中、間をとって
舞踏会は流石は王子のためのものと言ったもので、女性がこれでもかというほどいるのにまだまだ余裕をみせる大広間。ここまで来るまでの通路の花の数。シャンデリアだって初めてみる大きさで見とれてしまう。
それ以上に惹き付けられたのが豪華な食事。母の物言いたげな視線がなければ直ぐ様テーブルへ向かっただろう。
ああ、こんな場でなければ食べて食べて食べまくるのに。
「王子様はどこにいらっしゃるのかしら!」
「さあ……多分、人が群れ、……集まっているところじゃないかと。 奇せ、………歓声をあげてそうなところをみてきたらどうでしょう 」
食事に気をとられ過ぎて正直になって困る。王子探しをしてるアリーナは気にせず、わたしの言葉に頷いて王子を探しにいったが、母の物言いたげな視線が冷たい視線に変わっている。
「お母様、のどが乾きましたね。飲み物頂いてきますね」
「…………はぁ。そうね、お願い」
最後には呆れた視線に変わっていた。
あれはわたしなりの解釈で、
あの子はもう仕方ないわね、アリーナではないけれどアホな子だもの。本当、お義父様が死んでからというもの、やる気のなさに拍車がかかって………なんて、ね。
わたしなりの解釈どころか以前言われたことである。
母の好きそうな飲み物を適当に頼みながら、わたしは扉に近づいては少し離れてを繰り返した。
アリーナの王子探しも、母の相手も、豪華な食事も、わたしはそれよりもっと気にしていることがあった。
なかなか現れない我が家のシンデレラである。
やっぱり化粧やらなんやらで時間がかかるものなのだろうか。馬車での移動は確かに時間がかかったけど、王家の馬車ならすっ飛んできそうなものなのに。あのサラサラな髪は手入れなんか必要ないだろうし、あの肌一つ荒れていない顔はそれはもう化粧乗りも良いことだろう。さすがに荒れた手は手袋かなにかで隠してもらうとして、もう、早く来ないだろうか。
「……ここにいたんだ。なかなか見つからなかったから約束忘れられたかと思ったよ。アルスなんて怖いのなんのって」
「……え、」
壁にもたれ掛かっていたわたしの隣に彼は並んだ。
あの時のあの彼が………。
「なんで、いえ。……よく分かりましたね、わたしだって」
壁によく馴染んでるわたし同様に彼も何故か馴染んでいた。目立つような容姿ではないけれど、顔は整っているし、目を引く要素はたくさんあるのに。
何故、誰も話しかけない?
「ん? あー、いや、うん。あんま変わってないし」
それはそれで悲しい。
俯けばドレスが目に入った。
あんなにアリーナと母が頑張ってくれたのに、簡素なワンピースの時のわたしとあんまり変わってないと言われた。鏡で確認したけど普段と別人だったのに。
男の人から見れば変化ないのだろうか。
「……義妹なら、もう少しだと思いますよ。使用人や馬車の手配はそちらがされたんですから、遅い理由ぐらい把握してそうなものですけどね」
「あはは。まあ、そうなんだけどね。ちょっといろいろと手違いがあったらしくてね。ん? 妹なんだ、君が言ってたドレスの似合う子って」
「は、」
返事を変えそうとしたとき、扉の外が騒がしくなった。そして、頭の中を駆け回る嫌な予感。
ああ、これは、もしかするとするかもしれない。
「……きた」
わたしの声をかきけしたのは多くの絶叫。
シリィは確かにあのドレスを着てきた。しっかりとした足取りで堂々と歩く。その隣に何故かいるではないか、あの時の男が。王子が。
「やっと、到着か。アイツらしい到着の仕方だよ、本当」
お互いに手をとり、微笑みあってまるで昔から愛し合っているように、…………今日初めて会った感じがしない?
「君はこれからどうするのかな?」
「わたしは、……そうですね、わたしはどうなるんでしょうね」
何を言ってるのか分からないというような顔に少し笑えた。
ーーー結果オーライ。望みは叶った。でも、わたし達はどうなる? でも、シンデレラの通りにはならない。