長老のはなし
サブタイトルのネーミングがそのまま過ぎて申し訳ないです!
「落ちついたかの?」
涙が止まってきた頃にカエサルが気遣わしげにルナに聞いてきた。
「はい…ありがとう、ございます…ご迷惑を、おかけしました。」
ルナはそういいながら恥ずかしそうに手の甲や服の袖で涙を拭った。
目は真っ赤になっていたがどこかスッキリしているようでもある。
「ふむ、あまり溜め込んじゃだめじゃぞ?」
「うん。まだ頑張れそうです。」
「…ちゃんと理解しているのじゃろうか…?」
「ん?」
「まぁ、よいか!しかしおまえさん、泣くほど生け贄になるのが嫌なら何故逃げないのじゃ?」
カエサルは首を傾げて不思議そうな顔で聞いてきた。
「………かわいい」
「…何がじゃ?」
あまりに可愛らしいしぐさだったもので思わず思ったことが口に出てしまったようだ。
「あ、いえ、何でもありません…何故逃げないかですね!理由はこれです。」
ルナは慌てて話を戻して、自分の首にある物を見せた。
「ほう…魔法が掛かっている道具じゃな!して、効果はなんじゃ?」
「どうやら術者からあんまり離れすぎるとこの首輪が熱くなって痛みが身体中に来るんです…今はちょっと距離があるから痛むんだけど…まだ我慢出来ます………ちょっと目眩がしてきたかも」
さっきまで泣いていたせいか、心の方が苦しくて身体の痛みはそんなではなかった。しかし、なんだか泣いてスッキリしたおかげで痛みというか目眩がしてきたようだ…
「なんと!?卑劣な奴らじゃ!」
カエサルは足をバタバタと木の幹に叩きながら憤慨した。
「代々この森の長はこんなときのために生け贄となるものに試練を与えるのが習わしじゃ!しかし、試練を受ける者は自ら望んで挑まなければならん!こんな強制的にやっても良い結果は出ないんじゃ!」
「そ、そうだったんですか…」
「そうなのじゃ!!」
「え、じゃぁ私は不合格になるのですか?」
「そのまま挑めばな!」
「そんなぁ…」
「だからワシは怒っているのじゃ!もしかしたら奴らは今までもこんなやり方をしてきたのやもしれん!いや、絶対そうじゃ!だから試練を突破した者がいないんじゃ…!!」
「…え?今、何て?試練を突破するものがいない……?」
「………あ」
カエサルは慌てて口に手を当てて固まった。
(何てことだ!不合格になったらどうなるんだろう!?
聞きたいような、聞きたくないような…しかし知らない方が怖いかもしれない…)
「……教えてください、不合格になるとどうなるんですか…?」
「な、何のことじゃ?ワシは老いぼれじゃからさっきまで何の」
「何があるんです?」
ルナからそっと離れて行こうとしたカエサルはルナにガシッと捕まれて、凄くいい笑顔で凄まれた。
「……おぬし、さっきまでのしおらしさはどこに行ったんじゃ…?」
「なんだ、覚えてるんじゃないですか!……で?」
「わかった!わかったからそんな顔で凄むな!…うぅ、同情したワシがおろ」
「早く教えてください!」
「せっかちじゃな……試練に失敗すると、知性を失われてのくんじゃ。」
「知性が失われる?それってバカになっていくって事ですか?」
ルナはそういいながらカエサルを放してあげた。
「まぁ、簡単に言ってしまってはそうなるんじゃが…正しくは知性が失われていくと身体もそれに沿って変わっていくんじゃ…」
(身体が変わっていく!それは今朝起きた自分の変化と同じではないか!?)
「具体的にはどんな姿になるの!?」
「そうじゃなぁ、前回は豚になったと記録にあったんじゃが……まぁ、ドンマイじゃな。」
(……豚!?それは嫌!せめて猫とか犬とか可愛らしい動物がいい!いや、そうじゃなくて!せっかくいい方向に変わったのにここで変なものに変わったら台無しじゃないか!正に上げて突き落とすみたいだ!)
