ミューさんのカードのこと。
「石の国の女王は退位してまいったぞ、陽光殿。新たな盟約の始まりじゃ」
八重歯を光らせて笑顔のイラスト。
元女王、パイロペが帰ってきた。
なんで?なんでなん?
「何しに来たん?」
「陽光殿に会いに、であろ」
「何でまた宝石公女やるん?」
「精霊のままでは、戦えんであろ」
「今度は何と戦うん?風車とか?」
「なぜ風車と戦うのか」
教養の無い奴はこれだから。
世界が違うか。
「陽光殿は戦うんであろ?」
「誰とやねん」
「同じ顔をした、あやつと」
む?
先代の皇子のことじゃないのか?
「先代の皇子なら、もういないんじゃないのか?」
「先代の皇子か?そんな雰囲気ではなかったがの」
「同じ顔だったんじゃないのか?」
「顔はな」
「顔以外は?」
「だいぶん違ったの」
んー?
「背が伸びてたとか、マッチョだったとか?」
「マッチョとは何であろ?幽体のことかや」
何でマッチョが幽体になるよ。
え、そゆこと?
「そいつは、肉体を捨てたのか」
「そうなるのかの。ああ、最初に知り合うたときには、確かに肉体を持っておったな。いつの間にか、幽体となっておったが」
「なんで俺とそいつが戦わねばならんのだ?同じアンデッドだ、親戚かも知れんぞ」
「戦わぬかー。ひょっとしたら、そういうこともあるのかの」
今一つ、話が掴めんな。真祖の形態として、幽体もあり得るのか?
「しかし、妾は戦いたいのう」
「そうなのか」
カードから、急に熱を感じる。
「そりゃ、そうさ」
巨大な猛禽類の眼のような像が脳裏に浮かび、思わず俺は身構える。
「やられっぱなしは、嫌であろ?」
ふっと気配が消える。
コイツ…
「妾は三歩歩けば忘れてしまうからの、陽光殿にくっついて行くのさ。さすれば道はあやつへと続くであろ」
そういうもんか…?
まあいい。予言者を気取るガキなんて、道端で拾うほどいるさ。
しかし、なんだこのスキル構成。
「魔石詠唱・燎原榴箭」「魔石詠唱・焔衝哮」「柘榴眼」「火鳥嘴」
「どうするとそんなスキルになるんだ?」
「くくく。伊達に二度目の契約ではないぞ。こちらに呼ばれる時に、強く、強く願うことで、得られる術をある程度誘導できるのじゃ」
「ちなみに、なんて願ったんだ」
「焼き払う。魔石を喰らって放つ地獄の炎であやつを焼き払い、消炭に変えてやる…」
なんかまだ喋っているが、とりあえず、このカードは仕舞っとこう。魔石の無駄で、環境への害悪だ。
はっ。ミューさんの視線でようやく我に返る。
「そのカードは、精霊との通信具なのでしょうか…?」
「ええと、まあそのようなものです」
「先ほどの赤い石は、精霊石ですね?」
「そうです」
「札と石で、そのカードが作れると」
「どうでしょう?これは俺しかやったことがありませんが…」
ミューさんが、スクロール転写で札を増やしている。
机の引き出しから、くすんだ濃い緑色の石を取り出し、載せる。躊躇のない動きだ。
緑光の渦が、ミューさんの手元から顔を照らし出す。
圧力を帯びた魔力が、ミューさんの髪を揺らしている。
出来上がったカードは、渋めの緑色に金の縁取り。
覗き込む。表示された名は、緑簾の奥の姫、エピドナ。
いきなりの星三つか。
だが、何か違うな。
出来上がったカードに、スートも数字もなくなっている。
ミューさんが話しかける。
「エピドナ…?聞こえる…?」
「我が名はエピドナ。そなたは何者か」
「私はミュー」
「ミューとやら、何か用か」
おっと、ミューさんには何も説明してないな。この現象は俺にも謎だが。
「エピドナ?ちょっといいか」
「そなたがツヴァイ殿か。パイロペを救い出してくれたとのこと、感謝いたします。時に、このミューという人間は何者か」
「ミューさんと契約はしていないのか?」
「その人間と契約は出来ぬ。詳しくは分かりませぬが、盟約の責務の力が足りぬようです」
