているのが感じられました。


ツヴァイ様は吸血鬼の皇子。大いなる目的の為に、強力な力を求めているのでしょう。

この程度の力しか無いにもかかわらず、札の地位の一つを占めようという私は、何という無知、恥知らずだと思われているのかも知れません。


それでも、次にツヴァイ様が私のカードを手に取り、スキルを発動させたときには、哀しみや怒りの波動は消えていました。しかし、次に待っていたのは、私の精神力が尽きるまで回復や身代わりの術を繰り返し発動させ続けるという、拷問のような時間でした。


なぜ、傷ついていもいないツヴァイ様に回復を行うのでしょうか?

なにゆえ、敵もいないのに身代わりの備えをするのでしょうか?

どうして、無意味な場面で術を発動するツヴァイ様は、期待や喜びの波動を帯びていらっしゃるのでしょうか。


私は、目の前の出来事が理解できない自分の愚かさと、術の行使による疲労のあまり弱気になり、いつしかツヴァイ様のことを恐怖の対象として見てしまいました。

そして、そのような自分にまた落ち込むような日々が続いていたのです。


私は宝石公女として与えられた知識、人間の世界について伝えられた情報によって、吸血鬼の皇子が非常に強力で恐れられる存在であることを知っていました。

我が主は、いずれ不死の王となり、恐怖によって世界を支配するのだ。そのような魔王というべき存在にとって、私なぞ駒の一つに過ぎない。それも、何の役にも立たない駒の。

従属こそすれ、親しみを抱いたことが勘違いだったのだ、と自分に言い聞かせていたのです。


ところが、再び私を不安定にさせる出来事が訪れました。

数日を経て、もう一人の宝石公女、アラゴンが召還されたのです。


霰石(アラゴナイト)は、言っては悪いけれど、ありふれた石で、精霊が宿ることさえ珍しく、宿ったとしても大きな力を持つのは聞いたことがありません。


私は、自分と同じようにツヴァイ様を落胆させるだろう、無体な仕打ちを受けるだろう、それでも、助け合って、励ましあって、仲間として友人として過ごして行けると、思っていたのです。

ですが、そうはなりませんでした。


アラゴンが召還されたとき、ツヴァイ様は最初、大きな反応を示しませんでした。

軽い落胆の波動、そんなものだろうな、という雰囲気でした。

ですが、途中から急激に喜びと楽しみ、興奮の波動に包まれたかと思うと、発動させたスキルに狂喜していました。「水源探査」に。


またも、私には理解が及ばない出来事です。

ツヴァイ様は、何か水源を探していたのでしょうか?

思い返しても、そのような場面は浮かびません。私が召還される前のことなのでしょうか。


アラゴンは、獣人族の姿をまとった愛嬌のある娘でした。

主に喜びをもって迎えられ、その後もお気楽に過ごしているようにしか見えません。余り呼び出される場面はないものの、外を覗いては、あれは何だろニャ、と騒いでいるくらいです。


私はと言えば、術を行使し続けることからは解放されたものの、どうやってこの先お役に立てばよいのかも浮かばないまま鬱々と日々を過ごしていました。

正直なところ、アラゴンにも、その気持ちを打ち明けることが出来ませんでした。


どうやってお役に立てば良いのか分からないなどとアラゴンに相談したら、「そんなのツヴァイ様に聞いてみたらいいニャ」とか言うに決まっています。

しかも、「あちしも聞いてみたら、『お前はそこにいてくれるだけでいいんだ』とか言われたニャ」なんて言い出したりして、ますます悲しい気持ちになる未来しか見えません。


アズやシーラ達、幼い精霊たちに対しては、ツヴァイ様もそれ程望むところは無いようで、時折何かを発見されたかのように喜びを纏うものの、特にご不快を示すことはありませんでした。

つまり、力の無い者のうちでも、私以外に、ツヴァイ様に哀しみや怒りを覚えさせた者は独りもいないのです。


そうこうしているうちに、カイア、カンテラ達、本当に力のある精霊たちが集まってきました。

カイアは多彩な術を使い、常にツヴァイ様の盾となって頼りにされています。

カンテラは、言うまでもなく我らのうちで最強の刃。まだ幼きツヴァイ様を上回る火力でもって敵を屠っていきます。

そして、ラズ。


ラズが、ツヴァイ様に対して反抗した時のことが思い出される。

ツヴァイ様は、修行に異を唱えられたラズに対して、驚きを示したものの不快感は持たれなかった。しかし、私には、疑念を示され、解放を望むのかとまでおっしゃられた。


私は、ツヴァイ様の盾、ツヴァイ様の鎧でありたいと、ここに残らせてくれと、それだけを伝えるのが精一杯だった。

ただ普通に語ること、ともに旅をすること、それだけが私の望みだと伝えると、ようやくツヴァイ様に満ち足りた喜びの波動が現れました。


新たな札を与えられ、魔石を流し込まれた今、私の能力は大きく向上しました。

ですが、戒めを忘れてはなりませn。

私は他の精霊とは扱いが違うのです。最初から、私には分からない業を背負っているのです。

でなければ、あんな、魔虫に…目の前で齧らせて…


そして、今。私は騎士団長だという。

一体、どのような日々が来るというのだろうか。

騎士団。何を率いて、何と戦うことになるのだろうか。

いや、この忠義と献身を以て、いかなる仕打ちにも、耐えてみせます。

魔虫の軍勢、とかでなければ…


「ラズ、アウィネアはどうしたのだ?顔色が悪くないか」

「カンテラか。いつもの祈りでは。我が主に何かを捧げているのかね」

「アウィネアはツヴァイ殿のお気に入りであるからな。熱心なことだ」

「とはいえ、我が主も大概なお方だからな。良くもああまで献身的になれるものだ」

「まったくだ」


アウィネアの安息の日々は、遥か遠い。


藍方石(アウイン)

https://www.mindat.org/gm/1833

霰石(アラゴナイト)

https://www.mindat.org/gm/307


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