この世界…のこと。
屍狐、意外としぶといな。
というか星一つのカード、あまりにも攻撃力がない。
戦闘で使うのはやめておくか。だが、戦わせていれば成長するのかもしれない。
なんでステータスを見れないのか。
表示のモジュールが動いてないバグなのか?
そんなことを思いながら腕を組んで眺めている。
あと3匹がもうじき来る。
カイアとカンテラの待機を解除して、二人の通常攻撃を見ておくか。
攻撃許可の念話を送ると、カイアのカードからは氷のつぶてが放たれ、カンテラのカードはスルスルと屍狐に近づくと、何らかの打撃を放ち、屍狐を光散させた。
スキルほど派手ではないが、それぞれ技があるみたいだ。
こうしていると、ユニットがAI持ってるリアルタイムストラテジー系のゲームみたいでもある。
カイアの一撃で大体削れていたな。カンテラは単独、カイアと残り全員で攻撃すれば、屍狐をそれぞれ倒せそうかな?
二手に分けて配置をし直し、新手を迎え撃つ。
カンテラ、早いな。
認識範囲に入って一瞬で片付けた。足も速いが、通常攻撃でも割とリーチがあるようだ。
全部狩ってしまいそうなので、攻撃を禁止、その場で待機させる。
カイアの射程攻撃に続いて、アウィネア、アズの近接。サーラの前に、次は屍狐か。
直前に攻撃したアズが狙われる。打撃。
ん?カードの回りの光が暗くなる。
そこへ、もう一匹の屍狐が、離れた場所から急に回り込んできてアズを狙う。
ちょっ!待て!?
アウィネアの身代わりを発動させようとするが、攻撃直後なのでスキルも発動予約にしかならない。
打撃。
パン、とガラス瓶が割れるように、アズのカードが砕ける。
ポリゴンが、滴り落ちるように散っていく。
馬鹿な!いくら星1つとはいえ、後衛クラスでもないのに、脆すぎるだろ…
慌ててカンテラの髪針を発動、2匹の屍狐の額や首筋に突き立ててて光散させる。
マジかよ、雑魚相手で瞬殺とか、どんなマゾゲーなんだ…
と思ったら、アズのカードがあった辺りに石が落ちていた。
藍銅鉱、大きさも見覚えがある。
良かった、石に戻るだけか。ビックリさせやがって。
よく考えたら、アズなんてまともに声さえ聞いてなかったな。
ん、これは、同じ石でベースの札が変わるとどうなるか試せるってことか。
アズには以前と同じ地位の札もあるが、怪我の功名って奴だな。体を張って新たな情報をくれたってことで、今度はもっと上位の札に載せてやろう。少し待ってろ。
しかし、こんな簡単にカードが破壊されるのは、いくらなんでもゲーム的におかしいよな。カードの強化があるってことか。
定番で行くと、魔石か。サーラのカードで試してみる。
案の定、魔石をカードに載せてやると、ミルクの王冠のように波紋を作りながら飲み込まれていった。
ザラザラと流し込んでいくと、やがて飲み込まれなくなって取り残される。
表示はないが、レベルMAXか。
星1つや2つならすぐだが、星3のカイアでも手持ちの半分の魔石を飲み込んでまだMAXにならなかった。カンテラはもっと上がりにくそうだし、今のところオーバーキル気味なので後回しでいいだろう。
しかし、反省だな。
簡単に育成出来るものを、レベル1のまま戦闘に連れ出して死なせてしまったってことか。間抜けな話だ。
さて、気持ちを切り替えて、と。
アズのカードが破壊されたのには結構ショックを受けたが、今回の討伐対象のクマ、あれを一体だけ見ておきたい。というか狩ってみたい。
群れってことはオーガの時みたいにそれぞれ石を落とすのか?
オーガほど強くはなさそうだが数がいるみたいだ。
小さな石でも公女の材料になるのか。他の用途があるのか。
もし使い物にならない石しか出ないなら大物のみ狙うし、そうでないなら訓練を兼ねて順番に狩っていってもいいだろう。
その当たりをつけたいのだ。
星1つや2つのカードが、レベルMAXでどれくらい違うかも見ておきたいな。
今度はもうちょっと慎重に、な。
アズの代わりはフィオーラを入れる。
多少回復の役に立つといいがな。
さて、フクロウ達よ、クマを探してくるのだ…
フクロウを放ったあと、寄ってくる屍狐や魔虫を退治しながら運用を練習していく。
レベルアップの効果は相当なものだった。
後衛キャラで紙装甲っぽいシーラでも、屍狐や魔虫の打撃を2回喰らっても光が暗くならない。通常打撃も目に見えて通るようになったし、タイミングを見計らってスキルを放てば、アウィネアでも屍狐のHPを半分くらい削れるようになった。
俺自身も、最初はカードの光の変化をすぐ近くで見ていないと把握できなかったが、慣れれば離れていても変化に気付けるようになった。
光の強さの段階もいくつかあることがわかった。どうにかHP管理が出来るようになったわけだ。
空中に浮かぶアウィネアのカードに、魔虫が齧りついているのを、脇でじっくり観察している自分の姿を考えると、やはりシュールな気分だったが。
カンテラはこのエリアでは強すぎて邪魔なので、代わりにヘンミィも戦闘に出している。盗賊だけあってレベルが上がっても火力はないが、相手のHPの量を推定するのには、攻撃力が低いユニットもいた方がいい。
どうにか安定して戦闘を管理できるようになったので、威嚇を発動させて一休みとする。
改めてこのゲームについて振り返ってみる。
最初は、オンラインマルチ的な世界だと思っていた。オープンワールド、チュートリアルも説明もなし、物語も始まらないからだ。
だが、他のプレイヤーは登場してこない。俺の存在も、ユニークなもののようだ。そこで、多彩なヴァンパイアの特殊スキルからして、ソロプレイのアクションRPG的な世界かと思った。
しかし、宝石公女は。
カードを手に持って扱う分には、スクロールのような魔道具だ。素早いターゲッティングやスキルのリキャストの管理は、ファーストパーソンシューティング的な素養を求められる。
また、複数のカードが組み合わさってくると、カードの出し入れもあってカードバトル的な要素が出てくる。管理すべきカードも多い。育て方も、強化用素材を合成するだけという簡易さで、昔のスマホゲームの定番だ。
射程攻撃持ちのカードも多く、周囲に浮かべて扱うと、同時多角的な遠隔攻撃が可能になり、もはや弾幕シューティングと言ってもいい。弾幕を張るのはこちらだが。
敵との相性などを見ながらカードの位置をリアルタイムで調整しなければならないのは、リアルタイムストラテジーの操作感に似ている。カードは、指示にも従いつつ、勝手に動く。
…何でもかんでも詰め込めばいいってもんじゃないだろ!
「アルカナの宝石公女」、てめーはダメだ。
プレイ開始からほんの数日、俺は何度目になるか分からないため息とともに膝を着いていた。
ようやく、プロローグにつながりました。
(合わせて、プロローグも、微修正してます)
この辺から、ストーリーが動き出します。




