熊との遭遇のこと。
一羽のフクロウから念話で連絡がある。
クマを見つけた、いやクマに見つかった、という。
見つかった、ってなんだ?と。
フクロウはスタミナが少ないので、飛行し続けるのは苦手だ。
隠密系のスキルも少ないので、見つかる前ならともかく、いったん見つかった後に隠れるのも難しい。
「近くの木の枝にとまって監視しろ」と指示する。
了解した感じの念話がくる。
と、いきなり消滅した。
やられたらしい。
え?クマに?
大体の座標は掴んでいる。
残りのフクロウの召喚を解除し、代わりにコウモリを召喚して送る。コウモリの方が数を多く召喚できるので、状況を把握するにはこっちの方がいいだろう。3度召喚をかけて、13羽ほどか。
うち1羽は、引いた位置から監視してこちらに戻ることを優先させる。
コウモリが念話で伝えてくるイメージは、フクロウよりも断片的なものだ。
「ミツケタ!」「ミツケタ!クマ!」みたいな短い念話が複数飛んでくるが、一度にたくさん情報が入ってくると、こっちが処理しきれない。
一匹が呟く。
「クマ、コッチミテル」
そのタイミングで、半数くらいのコウモリが消滅した。
空をランダムに飛ぶ複数のコウモリを、一斉に墜とした。
コウモリのHPはごく低いが、小さくて動きは軽い。狙い撃つのはかなり難しい。
範囲攻撃か。クマが。普通のクマじゃないってことだな。
当然だが。
全部が一度ではないということは、滅茶苦茶広い範囲攻撃というわけではないな。
リキャストまで…5秒くらいか。残りのうち半数がまた狩られた。
混乱した念話しか来ないので、召還を解除する。
離れてた1羽はまだ無事か。戻れ。
フクロウにもコウモリにも気付いた。しかも、攻撃したわけでもないのに攻撃してきた。
「クマ、ツイテクル。オニゲナサイ」
そして、消滅した。
飛び回って監視していたコウモリとは違い、逃げていたコウモリを墜とした。
離れていても、邪魔な存在を探知した。追いかけて、逃がさないようにした。
低くない知性がある。
コイツは、速くて避けられない武器を持ってる。威力は低いかもしれないが、射程も、10メートル以上は堅いだろう。
おそらく、念話の相手がいることも認識しているだろう。
取り合えず、カンテラとカイアを残してカードを仕舞う。
オオカミを2度召喚。
6匹のオオカミを、クマのいる方面に走らせる。
オオカミはフクロウよりも視力や視界で劣るが、知性は高く、
もう少しまとまった情報を手に入れられる。
それに、対地攻撃力も測れるだろう。
10分ほど経過した。
「会敵、熊型生物確認」「巨大個体1、大個体1」
「巨大個体、戦技発動」「散会回避」「消滅3、中破3」「推定、衝哮」
「大個体、戦技発動」「風…鳴動…光……」
計6匹が消滅した。
敵は2体、ともに強力なスキル持ちか。
衝哮とはな。まだ試していないが、ダメージと硬直の範囲攻撃あたりか。
音波みたいなものだとすると、普通に回避するのは難しいな。
それにもう1体は風雷系の術か。これも回避も防御も厄介だ。
これは、なかなかキツイな。
俺とカンテラの分担、他の連中がどういう形なら支援出来るか。
迂闊に集団で寄せても一網打尽だが、遊兵のままって訳にもな。
まずは、一当たりしてみるか。
威嚇を解除、生命探知と遠視を最大限に発動させつつ、前進。
あるぅ日、森の中、と。
何じゃありゃ。
出会ったのは、高さ3、4メートルはあろうかという巨大な熊。いや、四つ足で歩いた状態だから、立ち上がったらもっとか。現世で言えば、4トンダンプよりでかい。
いやいや、罠とかそういうレベルじゃないでしょう。脚だけで一抱えはあるぞ。
その後ろのもう一頭は、ちょっと大きめの熊というくらいだが、頭の当たりが焼け焦げて赤くなっており、片眼も潰れている。
で、こいつの方がヤバい。
体の周辺に放電と空気の揺らぎが見える。
何というか、ゲームを超えて、少年マンガだ。
感心してても仕方がない、行きますか。
戦術機動を開始する。
俺はコウモリ変を発動、射程外の高空へ。
オオカミ召還を立て続けに発動、2頭の熊を射程外から包囲。
カイアの水晶壁をカンテラに装備、カイアも撤収。
影纒と遮動幕で闇夜に溶け込んだら、変身解除しつつ自由落下開始。
ステルス空挺降下だ。
言うほど自由ではないのだがな!
オオカミの包囲網から、数匹ずつを波状に突貫させる。
一瞬で焼かれ、吹き飛ばされていく。特別に高威力というわけではないが、それだけにMP切れは期待できないな。
コウモリを召還してさらに撹乱、黒長剣を構えて突撃する先は…
バンッと音を立てて、破裂しながら吹き飛ばされていく俺の姿を、デカイ方の熊が眺めて念話で呟いた。
「レベル3カ…キタネェハナビメ」
「ユダンスルナ、オロカモノメ。ヤツハ、ケハイヲヘンカサセルゾ」
やっぱりヤバイのはそっちか。
2頭の中間でカンテラが鬼人化を発動。さらに、ひび割れだらけの水晶壁が投げ捨てられ、乱舞陣。カードが、黄金の旋風を立ち上らせる。
オオカミが突撃して発動までの時間を稼ぐ。
ダミーで「殻」を飛ばしつつ、俺の本体は霧化で衝哮をやり過ごしていた。
バラバラにされたダミーの「殻」を脇目に眺めながら、落下の勢いを利用してデカブツの耳元に黒長剣を突き立てる。
熊の頭蓋骨は極めて厚く、堅牢だ。
普通サイズの熊だって銃弾を弾くことがあるので、狩猟では狙うなと言われる。俺の腕力では貫ける訳がない。
だが、今俺がほしいのは脳味噌への一撃ではなく…
お前の、血だ。
熊の毛皮も硬質で厚く、脂肪と筋肉の鎧で、並みの斬撃など受け付けない。
だが、耳は。
音を聴くために、毛皮や脂肪で覆ってしまうわけにいかない。筋肉も着いてない。最悪、切り取られたって命には別状は無い部位なのだから、防備が薄いのは仕方ない。
耳といってもサイズは座布団みたいだ。
黒長剣を血で濡らすには十分。
シュトルムブリンゲン、ニルヴァニエだったか?
赤い脈動の光を放ち始める。
威嚇と牽制も発動。本体の一部も血管に送り込む。
そして俺は囁く。
「おまえ、何レベルゥ?」




