赤の女王の空位のこと。
かくして、破壊の限りを尽くした女王は里へ帰り、ハートのQは、空位となった。
が、俺達には後始末が残っている。
どうすんだ、これ。
召還したストラスに、改めて装置の仕組みを確認する。
「精霊井以外の装置全部が跡形もなく破壊されております。精霊の力の貯蔵、魔石の精製、副産物の回収浄化、魔石の貯蔵という4つの装置があったはずなのです。
とはいえ、精霊井からの精霊の力の流入は続いております」
パイロペ、余計なことを…
破壊によって何かを守れるなんてことは、あんまりないのよ。ほんと。
「カイア、石の国からの力の流出という話は知っていたか?」
「石の国が弱まっているとは言われていた。新たな石の精霊が生まれにくくなっている。大きな石まで育たない、と。力を奪われているという話ではなかったが」
「割と深刻な状況だったのか?」
「我々石の精霊は、地の底に散らばって存在している。人間のように集まって暮らしているわけではないし、全体のことを知っている者は少ない」
パイロペも賢いキャラではなさそうだし、騙されていたというか、利用されただけなのか?
石の国の事情も、よく分からんしな。
ダメだ、何も浮かばん。保留だ保留。
「ストラス、装置を復旧するという選択肢はあり得るのか」
「他の遺跡の装置を複製し、こちらに設置するということは不可能ではないでしょう。そのための技術者や作業員を集めていくことが必要となりますが、これは人間の中にもある程度居ると思われます。
ただ、装置の器に当たる部分がかなり崩落しておりますので、その再築からになりましょうか。土魔術に長けた術師が多く必要でしょう。それも、危険な場所で活動できる」
パイロペめ…!
いや、俺も水没させてしまったが。
「このまま放置したらどうなる」
「精霊井は自律的な装置でございます。精霊脈を追って自ら成長していきますので、その精霊脈が尽きるまで、この場に精霊の力が放出され続けるでしょう」
そしてここは濁り精霊石の塊に埋め尽くされていくわけか…
「精霊井の働きを止める方法はないのか?」
「申し訳ございません、私では分かりかねます。が、人間になら知る者がおるやも知れません」
そうだな。
眷属は結局のところ皇子の一部であり支援装置でしかない。
過去の皇子が取り組んでいない分野に詳しいはずがない。
つまり、今の俺たちは辺境で一旗揚げたばかりの田舎者なのだ。
どこぞの強力な帝国の宮廷魔導士にでも会って話してみたら、超科学みたいな技術が現役かもしれない。
「そういえば、上層には魔石が結晶として生まれていたな。拾いに来る冒険者もいると聞いた。濁り魔石から魔石が結晶するには、どれくらい時間がかかるのだ」
「元の濁り魔石の濁り度合いにも因りますが、ここのものならば数週間から数か月で結晶になり始めるのでは」
「その割には、ここの空間には魔石が少ないな」
「例の攻撃が発動されるたびに、大量の魔石が消費されていたのでしょう」
もはや奴のことは何も言うまい。
「消費する者がいなくなった今では?」
「新たに生じる濁り魔石の方が、分量は多いでしょうが、やがて魔石が大量に産出されるでしょう。」
「おおもとの精霊脈が枯渇するとどうなる?」
「地下の世界のことゆえ分かりませぬが、地下世界のバランスが崩れることはあるやもしれません」
そうだろうな、詳しいことは分からんが、どこかに何かの歪みは生じるんだろうな…
「カイア、石の精霊は、精霊脈とどんな関係なんだ?」
「精霊の姿の我々は、精霊脈の中からごく一部の元素のみを取り込み、それ以外のものは受け入れることも出来ません。また、精霊ごとにその元素の割合は異なっており、その元素が得られなければ生まれることも成長もできません。魔石も、宝石公女の盟約を通じて形を持って初めて、利用できるのだと思います」
珍しく、カイアの語りが丁寧だ。さすがに自分の国の話だからか。
そうだな、見たこともない地底の話だ。俺が放置してもおかしくない。
むしろ、その方が魔石が大量に手に入る。
が、石の国をおざなりにする気はないさ。なんせ、タイトルモチーフだからな。
「つまり、精霊脈がなくなったら、石の精霊は、新しく生まれたり、成長できなくなるということだな。濁り魔石や魔石があるだけでは、解決できない。これは単純な話だ。困る、ということは分かった」
パイロペが、何とかしなきゃと立ち上がった。それは、認めてやるさ。
そして、俺も、何とかしてやりたいと思う。
よし。ここまでは確認した。
「というわけで、いったん出よう。街に戻って、人間に相談する。ここでうだうだやっていても、どうにもならん」
撤収!
