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第三十ニ話 「島の侵入者」

 その男はため息をついた。どこまでも広がる大海原に嫌気がさしたのだ。元来、船酔いし易い体質であったというのも、彼の苛立ちを増長させる要因の一端になった。穏やかな波、一天を占める青藍、清々しい程の晴天であるにも関わらず、彼の気が晴れることはなかった。


「うーん……もう船で移動するのはごめんだね……」

「ははッ! 悪いな兄ちゃん、島に行くにはこの小さい船しか方法がないんだからよ。ちいとばかし我慢してくれよ」

「はいぃぃ〜……、少し外の空気を吸ってきます」


 観光地にあるようなフェリーでも孤島に行き来するために使われるような連絡船でもない。どちらかと言えば小さな漁船のようなクルーザーだけが()()()に行くための唯一の手段なのである。

 乗船しているのは、元気の良い操縦士の男を除けば船酔いしている青年が一人だけだった。他の乗船客がいないのも無理はない。島への連絡船は三日に一本、その上入島するには乗船前に様々な手続きが必要であり、正当な理由なしではその地に踏み入ることができないのである。

 その男が甲板に出て深呼吸をすると、水平線の向こう側に島の影がぼんやりと見え出した。それこそが魔法島であった。

 そもそも魔法島というのは俗称であって、正式名称ではない。その島には名がなかった。八年前、世界に突如として姿を現したその島は未だに国として認められていなかった。魔法という未知数の概念が当たり前に存在するが為に決めかねているのである。その上、魔法島には政治というものが存在しない。外部とのやり取りは、数少ない公共機関に類する高等教育機関の校長先生が務めいていた。これらの要因が重なり、公的な名称がないのである。


()()()ねぇ……。 気合い入れていかなくちゃだよね!」


 その男は両手で顔を景気良く鳴らしながら叩いた。

 直後、船は波に煽られて大きく揺れた。ゆっくりとした縦揺れに負けて、吐き気を催していた。


「おえええぇぇぇぇぇぇ!」


 その男の名は、ロドルフ・ジェミニス。医者を生業とする島の魔法使いである。





「はぁ〜……、もう二度と乗りたくないな……」


 島に到着し、潮風に当てられながら海岸沿いを歩いていた。船は街の近くの港に泊まるのだが、ロドルフは街には向かわず遠ざかるように足を進めていた。


「にしても遠いな、ちょっと休憩〜」


 腰の位置くらいの高さの岩を見つけ、休憩をとるロドルフ。海岸と言えど砂浜などは一切なく、大小様々な岩石が無骨に並んでいる。この島に元より浜辺などなかったのだ。島一帯が岩石海岸となっているのである。


「やっぱ砂浜とか欲しいよな〜。どこに行っても同じような景色だしな〜」


 ロドルフが水平線を眺めながら愚痴を漏らしていると、


「じゃあ、そういう所に引っ越して暮らせばいいんじゃない?」


 突然の声に驚き、ロドルフは振り返りその主を見てさらに驚いた。


「アルフィー!? こんな所で何してるのさ!」


 ロドルフがアルフィーと呼ぶその青年は、気付かれぬ内に音もなく背後に現れた。灰色の髪に黒い瞳。爽やかな笑顔の佇まいからはロドルフとは真逆の印象を与える、落ち着いた雰囲気の青年だった。


「島に帰ってきたのがわかったんでね。迎えに来た」

「直接会うのは何年ぶりかな? 本当に久しぶりだね! 元気にしてた?」

「もちろん。ロドの方こそ病院勤めで疲れてるんじゃない? 昔より元気がないように見えるけど」

「そりゃあ、激務だからね。でももう辞めたんだ」

「え? そうなの?」

「うん、島の病院で働こうと思ってね。じゃないと二度と会えなくなるだろう?」


 ロドルフのその一言で青年は神妙な面持ちになった。


「……ごめんな。オレのわがままに付き合わせてしまって」

「そんな謝ることじゃないよ! どっちにしろいつかは戻ってくる予定だったし! ここで立ち話もなんだから早くアルフィーの家に行こう! そのつもりで来たんだからね」

「……そうだな、ありがとう」


 南の港から西へ海岸沿いに歩いて約一時間。青年の家はそこにあった。港や東部にある街より田舎、というよりも本当に何もない丘の上に佇む質素な家。何もかも不便であるはずの場所で青年は暮らしいてた。


