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無色な僕と燻んだ妖精  作者: 栗間理玖
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幼なじみ

ーーーチュンチュン

雀のさえずりで僕は目を覚ました。何だかひどく懐かしい夢を見ていた気がする……

目を閉じて夢を思い出そうとしても上手くいかない。うぅっ頭が痛い痛い……

こうしていても埒があかないし起きるとするか。


僕の名前は友木昌平(ともきしょうへい)。何の変哲もない名前だ。ちなみに父親の名は公平。センスのかけらもないのだ。

近所の川久保高校にこの春から通っている高校一年生だ。周囲を山で囲まれた盆地の上に成り立っている地方都市で育った僕はたいして不便もなく、特別良いことがある訳でもなく普通の生活を送っていた。一つ他の人と比べて何かあるとすれば…父子家庭であるということくらいか。

そうこう説明口調の回想を続けているうちに支度を終え、階下に降りた。今朝も父親は朝早くに家を出ておりいつも通り一人きりの朝食だった。友木家では朝食はそれぞれで勝手に食べ、夕食は基本僕が作るというスタイルだ。まぁ、父親は東京まで出張することが多く、あまり顔を合わせないというのが正直なところだ。男二人ということもあり、たとえ四六時中顔を突き合わせていても話すことは何もないのだが。

ーーー適当にパンにジャムを塗って済ます。入学したばかりの高校生にとって、この時期に形成した人間関係が後々重要になってくる。うかうかしてると入学早々ボッチなどになりかねない。早めに登校すべきだろう。

ガチャリ。

と家を出ると隣家でも同じような音が聞こえ、ショートヘアの女の子が出てきた。そのまま目が合う。


「あっ…おはよう昌平」


「うん。おはよう」


やや茶がかった髪の彼女の名前は常盤永遠子(ときわとわこ)。通称とわちゃんだ。隣に住むひとつ年上の幼なじみだ。整った顔立ちの上にすらりと背が高く、同年代の男子の中では少し平均より低めな僕と同じくらいの身長だ。

産まれて以来の付き合いで、母親のいない僕を気遣っての事だろうか、よくうちに来て夕食を作ってくれたり家事を手伝ってくれたりする。この春から同じ高校に通っているので、小学校・中学校時代と同じように一年ぶりに一緒に登校しているのである。


「暖かくなってきたね〜」


少し眠そうに目をこする仕草にはどきりとさせられた。朗らかな顔で微笑みながら話しかけてくる彼女は姉のようであり、同時に一人の女の子であることを僕に意識させるのだった。

二人並んで他愛ない話をしながら再び僕は回想するーーー


ーーー実は僕には母親の記憶がない。

母親が突如として消息を断ったのは僕が六歳の時のことだという。なのに何故か母親の顔も姿もはたまた思い出すらも失ってしまっているのだ。思い出せないというよりは脳というコンピューターが、母親の記憶というサイトにアクセス制限をかけているかのようだった。

なにもそれは僕だけに限ったことではなく父親もであり、祖父母も近所の人々もみんなが母親を忘れていたのだ。みんなはそれぞれ何かおかしいと違和感を抱きながらも、その理由すらもわからず結局は今まで通りに生活を続けているのである。

僕は小さい頃、なぜ自分にだけ母親がいないのかを周囲に尋ねて回った。しかし誰もそれに答えることはできなかった。これは要領の得ないことばかりで、はぐらかされているというよりは本当に理解できていない様子だった。だからその時、僕は母親のことを諦めてしまったのだ。

それ以来、身近にいて優しく接してくれていた永遠子の母親のことを実の母親のように懐いてしまったのにも無理はないことだろうーーー


「……ぇ、ねぇ、昌平ってば!」


ふと顔を上げると永遠子が覗き込めように見ていた。顔が近い……!


「ぅえっ!ど、どど…どうかした?」


「もぅ。それはこっちの台詞だよ」


ついつい思いふけってしまい、いつのまにか永遠子に生返事をしてしまっていたようである。


「まぁいいけど。でさ、昌平は何か入りたい部活ないのってさっきから聞いてるんだけど」


部活……か。

うちの高校はあまり偏差値が高くないので、相対的に部活動に力を入れている(こういう言い方は偏見じみているのかもしれない)。実際、ほとんどの生徒が何かしらの部活動に所属していたはずだ。確かに仲間と共に流す汗は青春という感じがして憧れのようなものはある。

しかし、僕は中学時代特に運動をやっていたわけではなかったから今から始めるには少し無理がある、かといって打ち込めるほどの趣味も集中力もないので文化部に所属するのも億劫だ。


「その…まだわからないけど、とりあえずは入らないつもりだよ。特にやりたいこともないし、それに家のことも色々やらなければいけないしね」


「そっか……でもやりたいことが見つかったらちゃんと私に言うんだよ?私、昌平のやりたいことなら応援するから。家事くらい手伝うしっ!」


「とわちゃん………」


なんというかお節介というか………

永遠子の気持ちはありがたいけれど、彼女自身を犠牲にしてしまうような…そんな女の子なのだ。これが永遠子の永遠子たるゆえんであり、僕が他の女子と同じように扱えない理由である。

そうしているうちに学校に着いてしまい、二年生の永遠子とは昇降口で別れ僕は一年生フロアへと向かった。今日から本格的に授業が始まるのだ。











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