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眷属の長たち

召喚の術が発動され、遂に我らは呼び出された。


真祖にして反逆せし陽光の吸血鬼、黒き災厄の剣を委ねられたる呪われし白き仔。


その血より作り出されたる我ら夜の狼の眷属は、古の盟約に因りその血に(あらが)うことは許されぬ。


しかし。

この度の皇子(みこ)の転生は、余りに(みち)を知らぬ冷酷非道の者を産み落としてしまった。

悪魔…白き悪魔。いや、魂を置き去りし皇子よ。


我らが同胞の子らは、わずかな日々のうちにどれほど朽ち果て、打ち捨てられてきたか…

一欠けらの魔石すら与えられることなく、昼も夜も駆け回り、その身を盾とし、眼とし…


狼の牙、蝙蝠の羽、梟の眼。

同じ主に仕えながら、主導の権を長きに亘り競いあってきた三つの獣の眷属。

そのいずれもが、数を減らし、力を失い、衰亡の暦を数えている。

今にして思えば、互いに争ったことさえ愚かしく、そして懐かしくもある。


涙も、涸れ果てた。

いよいよ、我ら二人の番か。

我は、弱くなったのか?



その姿は、確かに至極への途を踏む者の気配を纏っていた。

歩み寄る我らがその気を不躾に放っていようとも、揺らぎもせぬ。


我らを家畜や乗り物のように値踏みし、抗ってみせるのか、との問いかけにも感じられる。

述べる。


「我が主よ。古の盟約に基づき、そなたに従おう」


歴代の長に連綿と伝えられてきた口上だ。

魂を置き去りし白き仔は、表情を変えぬまま、悠然と聞いている。


背後に控えていた我が妻が、堪え切れずに口にする。


「たとえ我らが一族、滅びの縁にあろうとも、それが盟約であるならば」


怨念の情は既に忍び難きか。

幾多の子らを失い、なおも古の盟約に縛られる我らよ。

あるいは、反逆の意を示してその死を望むというのか。


呪われし白き仔は、その落日のごとき瞳に妻を映す。

「我に向かいて語る口を持つか、銀狼の牝よ。お前は何を望む」


望み…?望みだと…!?

現在のこの狂気からの解放以外にあるというのか?

しかし、それを述べればまさに盟約への叛旗。

それを口にすれば、如何なる運命が待つか、幼き頃より言い含められてきた我らが何とする。


「我ら眷属の住まう王国を。子を成し、育て、更なる軍勢を編み成すための、王国をお造り下さりませ」





目を見開いた俺に対し、憎悪と怨念を表に現わしつつ、それでも静かに、その巨大な銀狼の雌は伝えてきた。

私たちが再び子供を産み育てられるような、国を作ってくれと。


確かに、俺にできる罪滅ぼしは、それくらいだろう。


この世界での俺の罪の深さに、眩暈がしそうだった。

ゲームをしていたはずなのに、まるでそれが現実であったと告げられる反転。

いや、今でも俺にとっては、飽くまでもこの世界(ゲーム)の中の話なのかもしれない。

だが、この銀狼、いやオオカミ達にとっては、その命の存する世界のことなのだ。


反転に気づかされた瞬間、正直俺は迷った。

ゲームじゃない、だったら()()()()()()、と開き直るか。

兵士が戦争で死ぬ、現実においても幾らでもあることだ。

そうすれば、俺は無数の死の責任を負わない。それは死ではなく、戦果のための投資であり、已む無く為された犠牲に過ぎない。


まして俺はヴァンパイアだ。真祖だ。


吸血鬼の皇子が、世界の、誰の、如何なる死に対して、何を背負うというのか。


一応は、投げやりに、問いかけてみた。一体、どうしたらいいですか。どうしたいですか。

幼稚な問いだった。


だが、この雌の銀狼は。


俺に死を背負わせなかった。

代わりに、未来を背負わせようという。

この数日の、俺の傲慢と暴挙に対して、遥かに長い時間を要するであろう、将来を。


俺は、頷いた。涙を堪えるのに精一杯になりながら。





「良かろう、我、ツヴァイ・ハルサメは、ラルキ・ヴァンピーレの名に於いて、我と我が僕たちのための王国を作ってみせよう。改めて問おう、銀狼に導かれし一族よ。その王国の成る日まで、そなた達は我に従い、我が目、我が耳、我が剣となるや」


もう一度、口にする。

祖先より伝わりし口上だ。

我が咆哮は山々にも響け。


「我が主よ。古の盟約に基づき、そなたに従おう」


「盟約はここに甦った。銀尖(インジエン)銀晶(インジン)の名を授ける。」




伏せて恭順の意を示した後、再び、銀狼は光に包まれて去って行った。

俺は、呆けたように立ちすくんでいた。

銀尖の遠吠えのこだまが聞こえたような気がして、ようやく体の支配を取り戻した。


いや、何をぼおっとしてんだ、約束したってことだろ。

俺がやらかしてきたこと、それは振り返ってもどうにもできない。

だが、これから俺がやらなきゃならないことは、そう、俺がどうにかしなきゃならない。


ここからは俺のターンか。


召喚(上位個体)、フクロウを召喚。


光の通路を抜けるように、ほっそりとして長い脚のフクロウが歩いてくる。

小さな王冠をかぶっており、その大きな目には深い知性の光がある。


「参上が誠に遅くなりまして、申し訳ございませんでした」

柔和な物腰、表情も落ち着いたものだ。


が、フクロウの一族も、他の二族ほどではないにせよ痛手を負ったはずだ。

「一族には痛みを強いていたな」

「我らの古よりの盟約なれば」


「銀尖、銀晶らから話は聞いているか」

「はい、我らの王国を目指すとのこと」


「お前の智慧、未来を見通す目が必要だ。我に従い道を同じくするか」

「如何にも。我が主よ。古の盟約に基づき、従いましょう」


「盟約は甦った。名を授けよう、ストラスよ」

王冠に光が煌めき、ストラスがブルル、と身を震わせる。羽根が膨らみ、再び落ち着く。

「勿体無き名を戴きました」


続けて、コウモリの召喚(上位個体)。


光の輪が空中に現れ、その中から緋色のドレスを身に着け、背にはコウモリの翼を持つ少女がふわりと降りてくる。

吸血鬼か。それも、圧倒的に俺よりもステータスが高い。見た目は十代だが、幾星霜を生き残っている存在に共通の気配を感じる。


「あら、可愛い。ようやくお声が掛かりましたわね、我が淡つ色の御方マイ・フェアリシュ・ロード

しな垂れかかるような声。絡みつくような仕草。目の奥の暗い影。

あ、これは相手にしたらいかんヤツだ。テンプレヤンデレだ。


「…我が僕として我が道に従うか?」

「何かもう少しお言葉はございませんの?労りですとか、友愛ですとか…」


「名を授けよう。そなたを緋夜(ひや)とする」

「えっ、えぇっ、何かお話短くないですか、扱い違いませんか」

「まだ返事を戴いていないが?」

「はい!はい!貴方の傍に永遠に付き慕いましょう。おっと、噛みました、付き従いましょう」


脇に立つストラスの方を見る。

目を伏せ、首をフルフルと横に振っている。

やっぱり?


緋夜は、いじけたように光の輪の中に昇って行った。

また今度、相手してやるからな。


さて、宰領たるストラスよ、我々の取るべき道について、語るべきではないか?



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