「ただいま」


 青年が平家の小さな家の戸を開ける。

 中からは誰の返事もなかった。


「あれ? ルルちゃんは出掛けてるの?」と、ロドルフが訊いた。

「今日はミラさんと街の方に出掛けてる」

「そうなんだ。じゃあなんで、ただいまーって言ったのさ? 二人で暮らしてるんでしょ?」

「あー、そうだな……癖になってるんじゃない?」

「また適当な……」


 掴みどころがない回答に呆れるロドルフ。


「とりあえず座りなよ。冷たい紅茶でいい?」

「ん、お願い」


 青年が奥のキッチンから二人分のグラスを運んで来る。

 リビングにあるのは二人分の椅子と小さなテーブルのみ。二人はそれに腰掛けた。

 気温が高いこの時期に外を一時間も歩けばそれなりに喉が渇くだろう。ロドルフは一口でグラスの半分程の紅茶を喉に流し込んだ。


「それで、島にはどれくらい滞在する?」

「数日したら一度戻るよ。引っ越しの準備もあるからね」

「そうか……。それならオレの転移魔法を使うと良い。その方が早いだろ?」

「いいのかい? 助かるよ。でも、まだこっちの家を決めてないからね」

「ん? 実家じゃダメなのか?」

「まあ、親の反対を押し切って島を出て行ったからね。今になって家に住まわせてくれ、って言ったらなんて言われるか……」

「はは、たしかに。引っ越し作業はこれを使うといい」


 そう言うと、青年は何も掛けられていない壁に向かって円を描くように、指を回し始めた。

 すると、壁に人が通れる大きさの穴が空いた。穴の向こう側は赤黒い空間が広がっている。


「この転移魔法はどこと繋がってるのさ?」と、ロドルフが訊いた。

「お前が船に乗る前の港」

「ええ! あそこに繋がってるの⁉︎ じゃあ僕がわざわざ船で帰ってくることなかったじゃん!」


 ロドルフは立ち上がり、テーブルを両手で強く叩いた。


「うん? まあ、そうだな」

「言ってくれれば船酔いせずに済んだのに……」


 大きく項垂れるロドルフ。


「しょうがないだろ。帰ってくるなんて知らなかったし。それに今日、迎えに行けたのだってオレのセンサーに引っかか……って……」

「いやまあ、分かってるけどさ。なんかこう、色々と無駄にした感じがね、するから余計に――」

「静かにッ!」


 突然、青年が大きな声をあげた。青年は立ち上がり、怪訝そうな表情になっていく。


「ど、どうしたんだい? そんなに慌ててさ」

「侵入者だ。数は……四、いや五人か。島の北東から船で移動しているようだ」


 青年の持つ何かの魔法でまだ海上にいるであろう謎の集団の気配を感じ取っていたのである。


「北東の海岸。ここからちょうど街を挟んだ向こう側だね」と、ロドルフ。

「ああ、すぐ向かおう。空で行く」

「了解――って、飛行魔法で行くの? 転移魔法じゃ駄目なの?」


 外に向かおうとした青年を制止させ、疑問に思うロドルフ。


「北東の海岸だぞ? そんなとこに転移してもし姿を見られたどうするの。ほら、さっさと行くぞ」

「そりゃそうか。アルフィーの言う通りだね」


 島の北東に位置する海岸には文字通り何もないのだ。そこは切り立った崖があるだけで本当に何もない。危険なので誰も近付かない上に、利用価値もない場所だった。


「よし、森を抜けて行くからな。ちゃんとオレの体に掴まってろよ」


 外に出て魔法をかける準備をする青年。ロドルフに飛行魔法は使えない。必然的に青年の魔法で一緒に飛ぶことになる。そのような事は最初から分かっている事だった。分かってはいたが、


