虫の脅威
ルナは小さい頃からとても活発な子供だった。外で遊ぶのも好きでよく泥だらけになって帰ってきていた。
一時期は男子と一緒になってカマキリを捕まえて育てようとまでしていたが、クラスの先生に見つかり出来なかった。
しかし昔から蜘蛛だけは苦手だった。
そんなある日夜中に目が覚めてしまったルナは、顔に何か違和感を覚えて叩いてみたら小さな蜘蛛だった!
彼女はそれ以来更に蜘蛛を怖がるようになり、成長するにつれて虫全体が苦手になっていた。チョウチョウですらから逃げる始末である。最終的には虫を見ると条件反射で逃げるか固まるかの2つだった。
そんなわけで前方に見える蜂の大群は脅威でしかなかった……
「…ムシ?なんだいそれは?」
何のことかわからず首を傾げるリチャードはチラッとザイルの方に視線を向けた。
「ムシ…?もしかして前方に見える小さな生き物たちの事ですか?」
ザイルは蜂達を指しながらルナに聞いた。
「そう!あれは蜂っていって、刺激すると追いかけてきて人を刺すの!蜂に刺されて死んでしまう人だっているんだから!!」
必死に蜂の恐ろしさを説明しようとしていたルナに2人は不思議そうなものを見る目で聞いてきた。
「…何故あれが何なのかがわかるんですか?地上にある物は出回っている書物も少ない。名前まではわかっていても実物はわからないはず…何故あれが蜂だとわかるんです?」
ザイルは信じられないようにルナに聞く。
「はぁ!?何言ってるの?!私は貴方達と違って地上でしか生きたことがないからだよ!何か勘違いしているようだからこの際言うけど、私はこの世界の人間じゃない!」
ルナは一気に吐き出した……
「なん…ですって!?」
ザイルは真っ青になって額に手を当てた。
「何!?異世界!?本当かい?」
リチャードは興奮気味に詰め寄ってきた。
「う、うん…」
ちょっと後ずさりながら答えたが今度はザイルがゆらゆらと近づいてきた。
――蜂よりこの二人の方が怖いかもしれない…いや、不気味だ…言ってしまったのは失敗だったか…
「…私の術は完璧だった…ちゃんと作動もした…いや、強力すぎたのだろうか…しかし……ブツブツブツ…」
ザイルはルナをジロジロ視られながら何やら考え事を始めてしまった。
「異世界ってどんなところなんだい?人はみんな君みたいな外見をしているの?食べ物は?それから」
「待って、そんなに聞かれても答えられない、というかうるさい!気づかれたらどうするの!?危ない!」
そう言いながら2人して前を見たら一際大きい蜂と目が合った気がした…
―これは、死亡フラグじゃね?
「…見つかってしまったみたいです。」
ザイルがそう言ったそばから蜂達がこっちに向かって飛んできた!
「いやぁああああああああ!来ないでぇええええええ!」
ルナは一目散に走り出した!
一歩遅れて二人もルナを追いかける。
「ちょ、ちょっと待ってください!あれを倒す方法はないのですか?!私達はあそこを通らないと進めないんですよ!」
ザイルが走りながら聞いてくる。
「煙り!煙があれば、遠ざけられる、と思うから、火が、必要!」
走りながら答える
「わかりました!」
ザイルは振り向きながら杖を蜂達に向けて呪文を叫んだ!
蜂達は一瞬のうちに燃え上がって地面に落ちた…
「水のなかでは生きていたのによく火の魔法が使えたね。」
ルナはザイルと燃えカスを見比べながら言った。
「火は暖をとるためには必要なものです。」
ザイルはしゃがんで燃えカスとなった蜂達の残骸を見ながら答えた。
「間一髪だったね!びっくりしたよ」
リチャードは肩を回しながら近づいた。
「脅威も去ったことですし、前に進みましょう。」
ザイルはそう言いながら来た道を戻り始めた。
―目的地まで無事に着くのかな?
ってか何でここに呼ばれたのかまだ聞いてないな…
ルナはそう思いながら2人を追いかけた。