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短編

夢想恋King

作者: 蛍石光

この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。

 ここは、とある大学の講義室。


「というわけで、私の授業は今日で終わりです。シラバスに書いたように評価は出席とレポートで行います。以上。」


*************************


 数週間後、レポート提出締切日。


 数人の学生が学生ホールで話していた。

 そこに体格の良い青年が走り寄ってきてみんなに話しかけた。


「畑中っ、レポートやったか?」


「おう、完璧よ。結構時間かけてマジでやったからな。」


 そう答えたのは、ひ弱そうな眼鏡をかけた青年。


「やべっ、あれって今日までだっけ?」


「今日までだよ。でもさ、期限は17時までだから、今からマッハでやれば間に合うんじゃね?」


 最近の大学生を象徴するような言葉だ。


「マジで?何枚くらいになる?」


 焦っているのか、とりあえず仲間内での出来を確かめる。そんな感じだろうか。


「表紙もいれて7枚くらい。」


 眼鏡の青年が自信満々に答えた。


「やべぇ〜、それ、マジなやつだ。俺、2枚しかねぇよ。」


 レポートは枚数ではない。内容だと思われるのだが・・・


「ネットのコピペでいいかな?」


「いいんじゃね?とりあえず出せばさ。」


 ダメ。コピペ、絶対ダメ。



********************






実験レポート



理学部  二年

学籍番号 02982149

氏  名 畑中 雄一郎





はじめに

 昨今、結婚年齢の晩婚化と少子化が話題となっている。晩婚化とは世間一般の平均初婚年齢が以前と比べて高くなる傾向を指す言葉(Wikipediaより)である。また、少子化とは、①出生数が減少すること、②出生率の水準が特に人口置換水準以下にまで低下すること(故に、単なる出生率の低下とは異なるとされる)、③(高齢化の対義語として)子どもの割合が低下すること、④子どもの数が減少することを指し、いずれの意味であるかは文脈にもよる(いずれもWikipediaより引用)。どの問題も現代社会が近代社会と比較して平均寿命が伸びたことが一因であると考える。そして、どちらの問題にもお互いの関係が大きく関わっていると考えられる。晩婚であるからこそ少子化が起こる。そして、これらの問題はそのまま高齢化社会と人口減少社会へと繋がっていくことになる。

 また、これらのことから未婚率の上昇とも大きな関連がある。内閣府による2010年の調査によると1980年台から男性の未婚率は上昇しており、25−29才男性で55.2%から71.8%に上昇し、同女性では24%から60.3%にまで上昇、また、35−39才男性は8.5%から35.6%に、同女性は5.5%から23.1%に上昇している。これは1980年には20%台であった進学率が2014年には50%を越える大学進学率の上昇(文部科学省および総務省)と比較的似た傾向を示しているといえる。しかし、一概にこのことが原因なのかと問われると関連付けるのは非常に困難であると言える。

 それは近年よく聞かれる学生結婚の増加からも言えることである。学生結婚を行うということは、学生の間に人生のパートナーを見つけるということにほかならない。そこで、本レポートでは人生のパートナーを見つけるためにどのような手立てがあるのかということに主眼をおいて考察を進めていきたい。

 また、今回の調査にあたって必要な費用は数カ月間のバイト代から捻出した。


目的

 幾つかの手段を用いて、彼女いない歴と年齢が等しい自分をサンプルとして大学生の間に人生のパートナーを見つけられるのか。


実験1

 吊り橋理論の検証実験を行う。吊り橋理論とはカナダの心理学者、ダットンとアロンによって1974年に発表された「生理・認知説の吊り橋実験」によって実証されたとする学説である。吊り橋理論とは、揺れるつり橋を渡ったことによるドキドキを、一緒につり橋を渡った相手へのドキドキだと勘違いし、恋愛感情だと思い込んでしまう効果のことである。


実験方法

 八瀬の吊り橋の中間地点で女性に声をかけ、実際に交際することができるかどうかの検証を行う。


結果と考察

 女性との遭遇率が高いと思われる3連休を狙って実験を行った。

 連休初日。生憎の雨。しかし、5時間程度橋の近くに待機して女性が橋をわたるのを待つことにした。その結果、数人の女性が現れたもののいずれも男性を伴っていたため声をかけることを断念。翌日に期待をし、付近のキャンプ場に戻る。

 2日目。天候は回復したものの、自らの体調が悪化。どうやら雨に打たれたことが原因で風邪を引いたらしい。女性に移してしまうと申し訳ないため、2日目はキャンプ場のテントで過ごす。