「えぇー! 北の森を抜けるの⁉︎ なんでわざわざ険しい道を選ぶのさ!」


 ロドルフは、飛行経路に文句を垂れていた。


「仕方ないだろ。街の上空を飛べば騒ぎになるし、森の上空を飛んでいけば高度が高すぎて侵入者に見つかる恐れがある」


 終始冷静な青年は淡々と説明しながら何か幾何学的な模様がいくつか施された外套を羽織る。


「それに、海岸は森を抜けたすぐ先にある。身を隠しながら様子を見るにはちょうど良い」

「そうか、確かにそうかも。でも、でもさ……森の中を飛ぶってことはつまり……」

「だから言ったろ? ()()()()()()()()()

「――ッ!」


 青年はロドルフの抱き抱え、一メートル程浮き上がったと思えば、瞬時にその場から姿を消したのだった。


「うわぁああああああああああああ!」


 高速で飛行する友人に必死になってしがみつくロドルフ。その速度は時速にして三〇〇キロメートルを超えていた。


「早いッ! 早すぎるよ! 新幹線じゃないんだから! そんなスピード出したら危ないよ!」

「何ィー? よく聞こえないなァ!。音速は超えてないから大丈夫だろ?」

「いやぁああああああああああ!」


 青年の宣言通り、北の森を低空飛行で進んでいく。速度は平地の時のまま変わらず、木々の隙間を縫うように飛んでいた。

 森に突入してから約五分後、青年は飛行速度を徐々に落とし、手頃な茂みに身を隠した。


「やっと着いたかいぃ〜?」

「静かにッ! もう上陸しているかもしれない」


 高速飛行に疲れたのかロドルフは目を大きく回していた。

 青年が茂みの隙間から覗いたその先に森はなく、崖の海岸が左右に続いていた。

 そこで息を殺して待つこと数分、何者かが崖をよじ登る音が響き渡ってくる。


「誰か来る……」


 いつの間にかに平生を取り戻したロドルフと共に、青年は固唾を飲んでその様子を窺っていた。


「視界良好。大丈夫だ、上がってこい」


 まず一人、崖を登り周囲を確認した後、他の仲間に登ってくるよう促していた。家で青年が言っていた通り、計五人が島に不当に侵入して来たのだった。


「服装からするに、密猟者ではないな。どこかの軍人のようだ」


 その侵入者たちは私服のようにラフな格好ではなく、厳重に武装した軍人の様だった。

 仲間内で何かを話しているようだが、青年にはその言語がわからない。


「アルフィー、これ英語だよ。発音的にアメリカ英語だね」

「つまり、アメリカの軍人の可能性が高いってことだな」

「どうする? 奴らを捕まえる?」

「いや、どんな通信手段をもってるかわからないし、五人とは言え戦力を測る術がない。ここは姿を見られずに島から追い出す方法を考えよう」

「追い出すって……、転移魔法で島の外にでも飛ばすつもりぃ?」


 ロドルフは冗談まじりに訊いた。


「もちろん、そのつもり」


 打って変わって冷静な青年に驚きを隠せないロドルフ。


「えぇ⁉︎ 随分と用意周到だね?」

「当たり前だろ? 備えて損はないからな。それより問題は、島の外に飛ばす出口の方は準備してあるけど入り口がない」

「え、ってことは……」

「今から入り口を作って出口と繋げなきゃいけない。ロドにはそれまでの時間稼ぎをしてもらう」

「わかったよ。で、どうやって時間を稼ぐ?」

「そうだな、具体的には――」





 島に侵入した武装集団は船から粗方の資材を降ろした後、初めに上陸した男が口を開いた。


「リーダー、準備完了ですぜ。さっそく動きます?」

「そう焦るな。我々は戦地に来たわけじゃない。今回の任務はただの情報収集。ゆっくりとやれば良い」

「そうだぞハング。今回は特に目立ってもらっちゃ困るからな、大人しくしてろよ」


