都市へ行くのこと。
うーむ。
口ぶりからすると、カイアが一番の事情通か。
「カイア、お前達についてもう少し知りたいのだが、いいか」
「貴方が知り得ることならば」
おう…相変わらずのクールボイス。クールっていうよりフローズン?
「お前達は、石の精霊みたいなものなのか?」
「ソコか。ならば私から語る」
ソコが底に聞こえなくもない。お任せします。頷く。
断片的な言い分を総合するとだ、彼女らの本体は地下深く、溶岩と地下水と蒸気と煙に満たされた洞窟にあるらしい。
その地底世界では、彼女らは形の無い霊体である。
眷属の里のように、レイヤーが上なのかもしれないな。
元来、彼女らは霊体といえども移動する力は弱く、岩の中を泳ぐことはできても、地上に出られることは極めて稀であるらしい。だが、先頃から、石の力を通じて地上に呼び出されるということが起こるようになった。
ゲートを通ると同時に、形が与えられ、地上の世界で活動できる。
ただし、その石の力を得るために、石の精霊の長は、誰かと何かの契約をした。
しかし、長はそれから姿を消してしまった。
地下の世界から出て、外の世界で活動したければ、その石の力の約款を受け入れなければならない。
相手が誰かも、契約の中身も分からないまま。
無茶な条件というかそれは契約と言えるのか謎だが、それでも受け入れた精霊は、「旅立つことを選んだ石」と称されるらしい。
消えた精霊の長を探すため、外の世界を見るため、ココデハナイドコカヘイキタイ、動機は様々だが、少なくない石が旅立っていった。
カイアが語ったのはこんなところだ。
「そんなことも知らずにわたし達を使役していたのか無知な恥知らずめ」みたいなニュアンスがちょくちょく挟まっていた気がするがスルーだ。うう、冷たい風が身に染みる。
「旅立つことを選んだ石」とか言うと何か凛々しいが、相手も条件も分からずに従属とか、騙されて売り飛ばされてる痛々しい連中のように思えなくもないな…
カードが壊れたら帰れるんだから、命がけってわけでもないか。
宝石公女って言葉で誘導されてしまうが、中身は形の無い精霊なんだから、イラストも声も、術を作った奴が設定しただけかもしれない。元々の性別だってあるか疑問だ。
油断するな、製作者は何を仕込んでいるか分からないぞ。
で、問題は、この術が未完成なことだ。
俺の吸血鬼設定、眷属の作り込みからすれば、宝石公女達だけイラストと声しかないなんて、あり得ない。
俺のレベルが上がると札が貰える。
他の誰もこの術を知らない。眷属でさえ。
ユニークスキル的なものだろう。
ゲーム的にも、メニューからして表示が違う。
そして、彼女らはすこし前から召還されている。
俺以外に召還できる奴がいるか、先代が召還していたか。
製作者の実装待ちなら、俺に出来ることは少ない。
だが、俺の術が足りないだけなら…まだチャンスは残っている。
かつて恐るべき精霊術の力で眷属を作り恐怖の帝国を作り上げたこの真祖の力で!
そう、再現するのさ、奴らの身体を!
すぐにでも研究に取り掛かりたいところだったが、ストラスとの約束もある。
サルサニアに向かっている途中なんだった。
残り僅かな道のりを、サクサクと歩いていく。
サルサニアは、スタルトよりは相当大きな街だった。
美味いものはここから運ばれてくる。
アルファイン達が言っていたように、商業で栄えてその資金をバックに軍備を整えた感満点の城塞都市だ。
城壁も門もゴージャスな美しさ、迫力のある武装の衛士、出入りの隊商の賑わしさと言い、栄華の都という言葉が似合いすぎる。
さて、中へ向かうとしよう。
幅の広い街道と大きな門は主に隊商の馬車のためのもの、徒歩の個人旅行者は別の小さな扉の方に列を作っている。
ギルドで発行してもらった冒険者カードを確認しつつ、列の後ろに並ぶ。
他に並んでいるのは、個人の街道商人や冒険者、巡礼者など。親子連れなどもいる。街道は割と安全ということか。
キョロキョロしながら過ごしていたら、扉の中から2、3人の役人風の男たちがやってきて、話しかけてきた。
「『陽光』殿でございますかな」
例によって隠しても仕方がない。念話しかできないという設定も面倒くさいので、普通に喋ってしまう。
「はい、そうです」
「よろしければ、我らと一緒においでいただけませんか。都市長と太守がお会いしたいと申しております」
んー、驚いて見せるべきところなのかどうかよく分からんが、十分に礼儀正しく、まっとうに扱われている感じはある。
「私は礼儀をあまり知りませんが、それでよろしければ」
「ええ、ええ、問題ありませんとも。転生者様と言えば、そうしたものでございますから」
転生者様と来たか。
勇者扱い、来たか!?むしろ俺は魔王転生側に近い気がするが…
何しろ、ついて行くしかあるまい。拒否したところで、このまま街をうろついていても、彼らとしても放置しておけないだろう。
「わかりました、ご案内をお願いします。ちなみに、私のことはどこから?」
「デルタ卿もいらしております」
あ、スタルトの冒険者ギルドにいた貴族さまね。
役人2人の後について街の中央まで案内されていく。
うおー、教会とか役所とか、イタリアの市街地みたいな、どこ見ても世界遺産!みたいな。
しかも全てが現役か。
ニンゲン、すげえな。
と、観光案内みたいなことを説明していてもあれなので。
都市長と太守、デルタ卿のお話は、割とシンプルで、いたって友好的なものだった。
冒険者としてオーガ討伐したことを褒められてちょっとした褒美を貰った後、今度は転生者の話になった。
やや驚いたことに、この世界では転生者の扱いが洗練されていた──色々な意味で。
何代か前の太守が悪巧みで転生者を搾取しようとして対立して、それはもうひどいことになったらしく、その次の太守との間で、今後の転生者の扱いについて一定の協議がなされたらしい。
大まかに言えば、転生者に対しては施さず、奪わず、縛らず、淑せず。
勇者や貴族としてはならない、単なる冒険者として扱え、ということだ。
そりゃま、分かりやすくていい。
しかし、一地方領主として眷属の里を囲うというプランは消えたか。
何で転生者と分かった?とデルタ卿に聞いてみたが、「分からないと本気で思うのか?」と質問で返されてしまった。
そりゃね、ある日突然現れて、世間のことを何も知らないのに強くて、目的も定まらずフラフラしてるってなれば、転生者を知ってる人から見たら、他の何物でもないわな。
「すると、俺が人間でないということも?」
「無論だ。転生者はどのような姿かたちで現れるか分からぬ。しかし、姿によらず、一方的に攻撃してくるようなことはまずないと聞く」
そうね、敵対もしてないNPCを虐殺して回るプレイヤーなんて少数派だろうな。
「他にどんな姿で現れたことが?」
「私は直接会ったことはないが、聞いた話では、植物や武具、中には建物ということもあったらしい。体を持たぬ精霊が何かに宿るのだと思えば、驚くこともあるまい」
真祖だって、森や大木になってるしな。
「魔王のような転生者もいるのでは?」
「かつてはいたらしい。だが、我々は商業という言語を持っている。相手が魔王であろうと、取引してみせるさ」
「ほう?」
「例えば、料理のできる魔物は少ない。わかるな?」
なるほど。自重のない食物メニューにも、背景があるわけだ。




