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湿原の花園

作者: 光森 璋江

たぶん最終版です。

昼間の閑静な住宅街。


道幅も車一台通るのがやっとという狭さだ。


そんな狭い道を終業式が終わった女子高生が自宅に向かって歩いていく。


車にひかれないように道の脇を歩いていると猛スピードの白い乗用車が通りすぎた。


一歩間違えばひかれていたかも知れないくらいの勢いで。


「あっぶないわよ!!」


前方に消えゆく車に向かって怒鳴ってはみたもののどうせ聞こえてはいまい。


だが、言わずにはいられなかった。


「この道の制限速度なんて知らないんだわ。」


ぶつくさ言いながら帰り着く。


住宅街にある一軒の家に入っていく。


高階という表札のかかった門をくぐり、ポストの中身を確認する。


鍵を開け、荷物を自分の部屋に持っていく。


服をさっさと着替え、1階へと下りてくる。


さて、ゆっくり昼でも・・・と冷蔵庫の中を確認する。


「昼は私だけだし。好きなテレビかとり貯めたドラマでも見ようかな?」


携帯(スマホ?)をいじりながら


夕食のメニューを考えていた頃、ピンポーン!というチャイムが聞こえた。


何事かとインターホン越しに会話をする。


ちらりと映像から猛スピードで走り去った車のと同じような車が見えている。


手前に若い男が映し出されている。


いらっとしつつも接客スマイルで応対する。


「どちらさまでしょうか?」


「えっと・・・ほら。」


「なんで俺が?」


「ご用がないのなら・・・」


「あ・・・あります!!」


「ほら。」


おずおずとしている男が意を決して語った。


「高階奈津代さんのご自宅でしょうか?」


聞き覚えのある名を聞いてとりあえず玄関先で話を聞くことにした。


玄関先にいたのは先ほどインターフォンに写っていたの若い男が二人。


「母に何か?」


「えーっと・・・」


「前島英里子という人をご存じではありませんか?」


「いいえ。」


首を振る。


「母は今、父と一緒に海外にいまして。」


「「海外??」」


「この手紙を見てほしいんです。」


一人の男が手紙を差し出す。


「ここの住所ですね。差出人の名前も高階奈津代(旧姓:浅岡)となっていますね。」


「あ・・・あの・・・確かに母の旧姓は浅岡ですが。」


「手早く申し上げましょう。お母様の若い頃のアルバムを持ってきてほしいのです。」


もう一人の男に言われるがまま一冊のアルバムを持ってきた。


「これですが。」


「拝見させていただきます。」


ぱらぱらとめくっていく。


「これだ。ほら。」


手紙の中から出てきたのは若い頃の女子高生の母親と見知らぬ女性。


アルバムにも同じ写真があった。


聞くところによるとその昔ある湿原で仲良くなったらしい。


記念写真を撮ったものの、学生生活などで写真を送れずじまいになっていたらしく伝を頼って住所を調べ結婚してすぐ、写真を送ったらしい。


そして、ある事情から手紙をどうにか引っ張り出してきたという。


「すみませんが、母がもうじき手術をするので、見舞いに来てほしいのです。


どうしても会いたいとしきりに言うもので・・・」


「無理です。1年ほど帰ってきません。今すぐに母を呼び戻すとなると・・・」


どうする?と男二人で話し始めた。


程なく、結論がまとまった。


「なら、君が。それしかない。」


「・・・え?」


「「お願いします!どうしても!!」」


初対面の若い男二人。


怪しい。


「頭を上げてください。家族に相談して返事をします。ですから連絡先を教えてください。」


この日は明言を避けて連絡先を聞き出してお引き取りいただいた。


その日の夜、母親に電話してみたがつながらず、留守電にメッセージを入れて切った。




翌日、高階家の固定電話が鳴った。


すかさず女子高生がとった。


「もしもし?あ、お母さん。昨日ね、うん。そうなの。どうしたらいいかしら?」


「みくり?どうしたの?」


「あ、お母さんと話!」


「そう。後でかわって!!」


「うん!」


「あ、ゆき叔母さん。そう。お母さん連絡してくれるの?


