召喚される2.
夢の中で白に近い金髪の美しい人に会った。その人は私を見たときにとても驚いていたけれど、同時にほっとしているようにも見えた。
「ようやく・・・会えた・・・」
とても疲れているようなけれどそれでも威厳がある中世的な声で話しかけられた。
「あなたは誰?」
思わずこちらからも話しかけてしまいすこし慌ててしまった。
その人は嬉しそうに微笑んで答えた。
「もうすぐ・・だよ・・・」
淡い光を瞼に感じてゆっくりと目が覚めた。
すこし息がしづらいのと寝違えたかのように体中が痛んでいるところで誰かの話し声が聞こえてきた。
「・・思っていた以上に酸素の消費が多いです。急ぎますよ。」
昨日のザイルとかいう男の声が聞こえてきた。
「呑気だなぁ。よくこんな状況で熟睡できるものだよ。」
リチャード王子が呆れたようにコンコンってガラス玉をつついた。
流石に恥ずかしくなって起きてみたけれど、すこし眩暈がした。
「・・・おはよう?・・ん?」
とりあえず朝の挨拶をしてみて周りの景色が変わっていることに気が付いた。
正しくは“まるで水の中に居るかのような変わっていく”景色に驚いた。どうやらガラス玉が宙を浮いてひとりでに動いているようだ。
周りには小さな魚たちが頭の上を泳いでいる。視界は悪く先頭をいくザイルの持っている杖から発している光だけが頼りだ。
「もう少しで目的の場所につきますから黙っていてください。」
ザイルが挨拶もせずいきなりしかって、スピードを少し上げたようだ。
リチャードは少し苦笑してザイルに話しかけた。
「相変わらず手厳しいな。」
ザイルは特に気にした様子もなくただ道を注意深く進んでいく。周りはどんどん暗くなっていって道は更に細くなっていった。
それにしても不思議な夢だとルナは思った。夢にしては全てがリアルすぎるのだ。もう少し様子見をすることに決めて、しばらく景色を見ていたが眩暈はひどくなる一方である。
先程まで暗かった道の先に朱い光が見えてきた。その光に近づいてザイルがリチャードに話しかけた。
「ここです。リチャード手伝ってください!」
すこし開けているその場所には上に続くトンネルがあってそこから光が来ているようだ。
二人はルナが入っているガラス玉をトンネルに押し上げた・・・
ガラス玉はどんどん上がって行って薄くなってシャボン玉のように弾けた。
身体の周りに沢山の光が集まってきて目も開けられないほどになったルナは自分を抱きしめ、目を開けたら森の中らしき場所の小さな泉の近くに身体を抱きしめたまま座っていた。周りには誰の姿もなく空には朱い月があるだけでとても静かだった。
しばらく呆然と周りを見ていたけれど、気を持ち直して起きたところで泉の中から先ほどの二人が水の中から出てきた。
「っ・・はぁはぁ・・・・はぁはぁはぁ、やっと、出られた!」
リチャードはそう言いながら地面に寝転がった。
「っはぁ・・・はぁはぁ、成功、ですね・・・」
ザイルは息を整えて直ぐに起き上って周りを見渡した。
ルナに近づきまた何かよくわからない呪文みたいな言葉を呟いた。
それと同時に服装が動きやすい物にかわり首には鎖の首輪が現れた。
「今日はここで野営しましょう明日からは自分で動いてもらいますよ。」
それだけ言ってザイルは泉から少しだけ離れたところで、地面に何かを描いたり物を置いたりしてそのあとまた何か呪文を呟いた。するとそこには3つのテントが現れ、その1つにさっさと入っていった。
先程まで寝っころがっていたリチャードはいつの間にか起き上っていて周りを興味深く見ていたが、何を思ったのかルナに近づいて話しかけてきた。
「そういえばまだ名を聞いていなかったな。少しの間一緒に旅をするんだ自己紹介は必要だろう。俺はリチャード・ファン・シルクヴォンだ。お前は?」
「・・・神凪ルナ」
最初の印象から変わってフレンドリーに接してくるリチャードを訝しげに見つめながら答える。
「カンナギルナさん、気が立っていたとはいえ昨日はすまなかった。。。人に対していう言葉じゃなかった。すまない。」
どうやら最初に会った時のことを謝っているようだ。そこまでひどい奴でもないと意識を少しだけ改めた。
「大丈夫です。」
短く答えて改めて周りを見渡すルナは風や匂い、地面の感触から夢じゃないことを悟る。
どうやら自分は本当に別の世界に召喚されて何処かに連れて行かれる所らしい・・・
状況は全くわからないけれど、対応からしてそこまで酷いことはされないだろうと思ったルナは自分の置かれた状況を全く理解していなかった。
「そうか。よかった!先程テントに入っていったのはザイルっていう僕の友人であり宮廷魔法使いだ。とてもいい奴なんだが誤解されやすい。僕はそろそろもう休むけど君は余ったテントを使っていいよ。」
丁寧に先程のザイルの自己紹介もして疲れたように伸びをするリチャードは自分のテントにむかって入っていった。
何もすることもなく周りを少し探索しようと思ったルナは、テントから離れて森の中に入ろうとした。しかし離れていくのにつれて首に着けられた鎖の首輪が熱くなっていく。戻ればすこし治るのを繰り返していたら流石におかしい異に気付いたルナは悟ったのだ。。
自分は逃げられないようにされたのだと――――
テントに近づくにつれて熱も引いて行った。自分のために用意されたテントに入りこれからどうするかを考える。相手は逃げられたら困るらしいことから、察するのはあまりよくないことだろう。しばらく様子をみて探ってみることにした。
もし危ないようなら逃げられるように相手に安心させてこの首輪を外してもらえるようにしなくてはならない。きっと両親も心配しているだろう。なんとしても帰らなくてはと思うが、思っていた以上に精神的にも身体的にも疲れていたルナはまた眠りについていった。
――――はやく おいで
そんな声が聞こえた気がした....