――第二章―― 召還(上位個体)のこと。
冒険者ギルドのカウンターに討伐報酬を精算しにいくと、皆街道の警備で出払っているらしく、閑散としていた。商売繁盛で何よりだ。
皆が出発するまでは忙しかったのだろう、カウンターの職員も一仕事終えた後の充足感のある休憩ってとこだ。おやつとお茶のいい香りがしている。
「陽光さまのおかげで、美味しいお茶が飲めます」
心からの感謝、痛み入ります。仕事中か、なんて野暮は言わない。
「熊討伐、頑張ってください」
あ、そうだ。
「この熊の討伐依頼って、どんな人が出してるんですか?」
「依頼人の情報は明かせないんですが、ここの住人ではないですね。一度しかこちらには来てません。前金でまとまった額を預かってますので、当面の支払いは問題ありませんが、大量に討伐する目途があったら先に相談していただいた方がいいかもしれません」
微妙に情報を明かしてるな。
「こういう依頼って、依頼人にはどんなメリットがあるんです?」
「それは聞かないことになってます。野外での魔獣の討伐依頼ですと、その辺りに採集したいものがあるとか、武名を揚げて騎士団を目指すとか、かたき討ちとか、色々なパターンがありそうですね。今回は、討伐対象からの素材などは特に求められてませんね」
ふーん。ここの住人にはあの熊との接点さえなさそうだし、あの槍を刺した人間とか、案外関係するのかもな。
宿に戻る。
そういえば、部屋に鍵を掛けていたはずだったが、ヴィタが入っていたな。
宿の人に聞いたら、不在だと伝えたが、俺のガイド役で依頼も受けてる、部屋で打ち合わせのため待っていると言われたから通した、ギルドの書類も持っていた、と。
確かに、依頼の仕組みを教えてもらうついでにギルド経由にしていたな。
朝一緒に出てきたのは目撃されているし、入れるなと言ってなかったし、文句は言えないか…
まあいいや。
部屋に入り、床に座り込むと、新たな札と今までに作った札を取り出して並べた。
まずはアズか。
先ほど手に入れた、スペードの6の札を割り当ててやろう。
例の演出があり…あれ?意外と地味な…星2つ、双剣使いアズ、誕生!
連撃が強化されて、回避系のスキルもついたが…
あと、イラストが少し大人びた表情になったかな?
死線をくぐったわけだしな!って気のせいか。
星2つか。カードのレアリティは、石の性能の差が絶対の差、なのか?
じゃあ、天藍石とクラブの6では…
密度の高い光の渦が、立ち上がる。
魔力が、風のように吹き出す。
これは、カイアと同等の演出か。
出来上がったカードは、半透明の青地に濃い青の斑紋、金の縁取り。
天藍の拳尼、ラズ。星3つ、2人目来ましたー。
スキルは、連撃Ⅳ、硬化Ⅲ、身代わりⅡ、治身、捨身、飛身。
攻撃と自己強化のモンク、手数と移動能力に優れて、攻防のフォローやバランス取りに使えるユニットか。
東洋系の切れ長の目つき、アジアンな感じのタイトな衣装は武闘家っぽいテイストだ。
使いやすそうなのはいいが…完全にアズの上位互換だな。
うーむ。
魔石を多少与えて、最低限の強化を施す。
6の札はあと1枚、ハートがある。
ここで、もう一つ実験。
アズはカードを壊されてしまったが、壊れる前から札の入れ替えができるか、だ。
アウィネアのカードを、この札に重ねてみる。
お、なんか魔石を要求されている。1000か、ほい。
カイアやラズと同等の演出、カードと札が融合していく。
星3つ、藍方の盾、アウィネア。
トランプのスートが変わると、スキルの系統も変わるようだ
イラストは、藍色の大きな方形盾を構え、金属系の鎧を装備した重装甲バージョンになっている。武器は目立たないが、メイスか。
硬化Ⅳ、身代わりⅣ、牽制、忠義、献身。いかにも護りますって構成だ。
ちょっと身代わり発動させよう。
「…我は盾。この魂は、御身のために」
護られてる、護られてるよ!俺のココロを守っているのはアウィネア、お前だよ!