わかった。じゃ、ゆき叔母さんにかわるね。」


その後1時間近くもの間長電話となった。




「何の電話?」


「昨日の。留守電に入れてたから。」


「あー。昨日話してたあれ?」


「そう。どうしたらいいかなって。」


「よくわからないし、怪しいわね。」


「でしょ?」


「すぐに返事をしなかったのは賢明ね。」


「ちかちゃんにもこの話したけど行かない方が良いって。」


「そうだね。」


「相当、ひどい手術なのかな?」


その翌日、また高階家の固定電話が鳴った。


「あの二人は確かに友達の家族だったわ。うん、ちょうど休みだし今週末言ってきなさい。あ、お見舞いも忘れないでね。私の代わりなんだから。」


という行ってこいの電話を受け取り、気が向かないものの行くことになった。




指定された病院の待合室で待っていた。


二人は連れだって歩いてきた。


「あの・・・」


「気を遣わせちゃったみたいだね。」


春らしいスカート姿に花束を抱えて待っていた。


「母から確認されましたよね?」


「うん。じゃ、案内するよ。」


一人はちょっと気まずそうな顔をしつつ。


二人の後をついて行くことにした。




コンコンとある病室のドアをたたいた。


「はい。」


ドアを開けた。


ベッドは複数あり、奥に一人の女性がベッドで横になっていた。


「失礼します。」


3人は女性の近くに歩み寄る。


初めて見る女性は疲れているように見えた。


「まぁ。貴女・・・お母様にそっくりねぇ。」


「初めまして。高階みくりと申します。母のお知り合いの方だそうで・・・」


「えぇ。ひとし君と佑輔から話は聞いたわ。なっちゃんも忙しいのねぇ。」


「お加減はよろしいのでしょうか?」


腕に点滴がつながっておりベッドから起き上がることはできないらしく顔だけ女子高生の方を見ている。


「えぇ。手術も無事に済んで。全く二人は・・・私は盲腸で入院しているのよ。


それなのに、大病を患っているような振る舞いをして。本当にごめんなさいね。」


「花をお持ちしました。」


「佑輔。受け取って。」


佑輔と呼ばれた男がぶっきらぼうに花束を受け取った。


「花・・・ね。おもしろい話があるのだけれど聞きたい?」


ベッドで横になっている女性が笑いながら話して聞かせた。







数年後。


数年前の一件により再び交流を持つことになった二組の家族。


海外から帰ってきてからは時々母親同士であっていた。


思い出の湿原に連休を利用してやってきた。


そこには様々な湿原に咲く花々が咲き乱れており、湿原の花園と呼んでも過言ではない美しさがそこにはあった。


「これよ。これがみくりって言う植物なの。」


「わぁ。小さい~」


木道の端にしゃがみ込んで小さな栗のイガのような花を愛でる母子。


そこから少し離れたところで別の母子が語り合っている。


「この花はゆうすげというの。貴方の名前はこれから取ったのよ。」


黄色い百合のような花を指さしている。


「なんで、最後だけに"ご"って濁っているんだよ。」


「良いじゃない。小さいことだわ。」


そんな二組の親子が歩きながら楽しそうに話している。




「ここで約束したの。女の子が生まれたらみくりってつけよう。男の子が生まれたらゆうすげってつけようって。」


「でも”げ”じゃあんまりだからゆうすけのほうがいいっていってたのよね。」


「うん。お互い女の子同士、男の子同士生まれてもこの名前にしようって約束したのよね。」


「覚えてる?」


「もちろん。覚えているわ。」


大学生の頃、サークルの合宿で湿原近くに宿を取っており時間が空いたときに訪れていた。


そこでの約束を二人は覚えていて高階奈津代は娘にみくりと川中英里子(旧姓:前島)は自身の息子に佑輔と名付けた。




「また来たいわね。」


「えぇ。」


さわやかな風に吹かれながら笑い会う二人の女性。


子供達が早く早くとせかしている。

登場人物


高階みくり・・・高校生。今は両親が海外にいるため一人暮らし。

高階奈津代・・・みくりの母。

高階氏・・・みくりの父、奈津代の夫。

高階ゆき・・・みくりの父の妹。一人日本に残った姪と一緒に生活している。


川中佑輔・・・ある理由で奈津代を捜していた。高校生。

川中英里子・・・佑輔の母。


前島均・・・英里子の甥。スピード狂のところがある。社会人。


*昔、とある湿原に行ったときに構想がわき短編で書き上げました。


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