町でのこと。
ゆるゆる回を挟みます。
あ、ヴィタが起きた。
「おはようございます」
ボキャブラリー増やした振りをして、ほどほどのところで念話から切り替えたいな。
「おはようございます。いつ帰ってきたんですか」
「しばらく前ですよ」
ヴィタがベッドから起きだしてきて、近寄ってくる。近い。
「どこで寝てたんですか」
においを嗅いでいたらしい。
分からないふりをする。
[どこで寝てきやがったんですか]
微妙に質問が変わっている気がする。
[この部屋の片隅ですよ]
[飲みに行ってたそうですね]
[俺は子供なので酒は飲みませんが]
[一晩中食事ですか、何を食べたんですか]
[森で狩りをしてました。新しい土地でどんな獲物がいるか知りたかったので]
[外に行ってきた割には、においがほとんどしませんね]
[汚れたので洗ってから消臭しました]
[少し土のにおいがします]
[さっき外で猫を観察していたので]
[猫?]
[黒猫でした]
何の尋問なんだ?高度な心理テストか、俺は何かの罠に掛けられているのか…?
一応嫌疑不十分で釈放されたようだった。
朝飯を食いに行くというので一緒に部屋を出る。
冒険者の朝は早い。
活動の準備をしているほかの冒険者が、生ぬるい目で俺たちを見ている。いや、目をそらした。
[ヴィタ…?あなたは、面倒見のいい人として知られているのですか]
[まあ、そういうことね]
面倒なことになっている気がしないでもないが、頑張って否定してほかの新規を呼び込むのもそれはそれで面倒だ。盾としつつ何とかしていこう。
階下の食堂で朝飯を用意してもらう。
俺はコーヒーだけだ。
[ツヴァイ、あなたは熊も食べるの?]
[食べられなくはないと思いますが、料理方法は知りませんね]
掲示を見ていたヴィタが聞いてきた。
そういえば、敵を倒すとポリゴン化してしまうが、食べられる対象はドロップするのだろうか。
いや、ゲーム的に考えると、俺は食事の必要がないのだから、食べ物を扱うシステム自体が必要ないのか。ポリゴン化させた時点で金と魔石はカウントされてるしな。
NPCから見たら、あれは金になる部位をはぎ取って売却してるって行動に映ってるのか。未換金だと、持ち歩いてることになるのか?よく分からんな。
[今回の討伐対象のクマの群れは、この辺りでは強い方なんですか]
[わたしは詳しくないから、後でギャンマに聞いてみたら]
[今日は皆さんは街道の警護に行ってしまうんでしたっけ]
[そうね、今日から3日くらいが稼ぎ時ね]
[他に、その手のことに詳しい方はいませんか]
[ギルマスも詳しいけど…]
[それは詳しそうですね]
[あんまり近づくと、後々いいように使われるわよ]
[それはこき使われそうですね]
いまいちクマの情報が乏しいな。
依頼の扱いと実際に会った奴らのギャップが大きいから、誰も情報を持っていないとしてもおかしくはないか。
…あれ、そうすると、俺が唯一情報を持ってることになるのか。ヤバいモンスターだから近づくなって報告しておいた方がいいのか?
でも、あまり強く警告すると、俺が倒した時におかしな話になってしまう。自分で独占したかっただけか、なんて言われるのもつまらんし。
誰か強い人間と一緒に行って、情報だけ得て撤退してくればいいか?
しかし、そんなにうまく行くかな。
俺の能力は護衛には不向きだし、同行者だけ死んじゃったりしたら後始末をどうしたらいいか分からん。街道のオーガを倒しきれなかったレベルだと思うと、あの電熊から逃げるだけでも至難だろう。俺だって、足で走って逃げ切れる自信はない。
俺がそこそこ強いということをさらすか。
しかし、カンテラのカードでの攻撃はともかく、俺のタフさや逃げ足はヴァンパイアの特殊スキルによるものだからな。人間のスキルでは説明しきれないな。
いっそ、血を吸わなくても過ごせるヴァンパイアなんです!平和に共存できるんです!ってアピールするか?
いや、ホントに血を吸わなくても過ごせるか分からんが。
今のところ、本体の再構成は、時間はかかるがMPからの変換で過ごしている。他の生物の生命力みたいなものを直接吸い取った方が早いのだが、雑魚からはわずかしか吸えないし、討伐対象みたいな奴はそんなことしてる余裕がなかった。
どちらにしろ、敢えて人間から吸収する必要はなさそうに思える。
しかし、このゲームの製作者の頭の中は未知数だ。
「ヴァンパイアと言えば血の宿命!」とかなんとか、自分のLVが一定に達したら突如親しい人間の血が必要になるなんて設定があるかもしれない。
NPCに敵対されるのは構わんが、カードや精霊石は今後も買いたい。
あああ、めんどくせー。
いかん、心の声が漏れだしてしまった。
[大丈夫ですか、ツヴァイ]
[大丈夫です。問題ありません。装備のことを考えていただけです]
[装備ですか?何か新しいものを調達するのですか]
[いえ、例の札や精霊石のことです]
[またあんなカードに大金を使うんですか?]
[あんなカードとか言わないでくださいよ。そうそう、魔石を使うと、強くなることが分かったんです]
[あれだけお金と魔石を使った上に、さらに魔石を貢いでるんですか?女の子のカードとかじゃなくて、もっと現実の役に立つことに使った方がいいんじゃないですか?]
ええぇ…うちのエース、カンテラさんに謝れ!
[あのカードがなければ、クマを倒すことは出来ませんでしたよ]
[え?あのカード、戦闘で使えるんですか]
そうだった、シーラの消臭くらいしか見せていないんだった。
[結構強力なスキルを使えるカードもあるんです]
[あ、そうなんですか。じゃあ、また今度見せてくださいよ]
ふふふ、カンテラのスキルの威力を見たら相当驚くこと間違いないな。
そこへ、アルファインとギャンマ達がやってきた。
「おはよう、陽光殿。ヴィタ、準備はできているか。中間キャンプの連中はそろそろ出発する頃だ。我々も向かうぞ」
「あいよ。」
手を振って別れる。
さ、買い物に行くか。
なんとなくエプシロンは夜型っぽかったが、ドアをバンバン叩いていたらそのうち出てきた。
「来ると思っていましたよ」
「じゃあ、続きをお願いします。今日は軽めの注文なので、安心してください」
コスパを考えて、紙は1000G、魔石1000という仕様で5枚作ってもらった。
出来た札の数字は5が3枚で最も多く、6と4が1枚ずつだった。
紙を2000G、魔石1500としたところ、5枚のうち5と6が2枚、4が1枚だった。
試行回数が少ないから何とも言えないが、7の札を手に入れるには、もう少しまとまった投資が必要なようだ。
もっとも、前回のような高価な紙は、在庫が無いので南の都市から取り寄せることになるという。
よし、メンバーの強化ついでに南の都市に向かってみるか。
俺は、この時はまだ、当分の間、自由気ままな冒険者として過ごすつもりでいたのだった。




