花の入口
「殿下!何度も言いますが、何があるのかわからないから先頭を行くの止めてください!」
ザイルが先程からずっとリチャードに同じような事を言っている....
「僕が先を行くのは君の歩調が遅いからであって、僕は悪くないぞ。」
上機嫌で歩調を早めるリチャード。
挑発に乗って駆け足になるザイル。
「リチャード!....君がそういうならこれでどうですっ!?」
そう言いながらまた何か呪文を呟いたザイルの歩くスピードが上がった。
もう既に歩くというより走っている....
―私の存在忘れてないか?君達についていかないと被害受けるの忘れていないか?!
背の高い二人には分からないのかもしれないけれど、背が低い私はついていくのに精一杯で大変なんだけど!
リチャードの身長は恐らく180以上はあるだろう。細身なのに鍛えているらしく程よく筋肉がついている。明るい茶髪に蜂蜜色の瞳、肌は白く女性でも見惚れるくらいだ。顔のパーツも整っていてまさに王子様その人だ。
外見は素晴らしい!外見は!中身が子供過ぎて残念な感じに仕上がっている。
ザイルの方の身長はたぶん170程度だろう。低くはないがリチャードど比べると少し小柄だ。本人もそれを自覚しているらしく意地になっている。濃い緑色の髪に黒い瞳で肌も白いが目の下にくまができている...見た目は悪くないが神経質なところがある。
「っく!卑怯だぞザイル!待てっ!このっ......ん!?」
そろそろ2人のマラソンについていくのが限界だなって思い始めたところで、2人とも突然動きを止めた。
前方に何かがあるようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ....」
やっと2人に追い付いたルナは目の前にある2人が止まった理由を知る。
前方には一面美しい花畑が広がっていた。
花はずっと続いていて木にも絡まって、木と一体化しているものもある。とても幻想的な景色だが、以上なのはその大きさである。目の前には小さな花の絨毯があるが奥の方には明らかに尋常じゃない大きさの花がちらほら見えていた。
「美しいな...!!」
リチャードは先程と違い、今度は速度を緩めて周りをうっとりと見ながら歩いていく。
「地上にはこんな美しい物もあるんですね....研究したい...」
ザイルも同じくこの景色に感嘆しているようだ。近くの葉っぱや花びらを触ったりしている。
しかしルナからしたら"自分の背丈と同じくらい"の花はどんなに綺麗な薔薇でも不気味である。
昔読んだ物語に、不思議の国に入った女の子の身体が縮んで大変な冒険したものがあったなと思いながら歩いていった。
肉食植物に出会わなければいいなとびくびくしながらその間を進む....
しばらく進んでいたら微かな変な音が聞こえてきた。まるで沢山の羽の音のような物が...
進むにつれて音はハッキリと聞こえるようになってきた。
――ズーン、ブゥーン、ブーン……
「これ、このまま進んでいくと嫌な予感がするんだけど....」
ルナは周りを気にしながら小さな声で2人に忠告してみた。
「それは同感ですが...このまま進みます。リチャード、慎重に、しかし迅速にここを抜けますよ。」
ザイルは杖を手に先導していく。
「わかった。君は真ん中にいて。」
リチャードは短く答えて私を2人の間を歩ませる。2人に守られるように進んでいく。
そうしてるうちに前方に忙しく横切る黒い影が見えてきた。
ルナはそれをみて思わず硬直してしまう。
音の正体がわかったのだ。
「なんだ、小さな生き物の大群でしたか」
ザイルはそう言って安心して進もうとする。
「ま、ま、まって!わ、私あ、あそこに行けないっ!!」
ルナはぶるぶる震えながら答える。
ザイルはルナのようすがおかしいとようやく気づいた。
「なんです?駄々をこねないでください。私たちは時間が惜しいのだから。」
ザイルは眉間に皺をよせて答える。
「ムリ!嫌だ!絶対!」
目に涙を浮かべて首を横にふるルナは酷く怯えているようだ。
「せめてどうして嫌なのか言ってくれるかい?」
さすがに可哀想に思いリチャードは聞いてきた。
ルナは前方から目をそらさないで震えながら答える。
「む、虫が!大の苦手なんだよぉー…!」
先程から聞こえていた音の正体は蜂の大群の音だった……………