 リーダーと呼ばれる男に続いて、やや背の高い、低い声の男が若き青年に釘を刺した。


「なんだよ、ジャス! それじゃ、いつもオレが問題ばかり起こしてるみたいな言い方じゃんか!」

「うん? そう言ってる訳だが?」

「んだと⁉︎」


 声を荒げるハングとそれを煽るジャス。この光景はリーダーを悩ませるタネの一つであった。


「二人ともいい加減にしなさいよね。任務中なんだから仲良くしなさいよ。ほら、テンペもそう思うでしょ?」

「ん、……ボクはどっちでもいい。任務がこなせれば何でも」


 残りの二人。唯一の女性と小柄な男性であった。


「エレス、オレはこいつの口が悪いからそれを直してあげようと思って――」

「はいはい、そこまでね。続きは帰った後にしてちょうだいね。テンペもそう思うでしょ?」

「別にボクはどっちでも――」

「ほら、テンペも仲良くしろって言ってるわよ。ね?」

「うぐ、………すんませんでした」


 ぐいぐいと来るエレスの圧にやがて負け、ハングは素直に頭を下げた。


「さて、二人が仲直りしたところで、……どうする? リーダー。見られてるようだけど」


 エレスの口調が急に鋭くなり、その場の緊張感が増す。


「そうだな。数は二人ってとこか。いずれにせよこちらから仕掛けることは許可しない。島の住民に危害は加えられん」

「了解。こっちの目的を完全に悟られないよう気づかないフリをするってことね」

「ん、……専守防衛か。ボク達らしくないね」

「他人の領域に侵入しておいて専守防衛とは中々に矛盾してるんじゃねーの?」

「上からの命令だ。従う他あるまい」


 リーダーと呼ばれる男が船から降ろした荷物を二つに分け始めた。


「これからは二手に分かれる。ハング、ジャス、エレスが島の中心街に接近し、情報収集。残りの私とテンペは島全体の調査と有事の際の後方支援だ。何か意見のある者は?」


 四人は黙って相槌を打った。


「よし、それでは作戦開始――」

「ちょっと待って、リーダー。様子が変よ」


 景気良く号令を掛けようとしたリーダーをエレスが遮った。


「霧か……? さっきまでは晴れていたと言うのに……」


 ものの数分までは快晴であったが、五人が気が付けば辺りは徐々に霧が立ち込め始めていた。


「敵の煙幕か?」とハング。

「いや、間違いなく霧だ」

「でも、ジャス。それって変じゃない? この周辺の気候で急に霧が出てくるなんて可笑しいわよ」


 三人が困惑する中、テンペがある結論に辿り着いた。


「なるほどね……。これ、魔法だよ。魔法で出来た霧なんだ。証拠にほら、この島自体が強い魔力を帯びていたから分かりにくいけど、まるで濃い魔力が漂っているような感覚がする」


 テンペに言われ、四人は周囲に意識を集中させた。


「確かに、テンペの言う通りだな」

「へぇー、こんな魔法もあるんだ」と、ハング。

「お前は何呑気に関心してるんだ。どういう状況か分かってるのか?」

「言われなくても分かってるよ、ジャス。攻撃されてる

ってことだろ?」

「そう、だがこちらからはまだ手は出すなよ。直接何かされた訳じゃない」

「えぇ⁉︎ リーダー本気で言ってんの?」

「ああ、大真面目だ。ほぼ確信しているが、相手に攻撃の意思はない」


 話している内にも霧は濃くなりつつあり、五人は徐々に互いの距離を詰めて身を寄せ合う形になる。

 それぞれ背中を預けるようになると、遂には一寸先も見えぬほどの濃霧が周囲を漂っていた。


「どう言うことだよ、リーダー?」と、ハングが訊いた。

「簡単な話だ。我々を見張っている者達は、ここに我々が登ってくる時に既に身を潜めいた。初めから危害を加える気があるのならば魔法でもなんで使って崖を登らせなくすれば良い。それをしなかった時点で攻撃をするつもりは無かったと言うことになる」