 3日目。風邪は回復。天気も晴れ。早朝から夕方までの時間と夜の数時間に待機し、女性に声をかける機会を伺った。その結果、4人の女声に声をかけることに成功した。その結果を順に示す。

 1人目は20代と思われる女性。早朝にも関わらず一人で現れた女性。声をかけたものの、恐ろしい顔で睨まれた。

 2人目は40代と思われる女性2人組。2人組ではあったが返答を貰えた女性は一人であったことから、人数としては一人として換算する。前回の教訓を活かし、笑顔を絶やさずに声をかけた。その結果、優しい微笑みとともに軽くあしらわれるという結果になった。

 3人目。再び20代と思われる女性。それまでは違い、女性のあとをゆっくりと歩き、橋を渡りきる手前で声をかけた。共に吊り橋を渡るドキドキ感を共有したことで成功率の上昇を狙ったが、声をかけた瞬間に逃げられてしまった。恐らくはドキドキ感を恋愛感情ではなく恐怖心に変更してしまったためだと考えられる。

 4人目は30代と思われる女性。日が暮れてから現れた女性。一見しそれまでに現れた女性と異なる雰囲気を醸し出していた。橋を渡り始める前に見つかり、私から声をかける前に声をかけられてしまった。そのため、本実験の検証のためのサンプルとして用いることは出来ないと考えられるが、事実だけは記しておく。この女性は男女交際に失敗し、傷心旅行に来ていたということだった。とはいえ、私とは何の関係もないことであるため、これ以上の記述は行わない。なお、この女性とは何の進展もなかったことを付け加えておく。

 これらの結果から、吊り橋理論は不成立となる可能性が高いことが示唆される。問題となる点は、サンプル数が非常に少なかった点である。また、出会ったばかりの女性に対しては効果が低い可能性も示唆される。よって、次の実験ではある程度の関係を構築した上での検証が必要であると考えられる。


実験2

 実験1で得られた結果と考察を元に、予め女性との関係を構築可能である手段を模索した。その結果、インターネットを用いた人間関係の構築を試みることにした。手段として、会員制である複数の出会い系サイトの利用である。これらのサイトは、結婚率も高いということであり、非常に信頼できるサイトであるという評判があった。なお、サイト名についてはいずれの経営元から公開の許可を頂けなかったため、非公開とする。


実験方法

 まず、先のサイトに登録し、自分のプロフィールを入力する。今回は調査のための利用であるが、公平を期すためにその事実は伏せたプロフィールを入力した。ただし、氏名以外の情報は嘘偽りなく入力したが、入力情報は個人情報になるため本レポートにおいても非公開とさせてもらう。

 また、実際に利用したサイトは3つであり、それぞれをA、B、Cとして進める。すべてのサイトにおいてサンプルデータに偏りが出ないように、私の居住地に近い20〜40代の女性五名にメールを送信した。


結果と考察

 サイトAの結果は、3人の女性から返信が来るという結果だった。返信が来た女性の年齢は20代女性が2名に、30代女性が1名であった。いずれの女性とも複数回のメールのやり取りを行ったが、最終的に待ち合わせの約束までたどり着いたのは20代の女性一名だけであった。他の2名の女性とは途中で返信がなくなってしまった。

 待ち合わせ場所は、先方の意向で人気の多い場所という指定があった。初めて見知らぬ異性に会うには最適の選択であると考えられる。そして、待ち合わせ前日、メールによって最寄りのJR駅近くの喫茶店ということになった。

 当日の待ち合わせ時間の直前までメールが続いていたが、待ち合わせ五分ほど前に母親から緊急の呼び出しがあったということでキャンセルされてしまった。しかし、その二日後に次回の待ち合わせ日時を決定し、再度、先の喫茶店で落ち合おうということになった。しかし、その前日、急な仕事の出張ということでまたもやキャンセルされてしまう結果となった。

 いずれの場合においても、やむを得ぬ事情が絡んでいるため出会えなかったのは仕方がない状態であったといえる。

 次にサイトBの結果を述べる。ここで返信が来たのは五名全員という返信率であった。この時点で非常に優秀なサイトであることが裏付けられたと言えよう。また、サイトAと比較し、少ないメールのやり取りでのアポイントメントの取り付けが行えた。この点に関してもサイトAを上回る結果であった。それぞれの女性と同じ日の違う時間での待ち合わせを提案し、受け入れられた。