「どうすれば試練を突破出来るんですか!?」
「…先ずは台座に辿り着ける事じゃな。そこで試練を受けられる。これ以上は教えられんぞ。」
「そうですか…教えてくれてありがとうございます。……さきほどはすみませんでした。」
「いいんじゃ。おぬしも大変じゃろうしな!許してやるぞ!」
「ふふふっありがとうございます!」
「っふん!」
カエサルが照れたように顔を背けた時下から人の声が聞こえてきた。
「ルナさん!どこですか!?出発するので出てきてください!」
「ルナさーん?どこにいるんだい?…本当にここら辺にいるのかい、ザイル?」
ザイルとリチャードが迎えに来たようだ。
「ほう…あの二人が案内人じゃな?ワシが一つガツンと言ってやろうかの!?」
「いや、いいよ!カエサルさんはもう十分助けてくれたよ!これ以上は迷惑かけられないよ。」
(優しい気持ちだけで十分だ。)
「そんなところに居ましたか。下りてください。これ以上は時間をかけられません!」
ザイルは苛立ち気にルナにいい放った。
「ふん!貴様がこの娘にひどい魔法をかけた魔法使いじゃな!?」
カエサルはルナの肩に乗ってザイルに話しかけた…いや、喧嘩腰でだから喧嘩を売った?
「おや?その小さな生き物は何だい?」
リチャードの方が肩に乗っているカエサルを興味深げに見た。
「貴様からはマナは感じられん…おまけじゃな!」
「カエサルさん!」
ルナは慌ててカエサルの口を押さえようとしたが、それよりも早く逃げられてしまった。
「いいや!ワシはこ奴らが気に入らん!ハッキリと言わせてもらうぞ!貴様らはクズじゃ!!」
カエサルは二人の顔に近い位置にある枝まで降りていって怒りを込めていい放った!
「なんだか可愛い生き物だね!賢そうだ。まるで何か話してるみたいだ!なぁ、ザイル!」
リチャードが瞳をキラキラさせながらザイルに言った。
「そんなことはどうでもいいですよ。私は早く行きたいだけです。だいたいこういった動物には話す事は出来ません。魚と同じようなものですよ。」
ザイルはカエサルを追いやるようにシッシッと手で追いやった。
「もう怒ったぞ!失礼なやつじゃ!ワシは偉いんじゃぞ!この赤の森の長老なんじゃぞ!」
「はははっ!お腹を空かしているのかもしれないな!鳴き声がまるで怒っているみたいだ。ザイル、何かあげられそうな物はないか?」
「…ありません。あっても貴重な食料を無駄にはしません。」
「相変わらずお前は厳しいなぁ。すまないな、小さな生き物よ!」
リチャードはそう言いながらカエサルを撫でようとしたが手が届こうとしたときカエサルにおもいっきり噛まれてしまった。
「ふん!気安くワシに触るでない!!」
カエサルはそういってルナがいるところまで駆けて行った。
「いってぇ!」
先程の様子を見ていてルナは違和感を覚えた。
(まるでカエサルさんの言葉が通じていないみたいだった。もしかして、二人にはわからないのか?)
「あの、あんまり失礼なこと言わないであげてよ。怒ってるよ?」
「そんな生き物が怒っていようとそうでなかろうと関係ありません。だいたい本当に何を言っているのかわからないですしね。まぁ、何か本当に話していたらの話ですが…それよりもいつまでそこにいるつもりですか!」
やはり二人にはカエサルの言葉がわからないようだ!
「何じゃこいつら、ワシの言葉がわからんようじゃな。む?そう言えばワシらの言葉がわかるのは獣人だけじゃったからおぬしはやつらと違う種族なのか?」
「いえ、私も人間だけど」
「それは本当か?!おかしいのぅ。何でじゃ?」
「いや、私もわからないですよー。だいたい最初は通じてる気満々で話しかけたじゃないですか!」
「あれは何とんとなくおぬしが聞こえていると思ったからじゃ!」
「えぇ~」
「とにかく!おぬしは負けるんじゃないぞ!台座で待っておる!また後でな!」
カエサルはそれだけ言って木を降りてどこかに行ってしまった。
「ほら、1人でぶつぶつ言ってないで降りてください。そろそろ私も怒りますよ?」
この先に試練が待っている!何としても突破しなくてはならない!
ルナはそう心に決意して、慎重に木を降りていった………




