赤い鳥が踊るのこと。
感動的な和解を経て、戦いの時が来た。
いや、すまんかった。
かっこわりぃ…
改めて。
身を削ってパイロペを戦力に迎えたのだ、見せてもらおうじゃないか、火焔の柘榴石の性能とやらを!
少しだけ残っていた魔石を渡してやる。
赤いフワフワのマントを羽織った50センチくらいの生き物が走り回っているので、何かデカくて派手なニワトリみたいだ。
魔石を手のひらに受け取ると、ひょいぱく、ひょいぱく、と一方の手でつまんでは飲み込んでいく。
「今のは?」
「ん?飲み込んで強化に使った。カードはそのまま魔石を取り込めるが、この体は魔石を弾くのじゃ」
ほー。
「すると、前に肉体を捨てたってのは?」
「あの場で、周囲の魔石と直接繋がって力を使うためじゃ」
無茶しやがって…
「火力を上げてもあれには攻撃が通じないと、それは知らなかったわけか」
「そうじゃな。妾が愚かじゃった」
お、素直に認めるようになったか。
「あんなこと、二度とするんじゃねぇぞ」
「おぬし、契約は完了の時を迎えたのだぞ」
「そうだな、これは命令じゃない。ただのお願いだ」
「ふん。お願いなら聞かねばならんな、そうであろ?」
首根っこを捕まえて、ワシャワシャと髪を撫でてやる。
行けよ、愛しき赤ニワトリ。
「では、始めるか」
再び魔石を口にする。
何が違うんだ?と思ったら、バキン、ゴキン、ジャゴリ、ジャリ。
こいつ、噛み砕いてやがる…
鳥を象った杖を振りながら唄い、踊る。
何か言ってるみたいだが、地面の傍だしよく聞こえないな。
ひょこひょこ、ぴょこぴょこという感じの不思議な踊りだ。
「…魔石詠唱・燎原榴箭」
最後の発動の文句は聞こえた。
すっと立ち止まって杖を掲げたかと思うと、シュボ、といった感じの音がして何かが飛んでいく。大層な字面の割りに、地味な術だ。
奴らの牙城まではまだ数百メートルある。迫力のない音だったが、届くんだな。
詠唱に5秒くらい掛かっていたし、どう見ても無防備だったから、不意打ち専用だな。
空中を飛んでいるかすかな光は人間にはとても見えないだろうし、軌道が放物線だから障害物越しに攻撃できる。こちらの姿を見せずに使うのがいいんだろうな。
そんなことを考えているうちに、小さなきらめきが、牙城に落ちる。
突如、巨大な土饅頭のようなものがぶわっと現れ、次の瞬間に衝撃と轟音が強烈に吹き付けてきた。
ドゴォ…ン!!
榴箭って、榴のイメージカラーか何かの話かと思ったら、榴弾の方かよ!
あ、なんかLV上がったし…。何頭の熊をやったのかも分からんが…
ちっとも上がらないだけに、ステータスの伸びがすごいな。
パイロアの体を創って減った分をカバーして、さらに相当上回っている。
もう一LVくらいで、アルファイン達と並べるんじゃないか?
スッキリした感じのパイロペが聞いてくる。
「もう一発、撃っておくかの?」
「いや、石探すのも大変だろコレ。パイロアは距離を取って援護。カンテラ、カイア、行くぞ。銀尖、よろしく」
銀狼にまたがり、疾走する。
カイアは水晶壁を盾のように展開、カンテラは鬼人化を発動して待機。俺は黒長剣を構え、狼騎士の突撃だ!
牙城まで、あと20…10メートル…銀尖の召還を、解除!
カイアの盾にしっかり隠れる。
バガァーン!
やっぱり来た。
だがもうカンテラの射程内だ。
強化した乱舞陣、見せてやれ!
朱金の旋風が立ち上がり、崩れかけた牙城をさらに捻り潰していく。
アウィネア、ラズは硬化、身代わりを発動。俺を護りながら同行。
傷だらけの電熊を発見。
行くぜ!黒長剣を振りかざし、突撃。
ゴアァ!