 1人目の待ち合わせ時間は9時であったが、10時になっても現れなかった。また、メールに対して返信も得られず、後日送信したメールはMAILER DAEMONとなってしまった。私が彼女に対して不適切な行動を取ってしまった可能性を否定できないため、やむを得ない結果であるといえる。

 2人目は11時に待ち合わせをした。彼女はその場に現れたようだが、私が自身の服装の特徴をうまく表現できなかったために見つけられなかったという返事があった。今回の私の至らぬ点が取りざたされる結果となってしまった。

 3人目は14時の待ち合わせであったが、相手の女性が待ち合わせ時間を間違うというミスを犯してしまった。そのため、止むに止まれず会うのは次回以降ということになった。この件に関しては私にミスはなかったと断言できるであろう。

 4人目は18時の待ち合わせであった。この時間は休日であっても駅が混雑する時間である。彼女とのメールのやり取りをしながら待ち合わせ場所の確認を行っていたが、駅の複数の出口付近に同名の喫茶店があるという事実に気が付くことが出来ず、相手を怒らせるという結果になってしまった。その後の結果は書き記す必要もないであろうから割愛する。

 最後の5人目は20時の待ち合わせだった。彼女は自身の服装をメールで教えてくれたため、非常にわかりやすく探すことが出来た。実際、彼女が教えてきた服装の女性に声をかけたところ、何故か別人であった。その後、間違えてしまった女性に弁解し、許しを得るまでの間に来ていたメールを見逃したため、彼女は私がメールを無視したと勘違いして帰ってしまった。

 この結果から、いずれの場合も男性側にミスがなければ女性との出会いは可能であると推測できる。

 最後にサイトCの結果を述べる。このサイトは評判とは大きく異なり、非常に悪質なサイトであった。2、3回のメールのやり取りでアポイントメントの取り付けはできるのだが、いずれの場合もさらなるポイント追加と言う課金を要求してくるものであった。残念ながら、学生である以上大きな金額の追加投資は困難であるため、このサイトでの検証を諦めることとした。

 最後にまとめとしては、いずれのサイトにおいても女性と出会える可能性は高く、きちんとしたやり取りを行うことができれば問題なく女性と出会えるであろうことが判明した。次回の機会があれば、もう少しサンプル数を増加して検証してみたいところである。しかし、出会うまでに多額の投資が必要となるため、安易に使用できる方法ではないと考えられる。参考までに本実験で使用した金額を述べると3つのサイトの合計で計四万円であった。


実験3

 上記の考察から、直接女性に出会える場所へ赴き、かつ会話が可能であるものが好ましいと考えられる。よって、街コンの参加を検討することにした。街コンは、街ぐるみで行われる大型の合コンイベントである(Wikipediaより)。よって、より安全に且つローリスクで女性と出会うことができる物となっている。ただし、街コン参加資格は20才以上という場合が多いため、今回は年齢を詐称して参加することにした。身分証の提示を求められた場合は素直に諦めて帰宅するという選択肢を持っていたことは言うまでもない。


実験方法

 インターネットで検索し、予め身分証の提示の有無が書かれているイベントを選択した。サイトに書かれていたのはおしゃれな格好での参加を促していたため、貸衣装としてタキシードを準備し、胸には赤いバラをつけるというハイセンスな服装をチョイスした。


結果と考察

 会場に入場した瞬間、女性から多くの視線が集まった。また、同性の男性からはやっかみの視線が送られた。この結果だけからも今回の服装の選択は正解であり、街コンの参加衣装はタキシードがマストであると考えられる。

 自己紹介、フリータイムを経ていざカップリングの時間となった。今回の街コンでは男女ともに気に入った相手の番号を主催者側に手渡し、成立したカップルを読み上げるという方式であった。今回の参加者は男女合わせて60名弱とやや少なめであったことも災いしたのか、カップル成立は8組しか発生しなかった。これは確率として27%であり、あまり高い確率とはいえない結果だった。そして、残念ながら私自身もカップル不成立であった。私が最も興味を持った女性もカップル不成立であったため、そもそもお互いの趣向が合っていなかったのだという事になる。また、今回の不成立の原因は私が自己紹介の際に職業を学生であると述べたことも原因の一つであると考えられる。フリータイムで話す機会があった女性が、優しく耳打ちしてくれたため、この情報の信憑性は非常に高いと考えられる。