「な、なるほど〜……」


 ハングはまた、緊張感もなくリーダーの考察に関心していた。


「さて、問題はここから何を仕掛けてくるかだが――」


 次の一手を予測する前に、突如、それは起きた。


「なッ⁉︎ これはいったい――」


 五人を襲う浮遊感。

 足をつけていた地面はなくなり、体は自由落下を始めていた。


「くそッ! 間に合わないかッ!」


 リーダーが穴の縁に手を伸ばすものの、それが届く事はなかった。

 抵抗も虚しく、五人は地面に空いた赤黒い空間が広がる穴に落ちていった。

 落下して数秒、不気味な空間を漂ったかと思えば、突如視界が広がり、大海原の水平線がどこまでも続いていた。


「どうなってやがる? オレたちは確かに島に上陸して、霧が濃くなったと思えば海の上に逆戻り……」


 ハングの言う通り、五人は乗って来た船で海を漂っていた。

 四人が困惑する中、唯一人だけ、リーダーと呼ばれる男は薄ら笑みを溢していた。


「重畳だ。これが本場の魔法って訳だな。十分だ、帰還しよう」

「マジで⁉︎ オレたちまだ島で何もしてないけど?」

「ああ、問題ない。一連の現象は映像記録として残してある。それに、この人数でまた上陸しても同じ結果になるだけだ」

「でもよぉ……」

「ん、……ボクはリーダーに賛成。対象に瞬間的に移動させる魔法。船も一緒に飛ばしてくれただけでも感謝しないとね」

「……そうね、その気になれば私達を生身のまま海に放り出すことも出来た。でもしなかった。ここは大人しく引き下がるのが良さそうね」


 ハングは渋々だが、納得したように、


「ちッ、わかったよ。あーあ、せっかく楽しめると思って来たのになぁ!」


 ハングはわざとらしく天を仰いで声を荒げた。


「街に潜入したとしても、お前に何か出来たとは思えんがな」

「なんだと? ジャス、いい加減なこと言ってんじゃねぇぞ!」

「事実を言ったまでだが?」


 またしても二人は子供のような口喧嘩を繰り広げる。


「はぁ、……まったくもう……」


 彼女は頭を抱えて呆れた目を二人に目をやる。

 一方で残りの二人は先程の魔法の映像を小型のモニターで確認していた。


「自由人ばっかね、ほんと……」


 勝手がすぎる面々に頭を悩ませる。

 彼女にとってはいつものことだった。





 時は少し遡り、灰色の髪の青年とロドルフはある作戦を実行した。


「なんとか上手くいったね」


 目の前の武装集団を島の外へと追いやったことで安堵の息を漏らしていた青年にロドルフが声をかけた。


「ロドのおかげだ、ありがとう」

「いや、僕は魔法で霧を作っただけだよ」

「その霧によって奴らが転移魔法の存在を察知されずに済んだ」

「それで、奴らは今頃海水浴でも楽しんでるわけ?」

「それはない、乗って来た船と一緒に転移させた。懲りて帰っている所だろう」


 ロドルフが崖の下を見れば、船らしきものはなく、件の集団がいた痕跡は何一つなかった。


「お人好しだなぁ」

「これでいいんだよ。それより、今日はもう帰ろう。ルルももうすぐ帰ってくる頃だろう」

「そうだね。……まさか、帰りも飛んで行こうとは言わないよね?」


 ロドルフは青年に訝しげな眼差しを向けた。


「いや、流石に転移魔法で帰る。……もしかして来た道で帰りたかった?」

「ぜっ、たいに嫌だ!」


 ロドルフの渾身の叫びは波風の音と共に掻き消された。

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