俺にはその力があるってことか。
「契約しないと、いけないのですか?」
「契約なしでもこちらにいることは出来ます。ですが、力はありませぬ」
本当だ、スキルがない。
宝石公女のスキルは、トランプの札で表される地位に従って与えられるということか。
「ミューさん、確かに、その状態ではエピドナは術を使うことが出来ないみたいです」
「術というのはどういうものですか?」
「おそらく、俺と契約すると、その時に付与されるのでしょう」
「ツヴァイさんの、独自の術なのですか?」
「スクロールや魔道具のような感じです。たまに珍しい術もあるみたいですが」
「なるほど。化石龍の兵に似た仕組みのようですね」
おっと、何か新しい言葉が。
「化石龍の兵、ですか。興味深いですね」
「これだけ術の秘密を明かしていただいているのですから、相応の情報を提供しましょう。こちらへ」
店の奥の方にちょっとした試験用のブースのようなものがあり、そこに設置された丈夫そうなガラスケースに近づいていく。
よく見ると、ガラスというより水晶の板のような感じで、角度によって結晶構造が浮き出て見える。何かの力で強化されてそうだ。
両腕をケースの中に入れられるようになっており、内側にはゴツイ籠手のようなものが置いてある。あれだ、現世で危険な薬品や病原菌を扱ったりするやつ。あんな感じの隔離装置だ。
ミューさんが、ケースの中の箱の一つを近くに引き寄せ、蓋を開ける。
バシュ、という感じで中から黒っぽい棘が数十本、飛び出す。
ケースの壁に衝突し、キキン、という硬質な音を立てる。
ミューさんは意に介さず、ケースの中のカードを取り出す。
…なんというか、モンスターのカードだ。黒針竜とか何とか。トレーディングカードっぽい。
宝石公女のものより、ずっと多くの記号や数字が書き込まれているが、魔道具としてはよく似た気配だ。イラスト的にはしょぼく、最低クラスか。
まあな、カードバトル要素は確かに予測していた。
だが。まさかの。宝石公女以外にもカードがあるのかよ…何なんだよ…みんな、飽きるの早過ぎるだろう…こんなに要素増やして、俺の物語だってどうなるか分からないよ…
「西方の帝国で、とある筋から手に入れたそうです」
「貴重な情報を、ありがとうございます。今は西方の帝国に向かう余裕がありませんが、いずれ行ってみたいですね」
ちょっと、もう、お腹いっぱいになって来たので今日はおしまいにしよう。
「エピドナは、私どもが預かってしまってよろしいでしょうか」
「あー、どうなんだろう。そちらの紙と石で呼び出しているんですもんね。」
やばい、術を広めることにもなるが、何にも考えてなかった。
スタルトの連中は全然興味を持たなかったが、ここの研究者ならいろいろ実験をしそうだ。
「エピドナ、お前はどうなんだ?」
「そこのカードのように閉じ込められるのは御免です」
「そりゃま、そうだろな。こいつみたいに暴れたりしなければ、大丈夫かもしれんが。ミューさん、どうなんです?実験サンプル扱いで閉じ込めたりひどいことしたりします?」
「危険性が低いならば、閉じ込める必要はありませんよ」
「じゃあ、しばらくミューさんのところにいるか?なんか、エピドナは賢そうだし、ミューさんにいろいろ教えてもらったらいいんじゃないか」
「分かりました。そうします。ミュー、よろしくお願いします。ただし、貴方は私の主ではありませんので勘違いなさらぬよう」
「では、友人ということでどう?」
「…そうね。それはいいわね」
エピドナも、外の世界を見たくて出てきた石なのかな。
ま、この店にちょくちょく立ち寄ることになりそうだ。
緑簾石
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