森の長老
しばらく歩いていたが昨日と違って特に変わったこと何も起きなかった。お昼頃になったので適当なところで昼食をとることになった。またしてもザイルが食事の用意をするけれど、どこにあの食料を隠し持っているのかわからない。とても美味しいから構わないけれど…
「…なんです?」
考え事しながらザイルの方を見ていたら本人に聞かれた。
「いや、食事ってどこに隠しているのかなぁって思って…」
「ああ、これは別のところに用意してあるものをこちらに召還しているのです。貴女に使った召喚の簡易版です。物は生き物ではありませんから。」
「…ふーん。便利だねー」
魔法って相変わらず便利だなーって思って流そうと思ったけれど、これは自分が呼び出された理由が聞けるチャンスだと気づく!
「あの!ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」
勇気を出して二人に聞いてみる。
「ん?なんだい?」
「……?」
「ずっと気になってたんだけど、何で私はこちらに召還されたの?」
「……………………」
「…………………」
「……え?」
何故か答えない二人。やはりろくなことじゃないよね~
忘れかけていたけれど、逃げ出さないように特殊な首輪までされているのだから。しかし、これは聞かないとダメなことだと思う。
「…何で?」
もう一度聞いてみる。
そうしたらリチャードが目を伏しながら答えてくれた。
「君には悪いことをしているとは思うよ。けれどこれは決まりなんだ…許してくれなんて言わないよ。でも、僕たちは選択肢が他にはないんだ…ごめんね…」
謝るっいうことは、いいことじゃないってこと。
ザイルの方に説明を求めて視線を送ってみたら予想通りの答えが来た。
「貴女には生け贄になってもらうために召還したのです。」
「……そう」
予想はしていたとはいえやはりショックだ。
多少は仲良くなったとしても辛いだけかもしれない…
けれど、ただ殺されることを待つだけはしたくない!
「本当にごめんね…本来ならこの世界の誰かが選ばれる筈だったんだよ。」
「…それなら何故このまま私を生け贄にするの?」
「生け贄を選ぶのは私達ではありません。理屈はわかりませんが、世界の意思が選ぶのです。ですから、貴女が別の世界から来たのだとしても今さら変えられません。召還の義もいつでも出来るわけではないのですから。」
ザイルから話を聞いていたら空腹もいつの間にかなくなっていた。
すこし考えをまとめたくて二人の側から離れることにした。
「どこに行くんだい?」
リチャードがこちらを心配そうに見ながら聞いてきたが、答える気にならなくてそのまま痛みが我慢できる距離まで歩いた。
ちょうど大きな木があったの登ってみた。
「はぁ…どうしよっかなぁ……」
目を瞑り一人で呟いた。
「何をどうするのじゃ?」
……………そうとう疲れて混乱しているせいなのか幻聴まで聞こえてきた。
やはり落ち着かないと…精神を安定しなきゃなぁ……
「これっ!無視をするでない!」
おかしいな、まだ聞こえている。しかも少し不機嫌なような…?
「ほう…いい度胸じゃな?ワシの家に勝手に登りこんであげくの果てには無視をするたはなぁ…」
何だろう?なんか目を開けるのが怖くなってきたんだけど…
しかしこうしていては居られない…そっと目を開けてみた。
「………………………」
「………………………」
「………………?」
おかしいな、やはり幻聴だったのか?
周りには人らしきものはいなく、せいぜい可愛らしいリスがじっとこちらを見ているだけだ。
「小娘、何か言ったらどうじゃ?」
………………………え?
今もしかしてリスがしゃべった?
思わず目の前の小さな生き物を凝視する。
よく見たらこのリスはなかなか凛々しい顔立ちをしている。
リスにしては少し大きい気もする…実物はテレビや写真でしか見たことないが…毛並みも赤茶色でとてもさわり心地がよさそうだ。
「こ、こんにちは?」
とりあえず挨拶してみよう。魔法の世界なんだ話す動物もいるだろう…
「やっと返事をしおったか!おぬしは礼儀というものを知らんのか!?どれ程ワシを待たせるつもりなんじゃ!?」
…この小さな生き物は態度だけは大きいようだ。
「すみません。驚いてしまって…いい天気ですね。」
「天気の話はどうでもよいのじゃ!」
「はい。すみません…」
うぅ、リスに怒られてしまった。
「それで?ワシの家に勝手に登り、勝手に枝に座り込んでつまらん顔をしている理由はなんじゃ?」
「…え?」
「なんじゃ?また呆けおって…おぬし、大丈夫か?」
少し態度はでかいが優しいリスさんのようだ。
「えっと、心配してくれてありがとうございます。私は神凪ルナっていいます。あなたは?」
「ふむ、ワシはカエサルじゃ。この赤の森で長老をやっておる。それでおぬしはこんなところで何をしておるのじゃ?」
「……わたしは、これから生け贄になるために旅をしているんです。」
「……そうか、おぬしが…」
リスの長老さん、カエサルは私をじっと見つめたかと思うと、ささっと素早い動きで木にあった穴に入っていった。
木の中からカサゴソという音がしたかと思うとまたカエサルさんが穴から出てきて私に小さな皮で作られている袋を差し出した。
「ほれ、これを受けとれ!」
「?ありがとうございます。」
何なのかよくわからないがお礼を言って袋を受け取った。
中身を出したら小さな赤い実が掌に収まった。
「何をしておる?さっさと食すがよい。」
どうやら食べなくてはいけないらしい…
毒じゃなければいいがと思いながら口に入れた。
「…!?ん~♪美味しい!」
思わず笑顔になってしまうくらい美味しい!
びっくりしながらカエサルさんの方を見たら腰にてを当てて誇らしそうにどや顔でこっちを見ていた。………可愛いな。
「ふっふん♪うまいじゃろう?それはハルジの実といってとても珍しいのじゃ!食べたものが一番好きな味になる魔法の木からなる果実なのじゃ!元気になったじゃろう?」
「うん!ありがとう、カエサルさん!」
「うむ、礼が言えるのはいいことじゃ!ってどうしたのじゃ?!何故泣くのじゃ?!」
カエサルさんが突然慌てながら聞いてきた。
「え?」
気がついたら目から涙が流れていた。
「あれ?おかしいな…ぐす…別に…泣きたい…っ…わけじゃ、ぐす…ないのに…」
「………仕方ないのう、思う存分泣くがよい。我慢するでない…ワシが許す。」
そう言いながらカエサルさんさん私の肩まで登り頭に手を置いた。
こっちに来てから結局はずっと一人だった。話し相手がいても慰めてくれる人はいなかった!最初は外見を蔑まれ次は気がつけば逃げられないように首輪までされて、挙げ句の果てには死ねと言われたようなものだ。この世界に来てわたしは始めて優しい気持ちを向けられたのだ。
そう思ったら止めようとした涙は次から次へと溢れてきて、しばらく声を殺しながら泣いていた…………
やっと、新しいキャラクターを出すことが出来ました!