 結果として考えられることは、まず、街コンには就職して収入を持つことが必須であるということと、必ず自分にカップル成立が起こるという夢想を持たないことが重要である。ただし、街コンで成立したカップルの結婚率は比較的高い(今回の主催者によると60%を上回るということであったが、資料等の提示は無し)ため、複数回の費用捻出が可能であるならば参加することには大きなメリットがあると考えられる。


実験4

 上記の実験1〜3までの結果を複数の知人と検討した結果、友人の紹介において3回デートを行うことが最も近道であるという証言を得た。この知人というのは、私と同じ大学に通う知人とネット上で知り合った人間の証言である。彼らはこの手法で何度が女性との交際まで発展したという事実があるため、この証言を軽視することは出来ないと考えた。

 そこで、私の知人に片っ端から連絡を取り、セッティングしてくれる人間を探すことにした。


実験方法

 今回協力してくれた男性の知人AとB、それに女性C、D、Eの6人での食事会を開催した。そこで連絡先を交換し、後日再び食事を行い、その次の3度目の食事にて夜景を見に行き告白するという方法を選択した。


結果と考察

 初めの食事会において、DとEの連絡先を手に入れることができた。CはAと交際中であるということで、連絡先の入手は不可能であった。そこで、早速二日後にDとEに再び食事に行こうと連絡をしたところ、二人共快く返事をしてくれた。

 そのことをAに報告し、再度、前回の6人での食事会を行うことに成功した。これで2度目のデートが成立したと考えられる。

 しばらく経って、Dからの連絡があった。その内容は食事を一緒にしたいとのことであった。今回は残念ながらAの参加が困難であるということだったので、Bと共に食事を行うことにした。Dも別の女性Fを連れてくるとのことであった。

 3度目のデートとなるDに夜景を見に行かないかと食事会で提案を行った。その結果は、皆で行くなら構わないという答えが得られた。そこで、私、B、D、Fの四人で近場にあるデートスポットと呼ばれる夜景の見える場所へ移動することにした。ここまでは当初の計画通りに進んでいると考えられる。

 そして、夜景を見ながら私が密かに想いを寄せていたDに話しかけた。ここまでは計画通りに進んでいると言わざるをえない。私は自信を持っていた。

 しかし、その答えは予期せぬものであった。なんと、DはBに興味があるというのだ。今日出会ったFはDの付き添いできたということで、私に対して何の感情も抱いていないということだった。三回目のデートが告白に有効であるかの検証はここで終了した。

 今回の実験から得られた結果はBとDが新たなカップルとなるという結果であった。この点から考えると、食事会を何度か繰り返して夜景を見に行くという流れは非常に有効な手段であると考えられることができる。しかし、私にとっては有意義な時間ではなかったということは付け加えたいと思う。


総括

 今回の実験において、女性といかに親密になり、交際に至ることが困難であるかが示された。また、様々な人が有効であると解いている手段であってもその実践の方法、タイミング、そして実行する人間の能力に大きく左右されるということがわかった。

 私にとって今回の実験は非常に興味深いものであり、今後も様々な実験を行い、検証を重ねていきたいと考えている。


参考資料

Wikipedia

街コン企画サイトHP



*************************


 畑中くん。興味深いレポートではあります。

 しかし、まず、第一に指摘したいところは君の選択した実験内容に関してです。残念ながら実験1〜3まではどう考えても有効な手段とは考えられません。もう少し、冷静に考えて検証を行うべきであると考えます。

 また、この検証には君個人の主観が強く出ていると考えます。よって、客観的な視点から君の行動をよく分析してください。おかしな点が多々見られるはずです。

 最後に。この授業は生物行動学入門です。絶妙にマッチしていないテーマとなっていますので、再レポートの提出を命じます。


生物行動学入門 担当教員 菊地聡

最後まで読んでくださってありがとうございます。


今回は文字がギュウギュウに詰まったレポート形式です。

文字が詰まっていて読みにくかったらごめんなさい。


主人公の必死さが伝わる、真面目(?)な話になっています。

しかし、どこかズレています。いや、大きくズレていますよね。


こんなレポートを提出された先生は、どう想うのでしょうか?

これほど冷静に評価してくれる先生。

もし、いらっしゃっいましたら、ご意見、ご感想お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小説としてかなり異質な構成で思わず読み込んでしまいました。主人公の人となりがよく伝わってきました。憎みたくても憎めない主人公ですね。 [気になる点] 異質な構成が故に好き嫌いが激しい作品だ…
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