立坑から飛び立つ。
壁面からの水は、勢いを失っていた。その周辺で崩落が続いているのは気になるが。
通路を取って返すと、行きよりも塞がっている度合いが進んでいる。
スライム化で抜けていけるが、やはり人間が内部に入るのは厳しそうだ。
移動について来られないので、カードの配置も眷属の召喚も、解除している。
封鎖区域の境界まで来ると、地下の騒ぎの影響は少ないようで、行きと目立った変化はない。
人型に戻り、ふぅ、と一息つく。
威嚇を解除。
人間かどうか分からないが、少し先に生物の気配がある。
駆け出しの冒険者だったら、むやみに怯えさせたくない。
「彼はどうしたんだ?」「怯えているんですよ」とか、掛け合ってくれる相手もいないしな。
魔石は、行きに大体回収してしまったからな、空振りにさせてしまったなら申し訳ない。
テクテクと歩いて出口の方に向かう。
生命探知に反応があり、お、人間だ。3人ほどいるな。
歩いて近づいていくと、結構驚かれた。
また暗視のことを忘れていた。
「すまんな、この先の魔石は回収してしまった。もしも君たちの探索が空振りに終わりそうなら、探索の続きの代わりに、街に戻りがてら、この辺りの話を聞かせてもらえないか。今夜の宿代くらいは払うが」
持ちかけてみる。
三人の冒険者は、魔石がなければもう用はないようで、単なる空振りがちょっとした現金になると聞いて俺に付き合うことになった。
「俺はジタ。こっちがエッタ、そっちがテータ。俺達は、いとこ同士なんだ…」
ジタが15歳くらいの男、エッタとテータが12、3歳の少年だ。15というと、この辺りではもう一人前か。
話してみると、案外上手に近隣のことを説明してくれる。
田舎の農村の生まれだったが、親は冒険者をしていたことがあったらしく、金はないものの、学校にも行っていたという。
農村では食っていけないから出てきたのかと問うと、そうでもないという。
何せこの辺りでは産業の構造が昔と大きく変わってしまったせいで、村人も子供達にどんな仕事をさせたらいいのか、試行錯誤や混乱が続いているようだ。
だが、この土地は、みな大らかで陽気だった。美味いものさえ一緒に食っていれば、社会の変化や世代の違いなんて、どうにでもなってしまうかもしれない。
「そういえば、君たちはどんな依頼をこなすつもりなんだ?」
この辺りは魔物の討伐も少ないし、三人も、冒険者としてというより、素材や食材を探して、前世で言う商社のような仕事をしていくことになるのだろうか。
「うーん、そこが悩ましいんだよな。俺達も、そんなに戦闘向きでもなさそうだし、いきなり生きるの死ぬのっていうのもね。今日も、魔石でも拾いながら、どうしようか相談するか、って感じで出てきたんだよ」
食い詰めて冒険者になってる訳でもないし、前世で言えば社会人になるって何だろうと悩んでいる大学生くらいの感覚か。
俺も転生前は大学生だったはずだが、その後いくつもの世界を回ったせいで、精神の年齢はもうカウント不能だな…
あれやこれやと世間話をしながら、街へ戻るのだった。




