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梟は振り返るのこと。

「ところで、魔石さえあれば里は維持できるのか」

「維持できますが、魔石のみで暮らすのは不自然だと嫌う者も多くおります。

精霊の力が豊富な里は、こちらの野山のように様々な精霊が遊び暮らします。眷属がそれを狩ったり集めたりすることを、豊かな生活と考えるのです」


「魔石で暮らすのは便利だが味気ないということか。贅沢な話ではあるな」

「は、申し訳ありません」

「いや、謝らずともよい。眷属に贅沢をさせてこそ王が王たる所以だろう。戦いの最中はいざ知らず、子オオカミが遊び暮らす里、良いではないか」


オオカミの長達──今は銀尖、銀晶という名を賜ったのだったな──が召喚されたと聞いて、正直なところ、儂も身構えたものじゃった。


ストラスは振り返る。この数日の、里での騒ぎを。


今代の皇子は、我ら眷属の存在を一体どうするつもりなのか。

考えがあるのか、それともその身に余る力を持ってしまった赤子のようなものなのか。


召喚されたオオカミやフクロウの子らの声を聞くに、戦いにおいては非情なれど歴戦の将のように次々と采配を振るい、自ら黒き剣を持って敵に向かうという。


今だ剣技も精霊術も教えられていないにもかかわらず、先の討伐においては、皇子と眷属の子らのみで三頭の大鬼を仕留めている。


一方、眷属には魔石も与えず、精霊の力を養わせることもない。子らを惑いもなく盾とし、捨て石として顧みぬ。なれば、戦いに憑りつかれた狂戦士か。


しかし、次の討伐においては、子らが見たことのない術を遣い、光の竜巻や盾を生み出して荒れ狂う雷の熊の猛攻を封じたという。先代までの皇子には見られぬ術。いつの間に身に着けたのか。


もたらされる情報は唐突かつ断片的で、ストラスにも分析は困難だった。


久しく開かれておらなんだ、三つの眷属の会合が持たれることとなった時の光景も忘れられぬ。


銀尖、銀晶の憔悴は相当なものであった。

あの武人の一族の長が、忠義の塊のような連中が、皇子への疑念を口にする。

この儂の生きた年月の中でも、見たことがなかった。


常々、銀狼の一族をからかうことで諍いの種を蒔いておった蝙蝠の女王──緋夜──でさえ、口数をえらく減らしておった。


儂も、人のことは言えんがの。

このように言葉を無くした日々は、覚えがなかった。


銀尖、銀晶が皇子にまみえた折、何があったのか、正確なところは分からぬ。


銀晶が叛逆の意と取られてもおかしくない言葉を吐いたとは聞いておるが、それが皇子の心を動かしたのか、忘れていた何かを呼び覚ましたのか、あるいは、忘れてしまっていることに気が付いたのか。


儂を呼び出した時には、既に話を聞く用意はあったに見えた。


一つ一つの質問は、何も知らぬ者によるそれじゃった。


しかし、一目見た時には、儂の役割を既に悟っておるようじゃった。

緋夜についても、何事も話さぬうちから、今はまだその時ではないと、感じ取っていらしたのか。敢えてお話を聞かぬそぶりであった。


眷属の務め、真祖の由来。

遥かなる時を渡る伝承を、何事もないかの如く聞いていく。

まるで、遠い記憶と照らし合わせるかのように。


そして、新たな精霊術。宝石公女と称する、あの力。

未だ開発の途中であると言い、粗削りなものであったが、暴風のような破壊をもたらした。


大量の魔石を用いたと聞いているが、あの札自体からはそれほどの力を感じられぬ。

我らと同じく、いずこからか召喚される者たちなのであろう。


あの札と同等のものが3枚。それ以上の格のものが1枚。

今は未完成であろうが、我ら三人の眷属の長は、そこに比肩しうるものなのか…


皇子は、新たな世界に覇を求めておられるのか。

我らには、子らが遊び暮らせる王国を約束してくださったが、ひょっとするとそれは、隠居としての平穏なのではあるまいか。


であれば、我ら眷属として、如何なる道を望んでいくのか、改めて意思を固めねばなるまい。


新たなる修羅の道を共に歩む戦士となるのか、過ぎ去りし記憶とともに皇子の庭を守る墓守となるのか。




さて、いったんストラスの召喚を解除し、里へ帰ってもらった。

眷属同士で打ち合わせもあるみたいだし、俺も南の都市に行っておきたかったからだ。


手元の魔石は里の方で使ってもらうようほとんど渡してしまったので、高位の札を増やすのは難しいのだが、先に手に入れておいて損はあるまいというのと、冒険者ギルドで依頼を確認するためだ。


依頼が出されていると、こちらがその依頼のことを知らなくても、達成したときに掲示されてしまう。

この仕様がある以上、依頼内容を確認せずに討伐や探索を行うと、後で説明が面倒な事態が発生するかもしれない。


掲示は、冒険者ギルドの担当範囲内だけでされるようだが、人の行き来はある。しばらくすれば、目立つニュースは伝わってしまうだろう。


遺跡を探すにしても、現在出されている依頼が「ない」と確認するだけでも価値があるということだ。


幾つかの遺跡は、すでにストラスから位置や大まかな内容を聞いているが、人族がまったく立ち入らないエリアにあるようなものは後に回し、放っておくと人族が探索してしまうような場所を優先した方がいいだろう、と打ち合わせてある。


基本的に、俺の体はダンジョンと相性がいい。


毒、打撃、暗闇、精神攻撃などの大抵の罠は脅威とならないし、霧化やスライム化によって僅かな隙間も通過できる。道に迷ったり閉じ込められたところで餓死することもないし、どうにかして自然の地面と接触すれば回復もできる。


ただ、問題もあって、それは荷物のことである。

目的を探索と魔石の回収に絞り切れば、魔石は仕様上いったん入手すればデータ化されてしまうので、この際完全に手ぶらで出かけた方が前述のメリットを生かすことができる。


別な言い方をすれば、持って行く品物も持って帰る品物も霧化やスライム化はできないので、それが移動上の制約となるということだ。持って行くものでかさばると言えば黒長剣くらいだが、これは棒状なので、例えばレンガ一個分の隙間でも通すことはできるだろう。


だが、見つけた宝などを持ち帰ろうとすると、行きの経路は使えない、という場面がありそうだ。単純に俺一人では重いものや大きなものは運ぶのが難しいという問題もある。


諸々考え合わせると、一度俺が手ぶらでささっと探索してかさ張らない品物だけ回収しつつマッピングを行い、秘密の地図を手に入れた振りをして冒険者のパーティーを雇い、デカい品物だけ後から回収するというのが適当なアイデアだと思えてきた。

少々セコいが。


大まかに方針が立てられたので、俺はサルサニアに向けて飛び立った。



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