電熊も吠えながら向かってくる。
ラズ、アウィネアから見えない打撃が襲い掛かる。
だが、しっかり感じ取っているな。
電熊は、両手を振りまわして跳ねのける。
体にまとった電界がセンサーの役目も果たしてるのか?この少年漫画野郎め。
手数を重視して斬撃を繰り出す。
威力の無さを見切って、奴も攻勢を強める。
ギリギリでかわし、時には食らいながら、反撃してくる。
アウィネアやラズが、それを身を呈して弾く。防ぐ。
1対3の削りあいが展開される。
俺に見えているのは、電熊と、宙を舞うカード2枚だが。
大したタフさだが、血を流してたのが運の尽きだな。
デバフ!デバフ!デバフ!頭の中では処刑用BGMが流れ始める。
威嚇、牽制を発動。
周辺をあらかた切り刻んだカンテラの乱舞陣を解除。こちらへ合流。
髪針で削りながら牽制させる。
そこへ、後方からパイロペが柘榴眼を発動。
片目からビーム!
なんだあの呪いの赤鶏人形。
完全に包囲している。HPもかなり削った。
あとは一方的に削り切る!のではなく、麻痺眼を発動。
反撃の風雷をカイアやアウィネアにどうにかしのいでもらいつつ、麻痺眼で睨み続ける。
よし!通った。
電熊が、ついに膝から崩れ落ちる。
さーてと。痛みに備えて気持ちを高める。
うりゃっ…ぐぐぐぐ…き、きついなこれは…
はあ、はあ。
吸血鬼だから別に酸素が足りなくなるわけではないのだが、つい昔の癖で激しく呼吸をしてしまう。
溶けてはじけた手の殻を眺める。
「カンテラ、槍の穂先に沿って斬鉄だ。癒着しててそのままじゃ抜けん。切開して取り出す」
これはこれで痛いだろうが、我慢しろってんだ。いや、麻痺眼は麻酔にもなるのかもな。
カンテラの斬鉄が、毛皮と肉を滑らかな断面で切り開く。
内部の肉なら俺の爪でも切れる。新たに作った爪なら、清潔だしな。
刺さった槍の穂先に沿って切開していく。
雷をまとった槍を抜き、断面は閉じてから俺の殻で塞いでおく。
体から引き剝がしたら、ようやく雷が治まった。
刺さっている間中、電撃の効果ってことか。よく生きてこられたな。
念話で話しかける。
[おい、電気熊。どうする。悪いが、他の熊は狩らせてもらった。降参するなら命は残すが、そうでないならお前も狩るだけだ]
[降参シテ、ドウナル?]
[俺は戦士を集めている。お前は戦える熊だ。俺の配下に入れ]
[オマエハ強者トハ、ミトメナイ]
[失礼な奴だな。じゃあ、こいつの配下に入れ]
カンテラを示す。
[ワカッタ。強キモノ、名ヲオシエテクレ]
[カンテラだ]
[カンテラ将軍と呼べ]
[カンテラショウグン、オレノ命ハ、オマエニ預ケヨウ]
よく分からん世界だが、獣のことは獣の流儀に任せよう。カードだがな。
いや、こういう奴なら精霊も見えるのか?
この電熊、プリンスフォオリ・ウルス・デトネールという名前が表示されている。
[名はなんというのだ]
[名ハ無イ]
[…じゃあ、デンクマ、いやイナグマだ]
デンクマはさっきまで馬鹿にしてるような呼び方だったからな。負けたやつにそのまま付けるといじめっ子みたいだからな。
なお、どっちがマシかとか、俺の命名センスには誰にも文句は言わせん。
[イナグマよ、今よりお前はカンテラの配下だ。この稲妻の槍は使えるか?]
[憎い槍だが、強い力を持つ。使いこなして見せよう]
お、名前を付けると知的になるパターンか?心なしか、顔つきまで精悍になってきたようだ。




