雷の熊のこと。
[イナグマよ、今よりお前はカンテラの配下だ。この稲妻の槍は使えるか?]
[憎い槍だが、強い力を持つ。使いこなして見せよう]
お、名前を付けると知的になるパターンか?心なしか、顔つきまで精悍になってきたようだ。
槍の形である必要はないので、そのうち別の武具に作り替えてやりたいな。
[イナグマよ、ここにはお前たちの牙城があった。この辺りには、人間は入ってこないのか]
[この森に人間の役に立つものは少ない。魔虫も多い。人間は森や山に入ってこない]
[イナグマ、お前にその槍を刺したのはどのような人間だったか覚えているか]
[忘れない。大きな街から来た冒険者たち]
サルサリアの冒険者か。また衝突すると厄介だな。目印をしておくか。
[我々は人間と協力関係にある。人間に出会っても、自衛以外の戦闘は禁止する。攻撃されないように、お前に目印を付けておく]
殻で怪我をした目のための眼帯と、ローブのようなものを作り、まとわせる。デザインも、比較的人間ぽいものだ。
服を着て装備を身に着けていれば、獣人か何かに見えるはず。いきなり襲ったりはするまい。
むしろ、あとで町の連中に紹介しておくべきか。
イナグマに、朝になったら町に行くことを伝え、残骸にしてしまった牙城の中から持ち出す荷物があれば用意するよう言っておく。
お、探索に出していたオオカミが帰ってきた。
石は3つか。
まともな札もないし、取り合えず仕舞っておく。
こいつらも、何か目印を付けておいたら人間が驚かなくなるか。
今度、町で相談してみよう。
さて、この森が里の根拠地とできるかどうかも、検証してみないとな。
ストラス、緋夜、銀晶を召還。
「銀晶、ずいぶんと時間がかかってしまったが、里の候補地としては、どう思う」
「ふうん。なかなか良さげじゃないか。一回りして見てくるよ」
「そうだな、銀尖と銀晶とで、周辺の魔獣や危険な存在の探索を頼む」
「ストラス、どう思う」
「地形は悪くないですな。山も近いので、植物の種類も変化があります。水路を整備できれば、さらに植生も多彩にできるでしょう」
「よし、ストラスは環境の整備について調査ってことで」
「ワタクシはどうしますか?」
「緋夜は、俺と一緒に精霊脈を探そう」
緋夜と一緒にコウモリに変化し、ひらひらと夜の森の上を飛ぶ。
俺も魔力探知を最大に展開しているが、緋夜の方がステータスもスキルレベルも遥かに高い。
ずっと遠くまで見えているのだろう。
暗い森に、魔力を持つ魔獣や植物がほのかな光を灯している。
魔力を帯びた植物は、水か土に魔力が含まれていることを示し、湧水が光を灯していれば、その地下に魔石や精霊脈があることになる。
夜の星、地上の星。
地上の星は、精霊たちにとっては、たわわに実った果実のように見えるのだろうか。
「ふふ、良い夜ですね」
隣で飛ぶ緋夜は嬉しそうだ。
「そこの赤ニワトリがいなければ、もっと良い夜でしょうに」
俺の上には、パイロペが乗っかっている。
いったん肉体を持ってしまうと、カードにはなれないのだった。
しばらく夜間飛行を楽しんだ後、再びイナグマの牙城の辺りに集合する。
何というかな、ある意味分かっていたのだが。
ストラスがまとめてくれる。
「やはり、この場所が良いようですな」
イナグマが陣取っていたのは、この辺りで一番良い場所だった。
そうだな、イナグマはいろいろ探知系も優れていたし、熊の仲間を集めて連携するほどの組織力も持っていた。要塞めいたものも建造していた。つまり優秀なのだ。
というわけで、牙城跡を、もう少し吸血鬼の根拠地らしく作り替えていくことにする。
さて、具体的な手順だ。
「ストラス、眷属の里を移すにはどうしたらいい?」
「里の碇石を移すことになりますな」
「碇石か。やはり重いんだろうな」
「そうですな。我々が飛んで運ぶのは難しいでしょうな」
そうすると、陸路か。
今はどこにあるか聞くと、スタート地点だった草原だという。
目印になるようなものは何もなかったな。
埋めてあるのか。
そう遠くないし、運搬ルートを検証しがてら、今から現物を見に行くか。
あまり大勢で飛ぶと目立つので、俺とストラスだけにする。
ストラスが、高速で飛翔できる術を掛けてくれた。俺は、影纏いを発動させる。
おお、強い追い風を受けているかのように勝手に進む。
陸路を想定し、街道を使う前提で道のりを確かめる。
30キロ弱あったはずだが、20分ほどで着いてしまった。
ついでに、現在の場所を魔力探知で見て回る。
多少の精霊脈も露頭しているし、悪くはないのだが、周辺の土地から様々な生き物が入り込みやすく、それで精霊の力が消費されてしまうのだろう。
土も肥えておらず、砂の多い土壌なので、大きな植物も育ちにくそうだ。大きな樹は深くまで根を降ろすので、地下の精霊脈との連絡も生まれるらしい。
新しい場所の優位性を確認したところで、碇石の現物を確認する。
土の中に立てて埋めてあり、魔術的な目隠しがなされていて魔法探知にもかからない。
俺の存在は管理者として登録されているようで、近づくと操作用の魔法陣が浮かび上がってきた。
手をかざして権限にアクセスすると、地中の本体が感知できるようになった。
1メートルほどの、三日月を丸めたような形の石で、重さは300キロほどか。
サイズは大したことがないが、そこそこの重さがある。
銀尖、銀晶なら犬ぞり風に引き摺っていけなくはないか。
街道までを犬ぞり、街道は荷車で運べばいいとして、最後の森の中がやっかいだな。
街道から5キロくらいの道なき道だ。腐葉土が積もって柔らかい土壌だから、下手に落としたりしたら土の中に埋もれてしまうかもしれん。
といって、立派な道を作ってしまうと、人間その他が入り込む機会が増えてしまう。
こんなことなら、デカブツや他の熊を作業員として生かしておけば良かったか。
緋夜も土魔術を使えるが、大規模な土木系の術は習得していなかったな。
後々の里の整備なども考えると、俺も一緒に習得してもいいんだが、魔石の獲得に案外苦労してることを思うと、悠長に勉強してる場合でもないしな。
と、いいことを思いついた。
朝になったらスタルトの町に行って、ちょっと作ってもらうことにしよう。
よーし、眷属の里の引っ越しだ!




