陽光の吸血鬼のこと。
何がきっかけだったのかは分からないが、気が付いたら、虚構の世界を転々としていた。
要は、ゲームの世界ってことだ。
前世の俺は村雨春弥という日本人で、ごく普通の若者だったと思う。
考えられる「帰還」のパターンは、「夢からの覚醒」や「魂のみの帰還」か。
つまり、自分の努力によってどうにかなる気はしない。
現在俺が置かれている世界は、「アルカナの宝石公女」。
陽光のヴァンパイア、ツヴァイ・ハルサメとして。
もう少し自己紹介したいところだが、自分でも、置かれている状況がまだいまいち把握できていない。
種族名は「吸血鬼(真祖)」となっている。
人族に比べればかなりステータスは高くなりそうだが、まだまだ低レベル。都市城壁外縁を守る中堅どころの衛兵よりは強い、という程度。
レベルが非常に上がりにくいのは、不死や長寿設定との兼ね合いか。
もっとも、定番の吸血鬼っぽい特殊スキルや召喚・使役スキルが充実しているので、そちらも含めればオールラウンダーもいいところのチートクラスっぽい。
おっと、茂みの向こうから、はぐれゴブリンが向かってきているな。
遠視、暗視、聴覚強化は常時発動、威嚇や牽制はオフにしている。
召喚、オオカミ。
2匹のオオカミが召喚され、はぐれゴブリンに襲い掛かっていく。
敏捷性の高いオオカミ2匹の攻撃が連続で先にヒット。
かなり削れたようだが、はぐれゴブリンの反撃。
乱数が悪かったか、一匹が一撃で沈んだ。朱色のポリゴンをまき散らして消滅する。
もう一匹の次の攻撃ではぐれゴブリンを撃沈。同じくポリゴンがまき散らされる。
僅かに経験値が加算された感触があり、戦闘終了。
召喚解除。オオカミはポリゴンをまき散らして消滅する。
オオカミは、飛び道具と足止めのデバフと盾を兼ねるような使い方ができ、しかも数呼べる。偵察、探索、警戒等、非戦闘用途にも使えるということで、非常に便利なスキルだ。
召喚したまま連れて歩いてもよいのだが、他の人族を驚かせることもあるので、危険な地域でなければ召喚を解除している。テイマー系スキルもありそうだが、獣や魔獣を連れているキャラは見たことがなく、目立つだろう。
召喚されるたびにLVが違うのだが、毎回生成なのか、背後に一定のストックがあるのかはよく分からない。
見た目には、同じような違うような…首輪でも付けられたら、実験できるか?
ちなみに、俺の脳内で変換しているが、俺が召喚しているオオカミの正式名称は”ウォルフェン・バルティシェ”、先ほど倒したはぐれゴブリンは”ゴブリンディン・ソロクエストレ”と表示されている。
長い。しかも何語だよ。
そう、現在俺を苦しめている要素の一つは、この世界の命名センスである。
俺が持っている長剣は”シュトルム・ブリンゲン・ノイエシルエッテ(非ニルヴァニエ)”だし、影をまとって姿を隠ぺいするスキルは”シュバルティ・シャッティハ”だ。
仕方がないので、字面を一種のアイコンだと思って処理することに決めている。
俺の中では、「黒長剣」と「影纏い」だ。
俺の称号の「陽光のヴァンパイア」も、俺が脳内変換しているだけで、表示は”ラルキ・ヴァンピーレ”。
さらに詳細を表示させると、真名と称してトエルウルどうたらとか15文字くらいミドルネームが追加される。
称号のフレーバーテキストに、「…『陽光』の二つ名を持つ真祖のヴァンパイアであり…」とかなんとかあったから、そう解釈しているだけだ。
ここまででも、いろいろあった。
最初から、思い返してみよう。