魔石をザラザラと流し込む。
あ、いかん、いかん。
まだ他にも使うからな。
アラゴン、フィオーラ、シーラ、ヘンミィの4人の星1つ組は、魔石300で札を変えられた。
ただ、5の札を使っても3の札を使っても、星2つだった。
スートを変えるとスキル構成が大きく変わることが分かったので、アラゴンは再度ハートにしておいた。水源探査に加え、生命探知が追加されたが、残念ながらこれは一瞬で探知が終わってしまうものだった。
まあいい、ハートの5の地位は君のものだ。
フィオーラ、シーラ、ヘンミィはそれぞれ同じスートで4の地位に上がっている。
残念ながら特筆すべきスキルは増えていないが…
星2つまでは簡単にレベルMAXになるので、5人全員強化しておく。
カンテラ、カイア、アウィネアにラズが主戦力か。
残りのメンバーは入れ替えながらサポートってとこだな。
宝石公女のカードの整理を終えて、宿を出る。
他の都市に行くことを伝えて、いったん部屋を引き払っておいた。
さて、南の都市とやらを目指して、出発だ。
街道を走り出す。
街道を外れて飛んで行った方が明らかに速いのだが、街道の警備の仕事とやらを少し見ておきたかったのだ。
数キロおきに冒険者の連絡役がおり、巡回したり定期連絡を行ったりして連携している。
今のところは、それほど大きな魔獣は出ておらず、街道商人達は順調に先ほどの町、スタルトに向かっているらしい。
10キロ程走っていくと、中間のベースキャンプでヴィタ達に出会った。
アルファインに、例のクマの中には結構強い個体がいるようなので、南の都市で装備を調達すると伝えておいた。これくらいの表現なら後で何とでも言えるだろう。
罠に使うような材料は、この辺ではほとんど手に入らないみたいだしな。
他のパーティーから少し離れた場所で、カンテラの斬撃Ⅴを発動して見せた。
あの時作った高価な札とオーガの石が材料だと説明すると、ギャンマは、うーむ、確かに強力だが、うーむ、やはり高価すぎるな、と微妙な反応だった。
くそ。どいつもこいつもカンテラさんの偉大さが分かってねぇ。
あー、もっと山のように魔石があったら、カンテラにも魔石のピラミッドを捧げてみせるのに。
皆と別れ、次の町へと向かう。
普通なら、次の町で一泊し、翌日もう1日掛けて南の都市、サルサニアに到着するのだそうだ。
ここからは、街道を外れて行くか。
例の、召喚(上位個体)を試してみよう。
街道から1キロほど離れ、威嚇と牽制を発動して周囲の雑魚も追い払う。
召還(上位個体)、オオカミよ!来い!
いわゆる魔法陣が地面に垂直に立ち上がって描かれる。
二体の、巨大な銀狼が白い光と入れ替わるようにゆっくりと歩み出てきた。
つがいのようだ。
ゾウのように大きい。数人でまたがって乗れるくらいのサイズだ、移動手段にも使えるな。攻撃力も、単なるオオカミとは桁違いの気配だ。
そこにいるだけで威圧感がすごい。
オスっぽい方が近寄ってくる。
ギラギラした刃物のような気配だ。
むしろ殺気に近い。
戦って勝たないと支配下に置けないパターンか?
「我が主よ。古の盟約に基づき、そなたに従おう」
そうでもないか、従うんだ。
だが、ちっとも忠実な僕という雰囲気ではないな。
メスっぽい方がその後ろから声を上げる。
「たとえ我らが一族、滅びの縁にあろうとも、それが盟約であるならば」
憎々しげに、いや、明らかに憎悪の目付きで。
長かった序章が、次でようやく…




